両属地
当時はまだ、先王朝時代。
かはそに朝の宗主は突如として、流行病で身罷った。
宗主に子は無く、妃でもあった異母妹のみが残された。
当然ながら、かはそに朝は大混乱。
結局は、亡き宗主ご落胤という触れ込みの男子を迎え入れ、叔甥婚でことなきを得た。
新宗主は元々、里下がりしていた侍女が産み、侍女は産後まもなく亡くなったため、侍女の実家でひそかに育てられていたのだ、という説明だった。
戦闘狂の匪躬には、つくづくどうでもいい話だった。
だが新宗主には、あるこだわりがあった。
彼の故郷がある土地だ。
そこは、かはそに朝と円理朝の国境にある係争地帯。
取ったり取られたりを繰り返し、コロコロと所属が変わる両属地。
新宗主の不安定な出自。そこから更に、異国産まれにはなりたくなかったのであろう。
そんな新宗主と同世代には、蒿雀氏の青二才ーー普段は“太将”という役職名で呼ばれる男がいた。
この青二才は、いくさの才能に欠けていた。
とかく我儘で他責思考。
堪え性がなく、失敗すれば部下のせい。
上手くいったら自分の手柄。
あれでは結果も人も、ツイてくるものもツイてこない。
蒿雀氏も、ほとほと困り果てたのだろう。
本来の青二才には、勿体ない位の才女を嫁がせた。
名を、亜久里という。
彼女は匪躬の妻女の姪に当たる。
出陣もするし、手柄も立てる。
笛の名手で、どんなに遠くからでも聴こえる音色は、狼煙とならんで前進や退却の合図でもあった。




