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愛すべきダメ人間ども

両属地に意味はあるのだろうか――。


十和トワは、複座に身を沈め、額に手を置いた。

朝議室は、軍議のまっただなか。

酷く張り詰めているが、彼女の脳裏では、もっと別の問題が渦巻いていた。


取られたら取り返す。

取り返したらまた取られる。

両属地とは、転がる石のような土地だ。

きっと苔すら生えない。


そもそもが、かはそに朝との国境地帯に位置していなければ、さほど魅力のない土地だ。


しかしそれを譲れば、円理朝は弱腰とみられる。


「なぜ返した?」

「なぜ奪い返さぬ?」

「次は首都に攻め入られるぞ!」


敵より怖いのは、味方の体裁と疑心暗鬼である。


十和はちらりと、隣の主座しゅざを見る。

主座はまた、眉根を寄せて黙り込んでいた。


ーーああもう……百一モモカズも何とか言いなさいよ!

  あなたが主座でしょう!


だが、両属地より面倒なのは“こちら側の内政”だった。


「十和よ、男子を産む努力が足りておらぬ!!」


主座の実母の声が脳裏にこだます。

夫の主座は、横で唇を噛んでいる。


ーーはいはい、男梅男梅。


「母上は十和を責めたくて言っているのでは……その……円理の伝統が……」


「なんであなたには言わないのかしらね。

 私ひとりが特殊能力で、わざと娘だけ産み出してるとでも?

 なら、寝室分けましょうか?

 憐れんだ神様が、私に男子を授けて下さるかも知れない」


「神と浮気宣言!? 頼むからやめてくれ!」


主座の苦悩は深い。


男子がいなければ、次の主座候補は実弟・百二モモジだ。

百二はというと、


「兄上、ガンバ!」と、朝から晩まで兄全肯定。


しかも弟は誰に似たのか、何をやらせても無駄に華がある。

声は良い、顔は良い、所作も妙に洗練されている。


それにアテられた臣下たちは、


「うっ! ……王者の器……」


などと勝手なことを言い出す。


主座の胸中は穏やかではなかった。


(弟が優しい……。いや、嬉しいのだが……眩しい……)


十和はこれを嫁いで3日で看破し、即座に動いた。


嫁入り三日目。

円理朝に新たな役職が爆誕した。


幇間衆ほうかんしゅう


円理貴族の中で、扱いが難しい者・暇な者・邪魔者などを

十和が“見事なふるい分け”でかき集め、


「人見知り主座のおしゃべり相手専門職」として組織したのである。


要はーー太鼓持ち専門部隊。


見栄えよし、気遣い抜群、リアクション大、

話を聞く姿勢が優れ、


「へーっ! それでそれで?」


と食いつきもよく、

酔っても絡まないという奇跡の人材だけが残った。

百二も無事、この部署に吸い込まれた。


こうして円理朝の朝議室から、政務に口を出してくる貴族の暇人や、“弟の影”が一掃された。


夜。


幇間衆は主座の周りを取り囲み、美声と和やかさと妙な安心感で場を温める。


「兄上、ガンバ?」


「主座、今日もお疲れの色が出ておられますぞ」


「御母上、あれはもっと締めねばなりませぬな?」


「ここで一献、肩の力を抜かれませ」


主座は杯を手に、ふっと息を吐いた。


女官相手では十和に気を遣うが、男ならば問題ない。同性間の気安さに心が軽くなる。


この連中は、お世辞ではなく“適度な共感”がうまい。


「……楽だ」


ぽつりと漏らすと、幇間衆たちは口々に、


「それは良うございました!」


「主座が安らげば、それで十分!」


と明るく笑った。


そこへ十和が入室すると、主座は、ぱっと表情を緩ませた。


「主座、これで明日の朝議も無事に乗り切れましょう?」


「……ああ。君がいて、幇間衆がいて……円理朝は何とか回っておるよ」


幇間衆は一斉に最敬礼。


「複座最強!」


「十和様あっての円理でございます!」


どこかズレているが、愛嬌があった。

十和は小さく笑い、主座の肩にそっと手を置いた。


(この国は、たしかに矛盾だらけ。でも……守らなくては)


明日の朝議は、両属地の未来を左右する。

そして十和自身も、この円理朝も、まだまだ落ち着く気配はなかった。




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