剣呑
狩りの件はどうなったのやら。英賀手は再び長上の病床へ舞い戻り、事の推移を見守っていた。
「匪躬っ、今日という今日は、もう勘弁ならん。自らの過ちを、ちっともお分かりでないようだ」
「ああそうだな。留守役などさっさと追い出して、阿諛と二人きりにならなかったのが全ての誤り。まさか王朝交代に巻き込まれるとは思わなんだ」
いい年した連中が、何をそんなに言い争っているのやら。英賀手は退屈でしょうがなかったが、長上はそうでも無さそうだ。
「あ~らら、やきもちなんか焼いちゃって。分かった分かった、休暇中くらい匪躬とは二人きりで過ごそう。別にいいだろ留守役、減るもんじゃないし」
「減ります。長上としての威厳が確実に」
「それは困ったな~。じゃ、おじさま。そういうことだから。遊び相手は他を当たって」
「待て阿諛っ。そんなつもりは……」
「聞いて呆れますね。遊びじゃないなら何なんですか、まさか本気だとでも。攫って付き纏った挙げ句、右も左も分からない相手と関係まで結んでおいて、その上まだ欲しがるとは。厚かましいにも程がある。やはり早めに縁談を受けさせて正解だった」
留守役は心底軽蔑した表情で匪躬を見やり、匪躬はうなだれてさめざめと泣き出した。それを長上は、場違いな程面白がる。
「へー、だからあんなに次々と。あっはっは、もう離婚も再婚も繰り返し過ぎて、顔も名前も思い出せないや~。途中で一人、とんでもない頑固者が居残り続けたから苦労したよな。ほとんど円満離婚してきたのに、とうとう別れてくれないで。知らない土地へ置き去りにしても追いついて来たから、参った参った。出世と夫婦の観点からは、見る目があるのか無いのか……どっちかな」