阿諛救出大作戦
門客は血盥渓谷を離れ、捕虜収容所から阿諛を救出した後、太母の屋敷に身を寄せていた。
——正直、このままでも悪くない。
門客はつぶやく。
阿諛と二人で過ごす時間は、思ったより楽しい。
普段なら、騒がしい連中が次々と阿諛にちょっかいをかけ、こんなにゆっくり話す暇などない。
ふふ、もしかしたら、このまま円理朝に居ついてしまうのも悪くないかも……
しかし、その“ゆったり時間”は、長くは続かない。
旅芸人・毛濔が、一座に紛れて円理朝の城下を駆け回っていた。
彼女は一座で芸人としての顔を保ちながらも、
阿諛の行動や、兵士たちの巡回ルートまで、抜かりなく把握している。
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毛濔の一座は、公演団体として円理朝に招かれていた。
これぞ千載一遇の好機。
「アンタだろ!」
毛濔が門客をつかまえて睨む。
「河鹿が呼んだ門客って。なにちゃっかり円理朝で遊び呆けてんだ! さっさと阿諛を返せ」
門客は笑って肩をすくめた。
「イヤだね、阿諛はここで楽しそうだ。埋没しても悪くないが、結局は阿諛次第だ」
その頃、阿諛は太母の屋敷で愛鳥・男梅の世話に勤しんでいた。
すると、あの逃がした男梅が、ひらりと窓辺に降り立つ。
その脚には、小さな麻布が括り付けられている。
阿諛は息を飲み、そっと麻布を解いた——河鹿の絵柄だ。
——円理城下に、商人・雪蛤が買付を兼ねて潜入、その用心棒として、河鹿が同行している——
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翌朝、川岸に阿諛が降り立つと、毛濔がにこやかに手を振った。
「よう、阿諛! いい時間に来たな」
雪蛤は小さな麻袋を背負い、満面の笑みを見せる。
河鹿は静かに川を見つめ、濁流を確認していた。
阿諛は深呼吸する。
「ここで、少しの間、潜伏しよう」
城下で、十和の手腕を学ぶ絶好の機会——そう阿諛は考えた。
毛濔と雪蛤は顔を見合わせ、軽くうなずく。
河鹿は眉をひそめたが、心の奥では阿諛の判断力に舌を巻いていた。
こうして、阿諛を中心にした小集団は、円理朝での潜伏作戦を開始した。
芸人の機転、商人の裏ルート、河鹿の冷静な判断——
三者三様の力を活かし、阿諛を守りつつ、静かに、しかし確実に前へ進む。
——戦いは、まだ、始まったばかりだ。




