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6話 ドミノ倒しの駒並べ

 王太子殿下の側近に取り上げられたとはいえ、第三王子殿下にトランお兄様(息子)が解雇されたのは事実。

 その上で、娘の婚約。しかも、「王命」での。


 すとん、と表情をなくしたお父様だったけれども、オーレリアお義姉様が待ったをかけた。

 王城からの使者は、落ち着いて聞いてみると、宰相閣下のお名前での使者。内容も、「王命による婚約、の打診」なので、まだ王命は下ってない状況、だと。

 つまりは、王の意向を受けた宰相閣下から、王命を出しても良い? っていうご機嫌伺い、もとい、事前相談的な根回し、ではないかと。

 王家は、我が家を何だと思っているのかしら。


 オーレリアお義姉様のおかげで、落ち着きを取り戻したお父様。とりあえず次代のアトレイタスお兄様とご一緒に、宰相閣下とお話をしに王城へ。わたし達はお母様を筆頭に、タウンハウスで待機。

 特にオーレリアお義姉様、もうずいぶんとお腹が大きいのだから、もうお家でゆっくりしていただきたいわ。歩く時は隣に力自慢の侍女、二名は必須よ。


 登城するお二人を見送った後、談話室に集まってお茶をいただきながら話す家族を見回す――ああ、眼福。わたしの婚約話? どうだっていいわ。

 書生風に美青年っぷりを上げたトランお兄様。身籠って、凛々しい戦女神に聖母成分が加わった麗人、オーレリアお義姉様。烏羽玉の髪を結い上げて、年を感じさせない艶っぽさで嫣然(えんぜん)と微笑むお母様。


 ――幸せが、胸に溢れる。


 この多幸感、脳内麻薬が出ていても不思議じゃないわ。しかもこの一団に、スーパーハイパーウルトラゴージャス美人なわたしが加わるのよ! それだけじゃないわ。侍女も執事も、わたしの日頃の啓蒙活動のおかげで、みんなかわいくて、格好良くて!

 三代目じゃないけど、転生ガチャ勝ち確! って叫びたくなるわね。



 ~・~・~



 難しいお顔で、夕方遅くに王城から戻って来たお父様たち。ご返事はなさらず、一旦持ち帰ってきたそう。……いいのかしら、王家の意向を保留って。



 ちょっと話は変わるけれど。

 王家の収入は、王家所領からの税収はもちろんだけど、貴族からの爵位料もあるの。それで当然ながら、高位なほど、お高いわ。

 だから、王家が爵位料を多く取ろうと思ったら、貴族すべてを公爵にしてしまえば、がっぽがっぽ、だけど。支払い能力が無いのに、高い爵位料を課せられても支払えないじゃない? それに、みんな平等にって、無理よ……自分とあいつが同じって、ありえないっ! って暴動が起きるわよね。

 だから大まかな価格(爵位)として、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、あとは補助的な準爵。


 王家は、できるだけ上納金をせしめ……爵位に値する責任を果たせ(金払え)と、果たせば身分に相応しく遇すると、定めたわけよ。

 まぁ、他にも血統とか由緒とか、見栄にプライド、因縁恩讐、反乱対策、いろいろ柵があって複雑怪奇になっちゃってるし、そんな簡単な話じゃないけれど、そこらはばっさり割愛させてもらって。


 で、キグナスバーネ伯爵家。

 武勇は建国から衰えず、財貨は酒のごとく馥郁(ふくいく)と香る、とかなんとか。そんな家が、伯爵家。王家からしたら、――もっと上納金(みかじめ料)、寄越せや? って言いたくなるわよね。

 伯爵から侯爵への、陞爵しょうしゃく。王家は我が家から、より一層の爵位料を取ろうとしたのだけれど。


 ――所詮は山賊上がり。建国の動乱に乗じての叙爵だけでも忌々しいのに。国の端の、耕作地も無い山だけが領地の貴族モドキが、陞爵しょうしゃくして侯爵などと!


 反発が酷すぎて、これ以上、上前をハネる(爵位を上げる)ことができなかったそうよ。でも、さすが王家(ハイエナ)。諦めたように見せかけて、虎視眈々と、機を窺っていたの。


 そんな所に、国境伯の娘(オーレリアお義姉様)の嫁入りの報。

 由緒正しき貴族と結ばれれば、産んだ女児は王妃にさえ手が届くほどのポテンシャルを秘めたオーレリアお義姉様が、キグナスバーネ伯爵家に。そして今すでに、その兆しはあり(懐妊していて)――産まれてくる子供は、将来のキグナスバーネ伯爵家当主、あるいはその姉でありながら、同時に。

 現国境伯の孫、そして未来の国境伯の甥か姪。


 現国境伯の孫、そして未来の国境伯の甥か姪であるならば、由緒正しい貴族だとて結びつく(婚姻する)にやぶさかではなく。

 そうなると、結びつく高位貴族に相応しい爵位を、今から与えておいた方が何事もスムーズに進むのでは、と。気の利く王家は、キグナスバーネ家に侯爵位を授けるのも、やぶさかではないぞ、と。


 ――やぶさかでありなさいよ。


 お父様からアトレイタスお兄様へ当主交代する時に、祝いに侯爵位を、との予定だったと。しかもその理由予定が、ちょうど良くトランお兄様が第三王子殿下にお仕えしてるからって、その献身に報いて、っていうね。


 ――トランお兄様、側近外されましたけど~?


