1 戦うことだけがヒーローの仕事ではない。
宿敵を倒して、さあフィナーレとはならない。
ゴヨウグリーンなんて大層な立場を貰っているが、俺はこの仕事を辞めたくてしょうがない。
そもそも戦士の特性だがなんとかで、一般人をスカウトして訓練するという意味わからん理由で、地元の役場でしがない事務職をしていたスカウトされた俺は、その地盤もあってやたらとめんどくさい書類仕事なんかを押し付けられていた。これがまた、めんどくさい。
そう戦うだけがヒーローの仕事じゃないのだ。どこでどのような活動をして、どのような力を使ったか、きちんと報告しないといけないし、審査が通らないと、偉い立場の人たちやマスコミ関係者に、実際に説明をする必要がある。そりゃそうだ、ただ思うままに戦って余計な被害をだしていたら、宇宙人もヒーローも変わらない。めんどくさいが、自分でやったほうが早いし、役場でのクレームとかの受付と似たようなものだ。
訓練だって嫌だった。学生時代以来まともに運動なんてしてこなかった三十路のおっさんが、映画とかで見たことのある軍隊の訓練を強いられるのだ。戦士の特性というチートな何かでそれなりに動けるようになったが、動けるからできる、楽しいわけがない。
あと、意識高い系の軍人とか、自称候補生という連中からの要らん嫉妬や嫌がらせも酷かった。ゾンアークの襲来を予見していたガイアとそれに従う政府の秘密組織は早い段階から戦士の特性を持つものを捜したり、それっぽい人間を鍛えたりと色んな準備をしていた。後者はあれだ、各国の軍隊のエリートさん的なやつで、メンバーで言うとイエロー、ゴールド、シルバーが該当する。他のメンバーはいわゆる元一般人で、結成当時から色々あった。
気持ちは分かる、気持ちは分かる。高い志をもって訓練していたのに、適正とかいう意味の分からない能力値で主力からは除外されてしまう。しかも相手は冴えないおっさんだし、やる気も感じられない。ご立派な志の持ち主からがよく思わないことなも分かる。だがね、そんな志の高い集団でも、事あるごとに嫌味を言われたり、持ち物を隠されたりなんて嫌がらせをされたりしたらどう思う。ブチ切れますよね。
「やったのか。」
電源もおち、薄暗くなったコクピットの中で俺はそんな走馬灯を振り替えていると、レッドが重々しく口を開いた。
「さあ、どうだろうねー。」
へらへらと答えながら俺は、端末をいじるが、うんともスンとも言わない。それこそ予備動力とかいろんなものをすべて攻撃に回したのだ。当たりまえと言えば、当たりまえだ。
「まあ、最後の爆発があれだったから、だいじょうぶじゃないのー。」
「ちょっと、グリーン、真面目にやりなさい。」
俺の態度が気に入らなかったのかピンクがぷりぷりしているが、俺は無視した。正直こいつらとの付き合いもこれっきりだ。
「油断するのはまだ早いぞ。」
とかく真面目なブルーもなにやら怒っているが、
「今の自分たちにはどうしようもないのだ、諦めてくれ。」
「なっ、グリーン、おまえなああ。」
さんをつけれよ、さんを一応おれ最年長だからね。とやや険悪なムードになりそうなとき、コクピットに柔らかな光が差し込み、聞き慣れたくそ女の声が響きだした。
『よくやりました、わが子たちよ。アーク城は、お前たちの攻撃で崩壊、ゴクアーク以下ゾンアーク一派は時空の檻へと閉じ込められました。これで地球は守られました。』
聞こえるのは声だけだ。ただなんとなく偉そうと思うのは俺の私怨ゆえだ。
「じゃあ、これで、俺はお役御免でいいんだよな。」
『ふふふ、グリーンもお疲れ様でした、貴方が居なければ、戦隊はバラバラになっていたでしょう。』
ぞんざいな言い方なのは、いつものこと、守護霊ガイアはやんちゃする子どもの相手をするかのように穏やかな声で結果を告げた。
『地球の脅威は去りました。以後は貴方たち地球の生命たちがどのように生き、滅ぶかはあなたたち次第です。人間よ決しておごらず、そして、慈しみを忘れずにいてくださいね。」
ガイアは地球の守護者である。人間の味方ではない。だから、戦士の特性を与えられるのは、そういう性格のやつが多いらしい。知らんけど。
『では、私はしばらく眠りにつきます。ゾンアーク一派が改心するか、再びの脅威が訪れるそんときまで。」
やがて弱弱しくなっていく声に、俺たちは驚いた。だが同時に納得もしていた。この異常ともいえる力の行使はあくまで防衛限定ということなのだろう。
「任せてくれガイヤ。地球は俺たちが守る。そして平和な世界を創って見せる。」
一番に切り返したのは熱血リーダーのレッドだった。こんなことを言っているが、きっと具体的なプランとかはないんだろう。そして、ガイヤじゃなくて、ガイアな。
「ありがとう、ガイア様。」
「ふっ、どうにでもするさ。」
ピンクとブルーもぶれないキャラだ。そしてイエローは黙って敬礼をしている、もと自衛官らしく余計なことは言わない。
『さらば、わが子たちよ、願わくば、再び目覚めるときは平和な世でありますよに。』
そういって、光は消えていく。守護霊ガイアとやらは、最後の挨拶をして、本格的に眠りにつくらしい。しかし、この状況、同報告書に書いたものか下手すると、また無駄にガイヤ信者を増やしかねない。
一年間も命懸けの戦いを強いられたからだろう。俺自身最大の油断はここにあった。怪人と戦い、帰還して報告書を仕上げる。そのルーチン、そこに疑問を持たなかったからだ。
「終わったんだ、みんな。」
男泣きの体制になったレッドはいつも通りと、ため息をつき、帰ったらと報告書を仕上げて、今度こそ辞表をだそう。いつも通り、そう思ってから、俺は気づいてしまった。
「あっやばい。」
幸いにも他のメンバーには聞かれなかったが、俺は最後にガイアに声をかけるべきだったと、自分の痛恨の行動を後悔した。
最後の最後に外だしてもらうの忘れた。
閉じ込められたヒーローたち、ただそれどころじゃない。