不義密通
――尋問。場所は奥殿の間。
長上は上座に座り、
英賀手は床に正座。
英賀手の両脇には、管媛と鈴媛が控えている。
匪躬は呼ばれていない。潔白だからだ。
長上は静かに話し出す。でも目は笑っていない。
「鈴媛。不義密通とは具体的に何を見た? どうして止めずに見ていた?
場合によっては幇助とみなす」
鈴媛は顔を真っ赤にして、興奮気味にまくし立てる。
「わ、私……雷が怖くて……
栽培所に避難したら、英賀手様と匪躬が……
二人で……抱き合って……!
濡れた体を……寄せ合って……!
あれは不義密通です! 絶対に不義密通です!!」
管媛は完全に知らんぷり。扇子で口元を隠しながら状況を見守る。
英賀手は押し黙る。しかし内心はハラハラり。
「………」
(このままじゃ、あやぎり、じゃなかった長上抹殺計画がおじゃん……!
ねえね……助けて……!)
長上は、鈴媛をじっと見た。
「ほう。抱き合っていただけか?
それで不義密通とは、随分と早とちりだな。
雷雨の夜、濡れて震える者を温めるのは人情だろう。
お前はそれを“見て”いただけで、止めに入らなかった。
それが幇助にならないとでも?」
鈴媛は真っ青。
「そ、そんな……私はただ……」
長上は向き直った。
「英賀手。お前はどうだ?
匪躬と何をしていた?」
英賀手は震えながらも、必死に目を伏せながら話す。
「落雷に驚いて駆け込んだだけです……
匪躬は水やりをなさっていただけで……
寒くて……寄り添っただけです……
何も……何もされておりません……!」
長上は静かに頷く。
「匪躬は潔白だと言っている。
英賀手も潔白だと言う。
鈴媛、お前だけが騒いでいるな?」
鈴媛は完全に狼狽した。
「で、でも……!」
長上は静かに宣告する。
「これで決着だ。
英賀手は潔白。
昨夜は雷雨の避難に過ぎなかった。
……ただ、許嫁の身でありながら、
男と抱き合ったのは事実。
これを穢れと見る者もいるだろう。今夜はここで寝ろ」
英賀手は顔を上げる。
「……はいぃ?」
(うっわさいてい……これだから寵童あがりは……ブツブツ)
長上は微笑みながら、続ける。
「不義密通してたらこんな反応しないだろ。
英賀手は初心なおこちゃまだ。
騒動はこれで終わり」
管媛はツーンと知らんぷりを継続。
鈴媛は顔面真っ青で固まる。
英賀手は内心ウキウキ。
(ねえね……どうしよう
でも……これで……
長上に……近づける……?)
長上は立ち上がり、英賀手の肩に手を置く。
「さあ、杼媛。
今夜からは媛なのだから、そんな“小瓶”は墓穴へ捨ててしまえ。
針も刺さったら危ないぞ?」
英賀手は全身硬直した。
(……!? いつ気づいた……!?)
長上は微笑んだまま、英賀手に小瓶と針を侍従に渡させた。
偽装の初夜が始まる。
長上は病人のため、細すぎる食を終えると直ちに眠った。
杼媛は、暗殺道具を取り上げられたのが悔しくて悔しくて、一睡もできなかった。
(ねえね……
仇討ち……できなかった……
でも…こやつ……
全部知った上で……
あたくしを媛に……?)
偽装の初夜は終わった。
だが、英賀手の呪いは、
ここから始まる。




