2 現状把握以前に修羅場なんだが?
何かの節目で見えてしまう人間関係とはこれいかに
大丈夫だ、ますはゆっくりと深呼吸だ。クールにいこう、クールに。まだ慌てるような時間じゃない。
「終わったんだ、これで、全部。」
「やったね、レッド、みんな。」
「ああ、やったんだ、俺たち。」
なんか感極まって盛り上がっている3人とそれを微笑まし気に見守るイエロー。うん、あれだ、この空気の中で閉じ込められているなんて、事実を伝えるほどの度胸は俺にはない。
「・・・グリーンもお疲れ様でした。」
「おう、イエローもお疲れー。」
気づいてしまった事実は表にはださず俺は努めていつも通りのやる気のない態度でイエローをねぎらう。
「・・・まったく、もう少し真面目にすれば印象も変わるというのに。」
「そういうのは間に合ってます。」
呆れつつこちらに近づいてくるイエローの憎まれ口も柔らかい。長い戦いの終わりに彼女自身もほっとしているようだ。
「・・・こういうとき何を話せばいいんでしょう。」
割とコミュ症なんだよね、この子。たしか20代前半の新人自衛官だったけ?堅物真面目なこの子も、ティ―ンエイジャーな信号機トリオと打ち解けるさいもそれなりに苦労はった。おじさんがんばったんだよ、色々と。いやまだ30代なんだけども。
とまあ大人組と子ども組に分かれて、俺たちが子供組を見守るのはいつものことだ。だからだろう、俺は待たしても、一手出遅れた。
「と、ところで、ピンク。いや ほたるさん。」
変身を解いて、ジーパンにスタジャンといういつものスタイルになったレッドが急にしどろもどろに、ピンクに話かけた。その顔はレッドの名前通り真っ赤にゆだっていた。
「木崎くん、やったんだよ、私たち。」
だが、ピンクはそれに気づかず、キラキラした目を対面にいたブルーに向けた。
「ホタルちゃん、やったんだ、やったんだよ、俺たち。」
ぐっとガッツポーズを決めるブルー、全身タイツじゃなければそれなりに様になっただろうポーズだが、なんかかっこ悪いと思ってしまうのは、俺がおじさんだからだろうか?
「木崎君。」
感極まって、ブルーに抱き着くホタルこと、ピンク。
「ほ、ホタルちゃん。」
驚きつつも、ブルーはピンクを抱きしめ返す。その姿は非常に様になっていた、うん全身タイツじゃなければ絵になっただろうなあ。
「・・・やはりこうなりましたか。」
「ああ、そんな感じなんだ。やっぱり」
完全に二人の空気を作り出し見つめ合うブルーとピンク。そして、やり取りを見てフリーズするレッド。うん、年ごろの男女が集まった結果生まれた、何とも言えない恋愛模様、SNSで見ていたら青春だねと微笑ましい気持ちになったかもしれない。
「・・・我々を何をみせられているのでしょう。」
だよねー。ほんともうなんなんだろうこれ。
「ぐっ。」
あっレッドが膝から崩れ落ちた。偉いぞ、そこで無様に叫ばなかっただけでも上出来だ。
「ホタルちゃん。」
「木崎君。」
そして、イチャイチャと見つめあるブルーとピンク。若いなー、年頃のカップルは周囲を見えなくなるというのは本当なんだな。
「・・・これが恋愛脳というものですか。」
いや、イエローさん、それはまた違うと思うぞ。
「正直さあ、あの二人だったら、どっち選ぶよ、イエローさん。」
熱血で前向きなレッドと、クールながらちょっと奥手なブルー。チームのバランスとしては良かったが、おじさんにはどっちもめんどくさいぞ。なんというか背中がかゆくなる。
「・・・私から見るとどちらも子どもなので、どちらかと言うと。」
「あああああああああ。」
うるせええな、レッド、おかげ貴重なイエローの女子な側面を聞きそびれたじゃないか。
「うっさいぞ、レッド。」
飛び跳ねるように雄たけびを上げるレッドに向かって俺は忍びよってそのケツを蹴る。勢いよく倒れ込んだレッドはそのままブルーとピンクを押し倒すようにぶつかる。
「ちょっレッド何するのよ。」
「うご。」
いい雰囲気を邪魔されたこと、羞恥心から繰り出される一撃がレッドにクリーンヒット。女性でも変身中の一撃に吹っ飛ぶレッドと巻き込まれてブルーも顔面を強打する。
「あっ、木崎君ごめん、大丈夫。」
ピンクよ、そこはレッドの心配もしてあげてくれ。まあ、蹴り飛ばした俺が原因なんだけど。
「だ、大丈夫、それよりもレッド、大丈夫か、生きてるか?」
生身で変身後の超人の一撃を食らったのだ、ブルーの心配はあながち的外れではない。
「だ、だいじょぶだ、問題ない。」
「レッド――――!!」
大丈夫といいながらぶるぶると震えるレッドを抱きながら叫ぶブルー。そしてそれにやや冷めた目を見せるピンク。なんだろう、この茶番。
まだまだ存分に騒ぎそうなメンバーを前に、俺は胃がキリキリと悲鳴をあげる音が聞こえた気がした。
遭難したという事実を知る前に、若者の恋愛模様が早くもカオスです。