阿子
クソ忌々しい叔父貴ことーー兵部には、自慢の娘がふたり。
姉・先女は先に産まれた娘の意。
妹・阿子は、私の子という意味の名だ。
異母姉妹たちは、父・兵部から、
そう呼ばれていた。
現在は兵部が後見人を務める領主・しつりが治める小寿林氏の領地は、数年前に大規模飢饉に見舞われた。
しつりは精巣捻転で子が望めない体質。
よって都の、かはそに朝宗女・天媛への求婚という名の嫌がらせによる、年貢軽減措置も見込めない。
同じくーーとはいっても、
こちらは単なる高齢のため、
海沿いの領主・計里氏は、天媛への求婚を見送っていた。
しかし彼は諸国放浪の旅に出た知識人・門客の進言により、
持て余した不義の子・勾人を急遽認知し、都へ送り込んでいた。
不遇の貴公子・計里勾人はその後、
都でまたたく間に見てくれだけで名をとどろかし、
計里氏の年貢軽減措置を、かはそに朝から無事もぎ取ったのだという。
「さてさて、いかがなものか……」
兵部は自邸から庭を眺めつつ、毎朝きれいに整えられたその顎髭を撫でながら、独りごちた。
「お父様、なにをお悩みに?」
しずしずと、衣摺れの音だけを響かせながらやって来たのは、兵部の次女・阿子だった。
「いやね、いま、すこし考えていたのですよ。君たち姉妹のどちらかが男子であれば、ちょうど天媛へ求婚できたのになあ、とね」
「まあ。ウッフフフ……阿子も、つくづく残念でなりません。お父様のお役に立てればよかったのに」
「ああ……そんなつもりはないのですよ。阿子は阿子だからすばらしいのです」
兵部は微かに笑みを浮かべ、庭の向こうに広がる小寿林領を見渡した。
領民の疲弊も、都の政治策も、すべて手の内で操るかのような冷徹な眼差しが、そこにはあった。




