《阿諛子媛と天邪鬼》
むかしむかし、
ひとりの天邪鬼が行き倒れておりました。
通りすがりの阿諛太郎に踏んづけられ、天邪鬼は目を覚まします。
「痛あ……なんなん。人のこと踏んどいて、けたくそ悪いわぁ」
天邪鬼は口元に笑みを浮かべ、阿諛太郎に抱きつく匪躬おぢを見て、すばしっこく言いました。
「おおこわ、いい歳して恋詫ぶかいな。ほな、堪忍なあ~」
天邪鬼は、ぴょんと跳ねて消えました。
追っ手が迫っていたのです。
「あんの阿魔、逃げ足の速いことよ」
阿諛は首をかしげて追っ手に言いました。
「スリですか、食い逃げですか」
「ええい、知らぬ子供が口を出すでない」
追っ手は阿諛に怒鳴ります。
そしてすごすごと去っていきました。
さて、数日後のこと。
阿諛子媛が街角で髪を整えていると、客の途絶えた隙に、天邪鬼が勝手に座りました。
「聞いたでぇ。あんさんも隅に置けへんなぁ」
阿諛子媛はつぶやきました。
「こっちはおぢに夢見せてやってんの。むしろ感謝してほしいくらいだわ」
すると、前回とは別の追っ手が現れました。
「待てい、この阿魔!」
阿諛子媛は、天邪鬼にかみそりを向けました。
よいこもわるいこも、まねしてはいけません。
追っ手は目を見開きます。
「こんのっ、今すぐ天邪鬼を離せい!」
「スリでも食い逃げでもなかったな。天邪鬼を返して欲しくば、人質代を寄越せ」
追っ手は渋々退散し、阿諛子媛は天邪鬼と逆方向へ逃げました。
しかし、走った先には天邪鬼が立っていました。
そして、にやりと笑うのでございます。
「奇遇やね。もうこれ、運命ちゃう?」
「致命的の間違いやろっ!」




