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9話 パーフェクト美人は常在戦場


 トランお兄様が、何食わぬ顔で出仕して王太子殿下にお仕えしている間。我が家は表も裏も、手の届く範囲で調べ回った。

 これは何の思惑があってのことか、王家も知ってのことか、背後にどの家が絡んでいるのか。

 ――どこの誰が、キグナスバーネに喧嘩を売ったのか。


 でも残念なことに、短い時間ではほとんど何も分からなかったわ。

 あえて言うなら、その女は男爵家の養女で、もしかしたら裏で本家の侯爵家が関わってるかもしれない、っていう、現状では言いがかりに近い予想ぐらい。

 ただ今回のこと、王家の意向ではなくて、単に第三王子殿下の暴走(やんちゃ)じゃないか、って。だってまだ王家はこの噂をほんとに知らなくて、下級兵士や下働きの間でだけで、上にまでは伝わってないようなのよね。

 もしや王家ってば無能なの、って驚いたけど。ちょっと想像して、まだ伝わってないのも当然ね、と思い直したわ。

 数合わせの歩兵とか、洗濯女やゴミ(婉曲表現)捨ての壺運び男が。


 ――おめえん()の三男坊、めんこい子といちゃついてまっせー。

 

 なんて、高級官僚や宮廷侍女、ましてや王族に話しかけるなんて、できるわけないじゃない。ええ、ないわ。

 そもそも、王城を表立って歩けるような身分のある者は、そんな下層の下働きを目にすることさえない。生活場所(エリア)が違いすぎて、彼らの間にだけ広まってる噂話を、知り得る機会(立ち話で耳にする)なんてありはしないのよ。


 そこにいくと我が家(キグナスバーネ家)、高位貴族には遠巻きにされてるけれど、無官の兵士とか下働きには、伝手があるの。山賊(平民)上がりってそういう所だとは思うけれど、ちゃんと役に立ってるし、使いこなしてるのよ。お父様もアトレイタスお兄様も、本当にすごいわ。


 あえて言うなら、目であり耳である側近のトランお兄様が、王太子殿下に報告するのが筋なんでしょうけど。報告する内容が、コレではね。

 大体、トランお兄様はイレギュラーで組み込まれた側近なのよ。本来なら、王太子殿下のお(そば)にはいなかった側近なの。

 他の、最初から仕えている正しい(レギュラーの)側近が、知り得て報告すべきことでしょう。何のための側近だっていうのよ。


 最終的には、トランお兄様が王太子殿下に第三王子殿下のことを報告して、王家がきちんと事実を知った頃合いに、アトレイタスお兄様が王家に苦情を申し入れる、っていうのが、我が家が勝手に段取った予定なんだけど。

 有能だっていう触れ込みなら、トランお兄様が報告を上げる前に、身内の不始末ぐらい気づいてほしいものね。




 ざっとした調査でわかったこと。

 お相手は、フェミンゴ男爵家の養女、ロセア嬢。

 第三王子殿下の剣術訓練が、出会いのきっかけ。第三王子殿下の打撲を軍属医療班の治癒術師として治したことで、そこから、仲良くなったみたい。

 入院患者が女性の看護師さんに惚れるようなものかしら。

 

 ロセア嬢は天性の治癒魔法の腕を見込まれて、フェミンゴ男爵家に養女として引き取られたんですって。

 治癒魔法は習得に十年ぐらい、下手すると三十年かかるとか言われてる、とっても高度な魔法で――前世で言えば、勉強して医学部に入って医師免許とる、のを更にもう一段、難しくした感じかしら。

 ロセア嬢は先天的に、十歳ぐらいで使えたそう。いわゆる治癒魔法特化の天才ね。男爵が王城の治癒術師として推薦して、採用されて勤めるようになって、一年ちょっと。評判はかなり良いらしいわ。領地から連れて来た侍女と一緒に、治癒術師として一室をいただいているとか。


 なんでもロセア嬢の治癒術はまず真っ先に痛みが無くなるから、大層嬉しい、助かった、と感激する者、多数だと。

 というのも、治癒術師であれば必ず痛覚軽減の魔法を使える、というわけではないから。


 痛みを軽減する魔法は、治癒魔法とは別の魔法なの。痛覚軽減の魔法になるんだけど、それって感覚遮断や麻痺の状態異常を引き起こす攻撃補助魔法を応用した、れっきとした「防御魔法」に分類されるわ。

 攻撃系の魔法が防御魔法に? って、わたしも最初に習った時は混乱したけれど。ほら、攻撃は最大の防御、とか言うじゃない。要は考えようってこと。


 痛みは危険信号、注意喚起なわけだから、それを鈍らせるのは体への攻撃。だけど、痛みで動けなくなったり、痛みで死亡したりするのも、事実。なので、痛みから守るために使うのに攻撃系の魔法とはこれ如何に、云々。

 まぁ、そんな議論を喧々諤々(けんけんがくがく)と、魔法理論界隈(机の上)でなされている間に。術が公表されてしばらくしたら、あまりの便利さに瞬く間の内に広がって、切った張ったが日常茶飯事の現場では、保護魔法(プロテクト)と痛覚軽減魔法はワンセット! が常識になって。


 ――防御魔法セット(いつもの)頼む(よろ)

 ――はい(へい)どうぞ(おまち)


 学識高い方々が会議で踊っている間に、すでに世間では「防御魔法」と呼ばれていたっていう……まあ、当然よね。

 それで、治癒術師が痛覚軽減魔法を使おうとすると。

 まず難しい治癒魔法を十年以上かけてなんとか習得した後、それから更に、攻撃系の補助魔法を学んでから状態異常系に手を伸ばし、その上でようやく痛覚軽減魔法が習得できるという。

 だから。


 ――治癒魔法で治れば痛みもなくなるんだから、痛覚軽減魔法を覚えなくったって良くね?


