【閲覧注意】齢(よわい) ⚠️虐待・自殺に関する内容が含まれます⚠️
勾人は、父に呼び出された。
夜の暗がり、計里の館の一室に押し込まれると、外側から鍵をかけられる。
渋々、阿諛と向かい合う。
勾人は相手を見下ろし、眉をひそめた。
「オマエ……歳なんか誤魔化すなよ。言ってやめさせて貰うから」
阿諛は手を上げ、必死に否定する。
「イヤイヤ、ほんとだから。
成終月の生まれなんだから、しょうがないじゃん」
勾人は唇をわずかに曲げ、微かに笑った。
その笑みは、決して和むものではなく、どこか暗い光を帯びていた。
古代人においては、見た目と社会参画こそが成人の証。
学校もない。少し大きくなれば、すぐ働く。
精神など、後からいくらでもついてこよう。
立場が人を育てるとは、よく言ったものだ。
阿諛と勾人も、数え年では二歳差。だが、見た目の差は歴然で――
彼らの間に漂う空気は、淡く、しかし確実に残酷だった。
勾人は視線をそらし、深く息をつく。
「……ま、いい。とにかく始めるぞ」
夜は静かで、しかし館内の壁が二人の影を長く引き伸ばしていた。
彼らの行く末を、外の誰も知らない。
一日目、互いに触れた。
二日目、冷たかった。
三日目、暖かかった。
時間だけはあったから、色々な話をした。
明くる日の朝ーー父が、満面の笑みで襖を引く。
「よし、完璧じゃ! もう立派な男じゃのう!」
勾人は崖の端に腰掛け、冷たい風に足をぶらぶらさせる。
下の海は黒く荒れ、波しぶきが白く弾ける。
――阿諛は、あの時どうだったか。
その手で、世界を焼き尽くす火を灯し、父を失わせた。
自分と、あの子は鏡写しだった。
けれど、あの時、誰かが立ち塞がった。
生き延びた阿諛。
自分は……誰も来なかった。
「オマエ、やっぱ誤魔化すなよ! 言ってやめさせて貰うから」
ふと思い出す、あの日の小さな口喧嘩。
阿諛は必死に否定していた。
「イヤイヤ、ほんとに大丈夫だから!
成終月の生まれなんだからーーしょうがないじゃん!」
見た目の差は歴然で、でも、あの子は生き延びた。
自分は――この手で全てを灰にした。
誰も止めてくれなかった。
水鏡の向こうで笑う影を見つめ、胸の奥で小さく笑った。
――さあ、これで終わらせる。
背後からは、敵兵の声。
「居たぞー!!」
振り向くことなく、勾人は崖から飛び降りた。
海面に波しぶきが上がり、夜の風が吹き抜ける。
世界は灰になり、母を死なせた者たちへの復讐は、完成した。




