侍女
これ以上かかずらっても得るものは何も無い。英賀手は一旦狩りを諦め、媛達の居住区画へ足を踏み入れた。
「あらあ、英賀手ではないの。たった一人で嫁いで来るなんて、ご実家は大丈夫なの。お伴の一人も付けて貰えないなんて……可っ哀想に。没落寸前ね」
「お久しぶりですこと。管媛のお気遣い光栄です」
まったく厭になる。これから毎日顔を合わせなくてはならないのか。おそらく一番良家の出だからと、今後も何かと張り合ってくるに違いない。
「ひええ、管媛。用意ができましたが……あの、本当によろしいのですか」
そこへ気弱そうな侍女が、何やら手荷物を抱えながら話しかけて来た。
「参るに決まってるでしょ。そうだ、英賀手もおいでなさいよ」
どうやら拒否権はないらしい。渋々後ろを着いて歩くと、途中明らかに侍女がかんぬきをこじ開け、黄色い大輪の花畑に入り込んだ。
「試しに育てさせているというけれど。中々どうして見ごたえあるではないの」
管媛は侍女に命じて花を手折らせた。差し出されたに花束に顔を近づける。
「なあんだ、全然香りのない」
「おい、ここで何してる」
これは不味い事になった。まさか長上に出くわすとは。でもあちらはあちらで、休まずうろついて良いのだろうか、寝着に羽織っただけの格好で。
「キャーごめんなさい、ごめんなさい。あんまり綺麗だったから、ついお花を採りました」
騒いでいるのは侍女一人だけで、英賀手は管媛と顔を見合わせた。
「おまえ……確か兄が居たよな」
「へ。兄をご存知なのですか、あわわわ、どうかご勘弁ください。全部あたしが悪いんです~」
身内へ累が及ぶかも知れないと、侍女はとうとう泣き出した。
「ふうん、健気だな」
そんな侍女ごときの涙を長上が拭い出して、英賀手はびっくり仰天した。
「うふふふ、気に入られちゃって。ごめんねえ、英賀手。侍女なんかにまで先を越させて」




