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幇間衆(ほうかんしゅう)がたおせない

円理朝が誇る古代ホスト集団、幇間衆――

その名を冠する慰問歌唱会が、円理兵の前で行われることになった。

名目は「兵の士気向上」だが、その効果は誰も予想していなかった。


舞台に立った幇間衆は、声色も表情もテンションもすべて全開。

司会が一語発する毎に、兵たちの自己肯定感は上昇し、気づけば天地を突き破るほどの士気を得ていた。


「俺たち円理朝なら出来るッスよ!!」

「将軍の采配、今日もキレッキレでしたね!」

「前線報告、要点が美しく整理されてて鳥肌立ちました!」


泣きながら笑う兵もいる。褒められた瞬間、人生の意味を理解したような気分になる。


その結果――円理軍は予想をはるかに超える戦果を上げ続けた。



変わって、かはそに朝陣営。

円理兵のテンションMAX士気は、かはそに朝に甚大な敗戦をもたらした。

まさに、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの八面六臂。

包囲網は突破され、殿しんがりは全ての敵を薙ぎ倒し、

塹壕は埋め立てられ、砦はガラガラと崩れ落ちた。


常識外の異常事態の連続に、蒿雀氏本流の青二才は、恐れおののく。

青二才は、指揮系統を亜久里に丸投げして、一時撤退を余儀なくされた。


一方、匪躬はやたらとワクワクして覚醒状態となり、暴走寸前である。


青二才の心はドン底に沈み、即座に野戦病院に担ぎ込まれた。

さっさと傷病兵扱いにして、血盥渓谷に帰す為である。


寝台横に座った阿諛あゆが、柔らかな声で尋ねる。

「どしたん? 話、聞くよ」


青二才は声を震わせ、涙をこぼした。


「……おれ、本当は武人になんてなりたくなかった……畑耕して、絵を描いて暮らしたかったんだ……ウッ……」


阿諛は軽く相槌を打ちながらも、内心で思った。


(ウワァ……こいつのせいで大勢犠牲になってるのに、まあ気の毒ではあるな……)


向いていない者を前線に立たせる悲劇。

しかも蒿雀氏本流ゆえ、背負うプレッシャーは計り知れない。


阿諛は立ち上がり、とりあえず水を汲みに行くふりをした。

青二才は、自分の弱みを見せたことに気づき、顔面蒼白になる。


(ヤバい……あいつが匪躬に話したらメッチャ恥ずかしい!その前に、阿諛を敵方に売り飛ばすしか……!)


青二才は小さく囁いた。


「な、なぁ……阿諛、ちょっとあっちに、傷病兵が居たような……ゴニョゴニョ……」


阿諛は笑顔で手を振る。


「へー、行ってみるわ。ありがとね」


河鹿もそれに続く。


「お目付役の私も行こう」


青二才はさらに慌てる。


「あっ……ちょ、おなごには見せらんないというか……その……」


河鹿は鋭く視線を送る。


「キサマ……怪しい!何を隠している!!」


ジロジロと青二才を睨みつける河鹿を置いて、阿諛は軽やかに手を振りながら部屋を出た。



そのころ、両属地近くの水源郷を治める円理老貴族・有濡あぬら氏は、険しい顔で山道を歩いていた。


「幇間衆……あんな若輩者集団に好き勝手されてたまるか!」


彼の口からは厳しい言葉が出るが、胸の内では別の炎が燃えている。


有濡氏は、十和の父君とマブダチである。そのため当然ながら十和派ーーに見せかけ、実は主座母・太母たいもの密かな支持者だった。


(跡取りは十和くんの息子しかないだろう……まだ産まれてないけど。最有力候補の百二は幇間衆。いかんいかん、幇間衆なぞ解散させて、古き良き円理朝を取り戻すのだ!)


もっとも、彼には他に理由があった。

両属地は、彼の治める水源郷の、その大元となる雨水貯水地。

かはそに朝の手に落ちれば、管理体制がどうなるかわからない。


そのとき、有濡氏のまなこには、のこのこと敵兵が歩いてくるのが目に入った。


「おお……これは重畳。人質交換用の捕虜にせねば!」

有濡氏はにやりと笑い、背筋を伸ばす。


その瞬間、柔らかな声と眩しすぎる笑顔が視界の端から飛び込んできた。


「あなた、傷病兵?」


振り向くと、阿諛が立っていた。

自然に上がる口角と好奇心の光――


有濡氏は一瞬で理解した。

(コイツ……幇間衆だ!!)




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