争いの終結者
阿諛は太母から預かった牝鳥を抱えて水路を渡り、
円理貴族、有濡氏の領地・水源郷へとたどり着いた。
風は冷たく、草の匂いが鼻をかすめる。
胸の奥で、先日の作戦会議でみんなと決めた内容が、静かに重くのしかかる。
「……行かなくちゃ」
自分に言い聞かせるように、阿諛は牝鳥の羽をそっと撫でた。
「男梅が、ただの鳥ではないことを、あの領主に理解させる」
有濡氏の邸に着くと、驚きと共に迎え入れられた。
「幇間衆!? なぜ私のところに、太母から賜った鳥を届けに来たのだ?」
阿諛は軽く頭を下げ、「幇間衆?」と内心首をかしげながら答える。
「いいえ、違います。
私は太母の使い。……そして、個人的にお話ししたくて参りました。
単刀直入に申し上げます。
有濡氏、円理朝を離脱し、私と新王朝を建ててください。
両属地は貴方に差し上げます。かはそに朝を打倒するのです」
有濡氏は少し間を置き、眉をひそめた。
「……詳しく聞かせ給え」
阿諛は深く息を吸い、先日の川岸の夜を思い返した。
毛濔の助言、河鹿の医療リスクの話、門客たちのサポート……すべてを組み合わせた作戦だ。
「太母の男梅は、絶対ではない。
十和様は、ムチュコタンを産まずとも、
政治と交易で、国力を高められるお方です。
そして有濡氏。あなたのお力添えで、私は両属地争いを終結させます」
有濡氏は阿諛の目を見つめた。
その瞳に、ただの野心ではない、確固たる信念を読み取る。
次第に有濡氏の眉の険は和らぎ、口元が微かにほころぶ。
「……なるほど、そなたの言うこと、一度聞いてみよう」
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太母は屋敷で眉をひそめ、阿諛達と有濡氏の進言を聴く。
「ムチュコタンが居ないと……十和の権力は盤石じゃ……」
しかし阿諛の説得、河鹿の医療リスクの話、門客の補足知識に、少しずつ考えが変わっていった。
十和もまた、朝議室で静かに新たな道を見つめる。
「有濡のおじさんはともかく……あんたら誰よ?
まあいいか……私の人徳ね♪」
十和は胸の奥で、政治と交易で国力を固める選択肢を、徐々に受け入れる自分を感じた。
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両属地のかはそに朝陣営では、匪躬が目をまん丸くし
「門客ばっかりズルいぞ!?」と声をはり上げたが、すぐに寝返りを受け入れる。
亜久里指揮下の蒿雀氏は、ひとまず戦闘を中止し、かはそに朝に判断を仰ぐ。
天媛の裁可により、亜久里たちは兵を引き、蒿雀氏の軍勢は、血盥渓谷へと帰還した。
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有濡氏領地と両属地は、新たに阿諛と有濡氏の両属朝として建国される。
円理朝の全面バックアップのもと、交易が開始され、国は豊かに繁栄していく。
阿諛は、かはそに朝首都までに点在する、各領主を個別に説得した。
最初は反発も大きかったが、やがて両属地争いよりも、交易による相互補完の方が、国家利益が高いと理解する者が増えた。
また単純に、阿諛という男の信念と覚悟に、いつしか寝返る者も現れた。
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小屋や道端、城門を渡る度、阿諛の胸の中には冷たい炎のような決意が燃えていた。
「これで、十和様に花を持たせられる」
その想いが、両属朝建国の軸となり、静かに、しかし確実に、新しい国家の礎を形作っていった。




