悪
英賀手宗女の神がかりは本物だ。
要するに、異様発達した勘の鋭さだ。
他の只人がーー何時間もあれこれと理屈付けして出すような答えを、
英賀手は一切合切迷う事なく、唯唯感情の赴くままに出力する。
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天媛には、それがなかった。
かはそに朝は、あまりに深く政に関与し過ぎたのだろう。
いつしかその感覚は喪われ、形骸化された儀式ーー宮中祭祀だけが遺された。
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計里勾人ーー彼は、単なる領主の不義の子ではない。
母譲りの強力な感受性に裏打ちされた、霊的防御力。
計里氏禁足地への出入りをものともせず、勾玉神話を受け継ぐ生粋の覡。
都出立がなければーー
彼は一生を清いまま、海沿いの領地で終えていたことだろう。
彼自身は、水汲みや畑仕事の片手間感覚。
ただなんとなく、出来るからやっていたに過ぎない。
それこそがまさに、計里氏一族歴代最高の覡としての証であった。
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天媛は、それを見誤りーー
勾人の最愛を奪い、政治的意図を掲げて長上を宮中へ持ち去った。
それこそが互いの命取り。
祭祀の要である覡の意気消沈ーー
そしてそもそも、計里氏は海洋系。
一族全員気性の荒さを自覚しており、
しかもそのひとりが、三夜を共にした公認相手。
トンビの油揚げどころか、生涯を共にする番を横から掻っ攫うなどーー
その相手が男だろうが女だろうが、
権力者のほしいままに、一族の心も名誉をも傷付ける行為。
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それはつまり、天媛の、都人としての驕り高ぶり、宗女としての未熟さ、
人としての甘さを露呈した。
結果、計里氏の絆、共同防衛精神の発揮を招いてしまったのだ。
だが。
都からの天媛連行途中に発生し、彼女の中絶薬使用による壮絶死に繋がった暴行は、それとは全く別の由々しき絶対悪だ。
勾人には、部下の指導監督責任があるのだから。
直接犯行に及んだ者、
手助けをした者、
笑いながら囃し立てた者、
見張り番を交代交代に努めた者、
そして「やっちまえ」と、迫りくる死を建前に、
暴行を提案した者、
推奨した者、
追随した者、
上の者には報せず、隠蔽を手助けした者。
性暴力は、勾人も含め全員の悪意によって成り立っている。
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長上の過去ーー放火の重罪を犯したのちに拾われ、名づけ親となった人物による、あらゆる虐待。
勾人は、他人から告げられた最愛の過去が、あまりにもショックだった。
しかし既に、天媛から長上との絶縁を強制された身。
機を見て質問したところで、
「本当はあなたもいやだった」などと言われてしまっては、もはや愛そのものが意味を喪う。
勾人は、強烈な自罰感情から混乱し、
計里氏の特性「共同防衛精神」が、それを反乱へと後押しした。
単なる一個人の初恋が、純情が、
一族郎党を巻き込んだ拡大自殺へと発展させてしまった。




