7 けして忘れていたわけではなく、思い出そうとしなかっただけ
それぞれの個性が見えてくる。
通信機を戻して、飴玉の入ったポーチを身に着ける。ほかにも私物はいくつかあるが縦穴の上までもっていくのが億劫なのでそのままにしておく。
「昼時か。」
1010、なにやら願掛けじみた作戦時間からもう1時間近く立っていたことになる。ソーラー発電で5日なら、120時間、いや、夜明けとかなら115時間、果てしないなー。
何もしないと、人間は3日も耐えられないと聞いたことがある。ベットで寝ているだけで衣食住が保証された状態で、ただ寝ているだけという状態で何日持つかという実験があるとかないとか。
そんなどうでもいいことを考えながら、縦穴を踏ん張りながら登っていく。
「ふう、めんどくせえ。」
登りきること自体は簡単だが、精神的に疲れたので、飴玉を一つ取り出し、マスクの口元を開ける。なんと変身したままでも食事ができるのだ。もっとも食べ過ぎればおのずと怖いことになるので、飴ぐらいなんだけどね。
「とりあえず、それぞれの様子でも見てみるか。」
【イエローさん】
口の中に広がる甘味を感じながら俺は、反対側の縦穴へと歩を進めて覗き込む。
「おーーい、イエロー。ちょっといいか?」
反対側の足で同じように苦労していたであろうイエローに声をかける。
「・・・どうかしました。」
やや反響したような声にが聞こえたところで俺は縦穴に足を賭ける。
「ちょっと失礼するぞ。」
返事は待たずに縦穴に飛び降り、着地の間際に全身でブレーキを取る。
「・・・女子の部屋にそれは、いささかぶしつけでは?」
「悪いね、ちょっと内緒の話があってね。」
「・・・殴っても?」
「やめてね。」
ホールドアップして、俺は詫びた。ちょっとしたじゃれあいのつもりだが、セクハラと言えばセクハラなことだ。だが、二人が立ってやっとぐらいの狭いコクピットで向き合うとなるとおじさんはふざけないとメンタルが持たないんだ。
「・・・何かあったんですか?」
まあそういうのもイエローさんには見透かされているので、あいさつ代わりのおふざけは横に置いて、さっそく本題になった。
「長官と連絡がついた。作戦はとりあえず成功。」
「・・・連絡がついたのですか?」
うん、驚くよねー、俺も驚いたし。
「市販品とはいえ、雪山でも使えるが評判の通信デバイスを持ち込んでてね。電波そのものは届くみたいだよ。」
「・・・なるほど、なら私の持っている通信機でも連絡がつくかもしれません。」
「話が早くて、助かるよ。」
元自衛官で、一番職業軍人っぽいイエローなら、そういうのを持ち込んでくれていると思っていたがあたりだったらしい。
「頼むよ。万が一に備えて連絡手段は多いほうがいい。」
言いながら手をおろしてポーチから飴玉をいくつか取り出してイエローに渡す。
「・・・準備がいいんんですね。」
「逆にこれしかないんだけどね。」
うん、イエローは大丈夫だろう。きっと軍人さんらしく情報収集に勤しんでくれるに違いない。
「何かわかったら、いや何もなくても上にいるから。」
そういってジャンプして縦穴に飛びつく。えっもっとほかに話すことがあるんじゃないかって?ははは、おじさんは説明がへたくそなので、自分で調べてもらうのだ。
【ピンクさん】
さて、ここからが大変である。縦穴から這い上がり向かって左、ゴヨウダーの右腕にあたる場所へと歩を進める。何度か開閉を繰り返しやや緩くなった隔壁を少し開け、ノックをする。
「ピンク、ちょっといいか。」
「あっおじさんかびっくりした。」
「悪い悪い。ちょっと話があってな。」
ピンクはイエローと違って10代だ、先ほどのようなことをしたら何を言われるか分かったものじゃないのでできる限り丁寧にお伺いをたてる。
「なんか、ねっちょりして気持ち悪いよ。」
得てして若い子の気持ちなんて、おじさんにはわからないものである。落ち込んでなんかないから。
「ああ、ごめんって、はいっていいよ。」
落ち込んでいたら隔壁が横にスライドしてコクピットが見える。いいな腕組みは移動が楽で。
「なんといか、らしい部屋だよね。」
ピンク色の蛍光テープで飾り付けられたピンクのコクピットは独特だった。ところどころにハートや星型の飾りがいくつもあり、いろんなキャラクターのぬいぐるみが並べられている。それらを背景にピンクは仁王立ちをして、俺を睨んでいた。
(トラック運転手さんとかがたまにこういう飾りしてるよなー。)
口が裂けても言わないけど。
「で、何か用なの?さっきそれぞれのコクピットで待機って言ってたじゃん。」
やや不機嫌そうなのは、きっとぶしつけな視線を向けてしまったからだろう。どうにも俺がろくな事を考えていないときはすぐにばれるらしい。
「うん、一応の報告だ。長官と連絡がとれた。」
「ふーーん。」
あれ興味なし。というかあれれ、おかしいぞ。
「ピンクさん、スマホ通じるんだ、ここ。」
