【閲覧注意】絶望 ⚠️自殺に関する内容が含まれます⚠️
夜明け前の海風が、冷たく計里の館の周囲を吹き抜ける。
霧が白く視界を覆う中、
河鹿率いる連合軍は、静かに進軍する。
蓮角氏兵、両属朝兵、そして阿諛、匪躬、みつち。
総勢は数にして計里氏側を上回るが、
計里勾人の籠もった眼光は、館内の最上階で、それを見つめた。
「時機が来た。行くぞ皆の者!」
河鹿の短い号令とともに、連合軍は屋敷周囲を制圧し始めた。
矢じりが飛び交い、屋敷の防壁を叩く音が霧に響く。
計里氏兵は抵抗するが、数と経験に勝る連合軍の攻撃に、徐々に押されていく。
匪躬は歩兵を指揮し、息の合った動きで屋敷前の敵を撃退。
阿諛とみつちは後方で、物資と援護で兵を支え、士気を保つ。
屋敷奥では、勾人の実父・計里氏や、その妻子達が震えていた。
天媛は背後に彼等を庇い、勾人に対峙する。
勾人は、ほくそ笑んだ。
「なにをしようと無駄ですよ……天媛……」
河鹿は冷静に館内を進む。廊下の曲がり角へ差し掛かる度に目を光らせ、部屋という部屋で、天媛の所在を確認する。
やがて斥候が声を上げた。
天媛は階段下で倒れている。
だが、敵の罠かもしれない。
「天媛、もう少々お待ちを!」
斥候が階段を駆け上がり、安全を確認しようとした。
ーー次の瞬間。轟音と共に火花が散った。
河鹿はとっさに、天媛へと覆い被さった。
彼女のうめき声にほっとした。
よかった、まだ息はある。
髪の焼ける匂い。
轟音は連続して、数えるどころではなかった。
やがて音は止んだ。
「……天媛、天媛、どこかお加減が?」
「河鹿……」
天媛は手の甲を擦りむいていた。
脚も挫いたらしく、河鹿は天媛を背負って館内を脱出する。
「すまんなあ……階段から突き落とされたんや」
計里氏一族は全員爆死。
勾人は崖から飛び降りて自害していた。
夜の海風が吹き抜け、遠く荒波の音が響く。
河鹿、阿諛、匪躬、みつちは、静かに息を整える。
勝利はしたが、心に刻まれた戦いの爪痕は深い。
「天媛、よくぞ……よくぞ生きておられました」
河鹿は天媛に抱きつくと、思わず涙が溢れた。
天媛の瞳に安堵の光が戻る。
だが。
さざ波に残った勾人の影が、静かに、しかし確実に――未来の警告のように響く。




