【自作】公隷(くれい)
「阿諛、急いで!!」
出入りの医者に呼ばれ、阿諛は牢屋に駆けつけた。
「……いたい、いだあ゛あ゛い! もうやだぁぁ……おとうさまぁぁ……」
囚人の女は脂汗を垂らしながら、産婆の指示どおり息む。
しかし、逆子はいつまでたっても出てこない。
もう体力も限界のようだ。産婆はとうとうさじを投げた。
「先生、あとのことは、頼みます。産まれたら呼んでください」
産婆の言葉に、医者はしっかりと頷いた。
阿諛は黙って開腹道具を用意する。
医者は、産婆に声を掛ける。
「先生。もちろんです。お任せください。先生はその間、すこし休憩を」
医者は速やかに産道や、母体の状況を確認する。
「髄を切る。助手、患者を抑えなさい」
囚人はぐったりとした。
その首から下は、もう自発的に動くことはない。
鈍く輝く黒曜石が、さらにその深部を切り開く。
やがてーーよわよわしい、産声があがる。
すかさず医者から受けとった産婆が、新生児を産湯に浸す。生命の誕生だ。
「へぇー、公隷が一人増えたのか」
「はい。荘園内の夫婦者たちが、交互に預かって育てると」
血をあらいながして着替えた阿諛は、かつての刑部ーー現在の補佐役と、朝餉を共にしていた。
すこし身体がだるかった。
補佐役の妻・先女は、最近めでたくご懐妊した。
だが、
独り身の死刑囚は、どうやって懐妊したのか?
牢に入る前は、ひとり。牢を出る時は、ふたり。
死罪逃れを方便に、看守たちは横暴を働く。
ただ、それだけだ。
彼女は死罪にはなっていない。単なる獄中死。
その他大勢の囚人、行き倒れ、餓死した浮浪児もろとも運ばれて、墓地に投げ込まれて終了だ。
「補佐役、今夜はしつりの部屋に泊まるので」
「阿諛……なぜ、俺に言う?」
「奥方の里帰りでさびしくなって、補佐役おひとりでは眠れないかと思いまして」




