【自作】特使召喚
「まさか戻って来ようとは……一体全体、どういう風の吹き回しかね?」
血盥渓谷の屋敷の縁側。
蒿雀氏の領主は、首を左右にひねりながらも匪躬を歓迎した。
「ただし……そなたの細君のことだが……」
「まさか?! 死」
「否。再婚じゃ、何年経ったと思うておる!
養子たちまで押し付けて出奔など、……恥をしれ恥を!
……ぶつくさぶつくさ」
匪躬は思わずしゅんとした。
「で? 蒿雀氏へ復帰するならば、その理由を述べよ」
「……小寿林氏におたからを奪われた。
元浮浪者の用心棒では取り返せない。身分を回復したいのです」
蒿雀氏の領主は、匪躬に話の続きを促した。
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ーーかわって、小寿林氏の領主館。
阿諛はひさびさに、庭でしつりの髪を整えていた。
初めて会った時に比べれば、互いに少年から青年へと差し掛からんとするーー
今はまさに、そんな過渡期にあった。
「阿諛~、ずっといっしょにおらぬか? 補佐役だっていい加減……」
「やだなぁ、しつり。俺は迎えを待ってるだけ」
「ぬぬっ、どうせ来ぬわ! 今日も明日も明々後日もその先も。
そなたは小寿林領で生きるさだめなのじゃ!」
「それは困りましたね」
しつりは突如きこえた見知らぬ声に仰天した。
領主命令で人払いさせていたのだから、当然だ。
「門客」
意外と早かったな? 阿諛は懐に剃刀を仕舞った。
「なにやつ!? であえであえ!」
「小寿林領主。蒿雀氏からの特使を、一体全体、どこに突き出すと仰るのですか?」
門客は、蒿雀氏の紋章を掲げると、滔々と語りだした。
「一、小寿林氏の領主におかれましては、天気明朗なれども霧深し」
「二、我蒿雀氏。産まれや血筋を問わず才あるものを欲す」
「三、我が出奔将軍、名を匪躬と改め再び円理朝と相まみえる」
「四、なれど心憎く、その支えを欲す。名を阿諛」
「五、否と申せば、小寿林氏が我らに代わり、両属地まで兵を向かわせ戦われたし」
「グッワァァァァァ………認めぬ! 出兵も阿諛も拒否だ……」
蒿雀氏・特使の門客は、首をひねりながら言った。
「阿諛を渡さず、出兵も拒否なさると。それは、かはそに朝への敵対行為とみなされますが?」
「同盟領主は対等だ!! かはそに朝は関係ない」
「蒿雀氏の出兵は、かはそに朝からの命令です。
それを確実に遂行するには、匪躬の心の安定こそが不可欠。
阿諛は匪躬の養子なのですから、蒿雀氏が彼を呼ぶのは当然だ。
蒿雀氏は、匪躬なしでは出兵できない。
なれば、阿諛を留め置く小寿林氏が、出兵業務も引き受けるのが、道理です」
「しつり、正気? こっから両属地までどんだけかかると思ってる?」
「グヌヌ~……財政破綻じゃ。
その前に……領民大一揆が起こって、吾人は火あぶりじゃ」
しつりは泣く泣く降参した。こやつらに口で勝てる訳がない。