「うん、通じたよ。さっきね、司令部にも連絡が取れた。」
やだ、この子ったら有能。そしてすごい、ここでもアンテナ立っているし。すごいぞソ〇ト〇ンク。職務中のスマホの使用は禁止だけど、今は職務中じゃなくて遭難中だから問題はなし。ということにしておこう。
「じゃあ、長期戦になりそうだから、バッテリー残量には気を付けてね。」
司令部のオペレーターなら問題なく説明してくれていることだろう。
「あと、大丈夫だと思うけど、SNSとかに不用意にアップとかしちゃだめだよ。」
「いや、さすがに素顔はださないって。」
「そもそも、やるなよ。」
うん、とりあえず写真をアップする現代っ子め。
【ブルー君。】
音を立てないようにそっと隔壁を占めて、今度は反対側、左腕にあたる場所へと向かう。
「おーいブルー君はいるよー。」
男の子に遠慮はしない。というかするが失礼なので、勢いよく隔壁をスライドさせる。
「あっ、グリーンさんどうしたんですか?」
ブルーは正座してじっとしていた。この子はこの子で心配になる真面目さだ。
「なぜに正座?」
「なんかこの方が落ち着きました。待機ですし。」
「いや、そこは、うんえらいね、君って。」
先ほどの俺の提案を、不言実行して、正座するとか。そうだった、この子はある意味一番真面目で残念な子だった。
「別に、もっと楽にしてていいんだよ、任務中じゃないから、私物とかもだしていいし。というか、飴ちゃん食うか?」
言いながら俺も座って、飴玉を渡す。どうもと受けとりブルーは飴玉をほおばる。
「・・・」
「・・・」
うん、だめだ。気まずい。おじさん真面目な子って苦手だわ。ていうか、一時間以上も何してたんだ、この子。
「では、ブルー君、落ち着いて聞いてくれたまえ。」
うん、さっさと事情を話してしまおう。なんかいたたまれない。
新ためて俺はここまでに集まった情報をブルーに伝え、私物を活用して5日間を過ごすことを示唆した。ブルーは最後まで聞いて、感心したようにうなづいた。
「すごいですね、グリーンさん、俺、長官の連絡先なんて知らないっすよ。それにそうか、コンテナ、俺も俺も見てみます。」
そうだね、頑張れ。
【レッド君】
頑張るブルー君に見送られながらメインのコクピットに戻る。そして、上を見上げる。
レッドのコクピットはゴヨウダーの頭のところにある。つまりジャンプして縦穴にとりついて少しばかり登る必要がある。
「おーい、レッド。」
「なんだー。」
呼んだらすぐに返事がきた。うん、元気があって大変よろしい。
「話がある、来てくれ。」
「おう。」
返事と同時にレッドが飛び降りてきて、ドンという音を立てて着地をした。
「で、どうしたんだ、正直、暇で暇でしょうがないから、なんでもいいけどな。」
マスク越しにもわかるさわやかな笑顔。この状況でも変わらないというのは素晴らしいな。
「実は、手もちの通信機で本部と連絡が取れた。」
「まじかよ、すげえな、通信機なんて持っててたのか。」
だから、いちいち声がでけえ。ちょっとイラっと来たので飴玉をその大口に放り込んでから。俺はブルーに話したようにこれまでの情報を伝えた。
・作戦は無事成功したこと。
・ゴヨウダーが再起動して、脱出するには5日ほどかかること
・変身していれば、とりあえずその期間の生命は維持可能ということ。(また忘れてやがったので)
・ほかのメンバーも私物の確認をしていること。
(ピンクがスマホ持ち込んでいたこととかは黙っておこう。)
「要するに5日間休みって考えることもできないか?」
「うん、ポジティブだね、リーダー。」
こういう考えがきっと大事なんだろう。
「ところで、レッド、お前は何か持っているか?その通信機とか、なにか?」
「おう、スイッチとトランプならあるぞ。あとは着替えとおかしだ。」
「わお、この状況で最適解。」
うん、すごいぞレッド。ただ中身が中学生っぽい。
ともあれだ。それぞれの私物を持ち寄れば、5日間をおとなしく過ごすことはできそうだ。
何もなしに過ごすというのは、苦痛でしかない。スーツは身体を守ってくれるが精神までは守ってくれない。寝ようと思えば眠れるしな。
「なあグーリン。」
そうやって思考に折り合いをつけ始めた俺だが、レッドはやはりリーダーだった。
「ゴールドとシルバーは大丈夫なのか?プラチナウイングも機能停止してるんじゃないか?」
【あっ。)
断っておくが、俺は忘れていないぞ。俺たちはメイン5人に、あとからきたサブメンバーが2人いる。うん、忘れていたわけじゃないぞ。この場にいないから、あえて思い出そうとしなかっただけだからな。
レッドさんはポジティブリーダーなので、天然で最適解をだす。
ブルーさんは生真面目だけど、応用が利かない。でもいい子。
ピンクさんは現代っ子代表なので、SNSも使いこなす。
イエローさんは社会人なので、仕事は早い。
グリーンさんは、割と適当なようで、心配性