 と、考える治癒術師、多数。ええ、まぁ、仕方ないと思うわ。

 だからほとんどの場合、治癒術師が傷を治す間、普通に痛いの。もちろん治ったら痛みは引くけれど、いくら魔法とは言っても、重傷であればあるほど、一瞬でぱっと治る、わけではないの。

 あら? そう考えると、治癒魔法が間に合わなかった、ってもしや、痛みで亡くなってるのかも? 麻酔無しで外科手術してるようなものよね?

 ……いえ、まあ、とりあえずそれは置いておくとして。

 だからロセア嬢の治癒でまず痛みが無くなるというのなら、皆が喜ぶのは当然で、評判が良いのだって当たり前なのよ。

 さて。


 自分の目で確認したい。

 第三王子殿下と一度、会ってお話してみたい。


 アトレイタスお兄様はわたしの希望を汲んで、日時と場所を整えて下さった。

 なのでわたしは、護衛と侍女を連れて王城の、訓練場へ。王城に着いたら、侍女はトランお兄様の所へ遣いに。

 設定としては、トランお兄様にお会いするついでに、剣術訓練に精を出す第三王子殿下を一目見ようと、健気な婚約者(わたし)が訓練所に足を運んだ、っていうことにしたのだけれど。

 

 掃き溜めに鶴がいるーーー!


 なにあれ、なにあれ!?

 柔らかそうな髪は可愛らしい薄い桃色(ピンク)、優し気で慈しみに満ちた瞳は淡いウィスタリア(藤色)、どこからどう見ても童話に出てくる花の妖精の、人間サイズ、等身大! いたずら妖精系じゃなくて、泉の精霊様系の優しくて綺麗な妖精の方!


 柔らかそうなピンク色の髪は緩く編んで長く垂らされていて、白い肌は触れれば解ける雪のよう。ほっそりとした頼りなげな肩に、強く抱けば折れそうな細い腰の、儚げさMAXの美少女。

 しかもツルペタ清純系でもないから、死角がないわ。

 軍が定めた実用一点張りの服の、胸元は見事に盛り上っていて、腰回りはつい手が伸びそうになるぐらい魅惑的な曲線。


 純真可憐という言葉そのままに、華奢で愛らしい容姿で庇護欲をそそりながらも、男の視線を集める肢体をも併せ持つ、軍属の治癒術師の女の子。 

 言われずとも分かるわ。

 あれが、フェミンゴ男爵家のロセア嬢ね。



 訓練所の片隅、医療班のいる簡易テントに、兵士たちが皆一様に笑顔を浮かべて、笑い声を上げて楽し気に群がっている。

 その中心にいるのが、第三王子殿下とロセア嬢。

 第三王子殿下は呆けた様な、それはもう幸せそうな表情を浮かべていて。


 ――第三王子殿下があんな表情を浮かべて側にいたら、噂にならないほうがおかしいわよ。


 周りにいる兵士が何も言わない(注意する義務がない)のは理解できるけど。

 剣術訓練に付き合ってる側近でさえ、特に注意をするでもなく一緒に楽しそうにしてるのは、どういうことなのかしら。

 あからさまに、殿下と同じように、ロセア嬢に見惚れているわよね? え、恋のライバル? それとも、隠れて横恋慕してるの? 隠せてないけど。 


 ――! いいえ、この光景、もしや逆ハーレム!?


 天啓のように閃いた瞬間、囲まれているロセア嬢に視線を向けると――目を伏せて、なるべく触られないように身を縮こまらせているのが、見えた。


 いやいや、その反応、初々しくって逆効果だから。(いじめっ子)の嗜虐心を煽るだけだから。引いたら、ここぞとばかりに踏み込んでくるに決まってるでしょ。

 ロセア嬢の侍女はなにしてるの、体張って主を庇いなさいよ。わざわざ領地からついてきたんでしょ、なんのための侍女よ。


 いえ、侍女はいいの、問題はロセア嬢よ。

 ん-、か弱いを装って誘ってる風に見えなくもないけど……あれは、ほんっきで嫌がってるわね? どんな子がハニトラ仕掛けてきたのか、って思ってたけど、違うみたい。

 天然(ホンモノ)擬態(ニセモノ)が分かるかって? 前世、わたしがどれだけクロムモリブデン鋼並みの仮面を被って、偽装してきたと思ってるの。

 何人もの「あざとぶりっ子」を看破してきたわたしには、わかるわ! 格下の同類ぐらい、一発よ。

 となると、この状況。年頃の娘が仕事とはいえ、むさ苦しい男どもに、って……ええと、これよく考えてみたら、セクハラだし、事案じゃないの???


 ――本当は、人は顔じゃない、なんてムカつくことを真顔で言いそうな天然女、助けたくもないんだけど。


 今世のせっかく綺麗な外見を、汚したくはないわ。その為なら、肉食動物の爪にかかったマヌケな小動物だって、華麗かつスタイリッシュエレガントに助けてみせましょう。


 わたしは綺麗でかわいい、スーパーハイパーウルトラゴージャス、パーフェクト美人コラヴィアちゃんよ。

 常在戦場、一瞬たりとも気を緩めてなるものですか!

ジャンル:ハイファンタジーっぽく、魔法の蘊蓄なんぞを語ってみました(ストーリーが進んでないことからは目を逸らし)。


小ネタ:作者の思い付き命名

フェミンゴ男爵家:フラミンゴ属(学名)とまんまフラミンゴ(英語)をミックス!

ロセア嬢:オオフラミンゴ、学名の後部がroseusなので、ロセア!


Q)なんでフラミンゴ?   A)色がピンクだから。


次、10話「これが噂の!」

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