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兆し
掛け合わせから5日後。
阿諛が巣を覗くと、牝鳥は巣の隅で丸まり、尾羽だけが小刻みに震えていた。
「太母……様子が……」
太母は膝をつき、羽をそっとかき分けて腹部に手を差し入れる。触れた瞬間、眉がわずかに寄る。
「張りすぎじゃ……卵が深い。高齢ゆえの兆しよ」
牝鳥は小さく鳴き、翼の付け根も微かに痙攣している。
夜になると、症状は急変した。尾羽を突き上げ、浅く速い呼吸。総排出口の奥で、卵が硬く押し戻されているのが見える。
太母は灯りを掲げ、冷静に指示を出す。
「阿諛、温め石と布を持ってこい。腹と腰をほぐすんじゃ」
阿諛は素早く動き、温石と布を渡す。
太母はそれを牝鳥の腹と腰に当て、優しくさすりながら産道を慎重に確認した。
「殻が大きい……無理に引けば傷つく。焦るでない」
牝鳥が力を振り絞り、尾羽が跳ね上がる。
太母は腹を下方へ滑らせ、押す力を補助する。
「いまじゃ――合わせよ!」
つるり、と卵が滑り出る。白くやや歪んだ殻。
牝鳥は体力を使い果たし、肩で浅く息をしている。
太母は卵を温布で包み、低くつぶやく。
「……もう二度と、無理はさせぬ」
阿諛は胸を締めつけられ、静かに決意を固める。
(鳥でさえここまで追い詰める……
もし十和様にも産ませようとしたら、俺は止める)
夜の鳥舎に、緊張と安堵が混ざった静けさが漂った。




