掛け合わせ
穏やかな陽光が差し込む鳥舎の奥。
太母は牝鳥の群れの前で足を止めた。
「さて……此度はどの子にするかのう」
その選定眼は、淡い瑠璃色に光る一羽へと吸い寄せられる。
「この子……最後の出産に、ちょうどいいかもしれぬ」
阿諛が小さく首をかしげた。
「え? 最後? どうしてですか」
太母は静かに息をつく。
「この子も、もう高齢。何度も卵を抱えて、よく働いてくれた……
次を最後にして、余生は安楽に過ごさせよう。
鳥好きの円理貴族にーー水のきれいな、良いところへ譲るつもりじゃ」
牝鳥はのんびり羽づくろいをし、まるでその言葉を受け入れるように、静かに佇んでいた。
太母は、隣の牡鳥の尾羽をそっとつまみ、光に透かして質を確かめる。
「これで、この牡との組み合わせも最後になる。
羽色の調和も抜群じゃ……美しい雛が生まれようて」
阿諛は緊張しながら牝鳥を慎重に抱え、太母の手元へ寄せる。
太母は羽の角度、風切羽の伸び、胸板の厚みまで細かく確認し、体勢を丁寧に整えていった。
「うむ……これなら次代も期待できる」
だが、牝鳥の腹部に軽く手を添えた瞬間、太母の眉がわずかに動く。
羽の下に触れる筋肉には、長年の産卵で染みついた硬さと疲れがあり、腹の張りもいつもより強い。
「……ふむ。やはり無理はさせられぬな。
注意して見守るとしよう」
阿諛は牝鳥の背をそっと撫でる。
その指先に、呼吸の浅さとわずかな震えが伝わった。
(やっぱり……ちょっと危ないんじゃ……)
太母は引き続き、牝鳥の腰を支えて姿勢を微調整し、牡鳥をそっと誘導する。
経験から生まれた素早く正確な動きは、まるで儀式のようだった。
「この瞬間のために、何世代も選別を重ねてきた……
見た目だけでなく、体力も、気質もな」
(すごい……でも、太母って時々こわい)
(もし十和様にも“無茶でも美を優先する”ってなったら……絶対止められない)
阿諛は、尊敬と不安の入り混じった気持ちで、太母の背中を見つめていた。




