究極の二択
門客は散歩がてら、円理朝・城下町の通りを、ぶらぶらと歩いていた。
城下は豊かだった。
広場には子どもたちの笑い声が響き、市場には活気がある。
新鮮な野菜や果物が所狭しと並び、屋台の呼び声が、街に混ざって熱気を生んでいた。
門客は歩みを止め、目を細める。
「ふむ……これが円理か……」
民は穏やかだ。しかし、決して油断してはいない。
円理兵たちが街を巡回し、目を光らせている。
豊かさの裏に、緩まぬ規律と警戒心がある——これが、円理朝の強さなのだ。
門客の視線は、城下の広場に集まる衆目へ向いた。
そこでは旅芸人・毛濔の一座が、公演の真っ最中だった。
軽やかな足さばき、楽器の旋律、笑い声——
よそから来た芸能人として歓迎される一座の姿が、城下に溶け込んでいる。
門客は一座の舞を見ながら、心の奥底で思った。
(ここに居ついても、悪くない……)
円理朝の街は、豊かで活気に満ち、民は穏やかで、子どもも多い。
公演を通じて、よそ者の芸能人も歓迎される——
人も、街も、ここに根を張れば悪くない、と直感する。
しかし、出番を終えた毛濔が、軽口を叩きながら近づいてきて、門客に鋭い釘を刺す。
「アンタがここに住みたいなら勝手にすれば?
でも、阿諛を置いてくつもりはねーから」
門客の胸が、わずかに締め付けられる。
そう、いずれ阿諛は、かはそに朝に帰ってしまう。
居心地の良い街の誘惑と、庇護すべき存在——
(円理に居たい……でも阿諛は……)
城下を流れる川から、穏やかな風が吹く。
その情景は、門客の脳裏に、深く深く刻まれた。
この感覚が、今後の決断——阿諛と共に生きる覚悟を、さらに強くしていくのだった。




