かはそに牛に穀物を
川沿いの粗末な小屋の中――
商人・雪蛤とその用心棒・河鹿は、ちゃぶ台を挟んで正座していた。
ちゃぶ台の上には、雪蛤の売上帳と、端が丸まった河鹿の古地図。
ついでに、昨日の残りの干し柿が三つ。
「……ふむふむ」
雪蛤は人差し指で地図をなぞりながら、妙に真剣な顔で呟く。
「円理朝は、街道の整備がしっかりしてる。
牛車も通せるし、荷車だって余裕……
商人にとっては、理想的な道だね」
河鹿は売上帳を睨みつつ眉間にしわを寄せる。
「市場は賑わい、穀物も野菜も豊富……
正直、征服したくなるほどだ。
かはそに朝は、飢饉が多くて効率が悪すぎる」
雪蛤が干し柿をひとつ口に放り込み、ぽつり。
「かはそに朝は、山ばっかりだけど、牛は力持ちだし、
たけのこや鉱石も豊富。薬草も生えてる……
食料以外は恵まれてるんだよね」
河鹿も干し柿をひとつ取り、ぱくりと噛む。
「……なるほどな、食料以外の資源は豊かか。
ふむ、戦で奪うだけじゃなく、活かせる道もあるかもしれんな」
河鹿は帳面をパタンと閉じて、雪蛤に返す。
「征服は無理だ。戦後に統治する余力なんて、かはそに朝にはない。
むしろ円理朝なら可能かもしれんが……」
珍しく物憂げなため息をひとつつく河鹿に、
雪蛤は目を輝かせて身を乗り出した。
「もしさ、一時的にじゃなくて、きちんと和睦になったら?
円理の余った作物を、かはそにへ運び、
かはそに牛や薬草を円理へ流せば……大儲け!
大・大・大商人だって、夢じゃない!」
河鹿は古地図を受け取りながら、笑みを浮かべる。
「雪蛤、お前は天才商人か……?
……それは、十和の『協調路線』とも合致する」
窓の外では、朝陽が川面に反射して、小屋の中まで明るく染め上げる。
まるで「さっさと交易を始めなさい」と、天が言っているようだった。
雪蛤は干し柿最後のひとつをかじり、立ち上がる。
「よし、まずは市場調査!
穀物相場から、かはそに牛が好む草まで、全部調べる!」
河鹿も干し柿をかじりながら立ち上がり、雪蛤の肩をポンと叩いた。
「かはそに牛が円理の穀物を食えば、
もっと強くなるか……フッ、想像するだけで笑えるな」
二人は顔を見合わせ、くすくす笑いながら小屋を出た。
背後で朝陽がますますまぶしく輝く――
戦で奪うのではなく、交易で勝負する。
それこそが、二人の見出した答えだった。