 はっ、取ってもいないのに、タヌキの皮を数えるんじゃないわよ。

 王家としては。

 褒美という態で爵位格上げの理由予定だったのに、逆に解雇なんていう不名誉レッテルがぺたりと貼られて、寝耳に水で。慌てて王太子殿下の側近に取り立てて、繋ぎ止めて、現状維持して。

 落ち着いて調べたら、瑕疵があったのは第三王子殿下の方で。だから、トランお兄様を王太子殿下の側近にした所で、それは報奨というより賠償、補填にしかならず。


 まもなく産まれてくる現国境伯の孫、は動かしようがなく。

 すなわち爵位料の値上げ、もとい、爵位の格上げは必須(チャンス)で。


 キグナスバーネ侯爵家の成立は。

 爵位料が増えたキグナスバーネ「侯爵家」がポーンと気前よく払えば、近年、爵位料の支払いを渋る高位貴族たちへ、釘を刺すことにも繋がる。

 爵位の据え置きって冷遇? とか不満に思い始めた貴族への、王家からの融和演出、と同時に、キグナスバーネ家ぐらいでないと陞爵しょうしゃくはないぞ、との線引。


 国策において、もはやキグナスバーネ「侯爵家」は、過程をすっ飛ばして成立していて。伯爵家から侯爵家への陞爵は動かしようがなく。

 だから解決策に、王家は。


 祝いに陞爵しょうしゃくするので、第三王子殿下とわたしを結婚させよ、と。


 国境伯の娘オーレリア嬢を、義姉(あね)と呼ぶコラヴィア嬢。であるならば、国境伯にとっては、義理の娘と言えよう。そして国境伯の義娘(むすめ)であるならば、第三王子殿下が妃として迎え入れるに、やぶさかではなく……ですって。

 

 ――やぶさかでありなさいよ。それはともかく、王家、ハプニングがすぎて、パニくってない? なにトチ狂ってるの?


 宰相閣下からは。

 あまりにも肉食系のご令嬢に(たか)られたせいで、第三王子殿下はプッツンしてしまっただけ。婚約者を決めたらご令嬢たちも退くだろうから、第三王子殿下も落ち着く、はず。訓練後のあの暴言騒動は、第三王子殿下の本意ではない、と。


 本来の第三王子殿下は女性に礼儀正しい紳士で、太陽のごとく光り輝く金髪に相応しいご尊顔の、多くのご令嬢方が憧れる見目麗しい御方で、キグナスバーネ家掌中の珠であるご令嬢も、一度お会いすればきっとお気に召すはずです――って、顔面の良さを全力でアピールしたセールストークを、宰相閣下はそれはもう必死に、お父様を相手に繰り広げたんですって。


 今回のトランお兄様の件は、友人である第三王子殿下と個人的に、少々行き違いがあっただけってことにして。王家とキグナスバーネ伯爵家の友好は変わらず、決して緊張状態になったわけではない、と。

 その証拠に、王家はわたし、長女コラヴィアを迎え入れて。婚姻と同時にキグナスバーネ伯爵家を侯爵へと陞爵しょうしゃくする、ってことを、大々的に公表するのはいかがでしょうか、公表した方が宜しいですよね、公表しましょう、公表させて下さい、ってお父様、宰相閣下に懇願されたそうよ。



 ――キグナスバーネ伯爵家にとっても、近々産まれてくる子が、将来は侯爵家を名乗れるという利点があるはず。

 なので、まずはご令嬢との婚約を、王命にて結ばせていただきたい。



 宰相閣下からの相談、の(てい)は取っていたけれども。

 もうこれ、王家の意向を内諾させてこい、っていう、宰相閣下に下された命令だったのでは? 王家ってば、無茶振りするわね。


 そうそう、第三王子殿下からのお預かり物があって。後からトランお兄様に、王太子殿下の側近着任へのご祝儀が届けられるのですって。それが、合わす顔もない、第三王子殿下からの詫び、って宰相閣下から。


 王城から帰って来たお父様、アトレイタスお兄様。眉間に皺寄せて、事情を赤裸々に語ってくれたわ。侯爵位は名誉だが、コラヴィアの婚約は即答しかねる、って言って、保留にして帰って来てくれたの。


 お父様、大好き!

 もう、そう言って下さっただけで、十分よ!


 トランお兄様が語る、第三王子殿下の人物評、それほど悪くなくて。トランお兄様へのお詫びもあるみたいだし。

 五年前の無礼極まりない顔ふいっ小僧も、ちゃんと成長したみたいね。

 それなら、これから産まれてくる子への、わたしからのプレゼントということで。第三王子殿下との婚約、やぶさかではなくってよ。


 そうお伝えしたら、あなたも成長したわね、とお母さまは口元を綻ばせて。オーレリアお義姉様も、この子が生まれる前からもうすでに立派なお姉様ね、とうっすらと頬を染めてくれた。

 お父様とお兄様は――婿取りして、わたしを嫁に出すつもりはなかったんだが、仕方がない、と諦めたように肩を落とした。


 でも一つ、懸念事項があるの。

 第三王子殿下って、大まかな好みが清楚系なのよ、たぶん。

 それで。

 この、スーパーハイパーウルトラゴージャス美人なわたし。豪奢な黄金の髪、鮮やかなサファイアブルーの瞳。控えめ、という言葉を蹴っ飛ばした、豪華絢爛、豪壮華麗、絶世の美少女コラヴィアちゃん。


 繰り返すわ。

 第三王子殿下って、控えめな清楚系が好みなのよ、たぶん。それを踏まえての……それでもあえての、婚約の申し込み。

 トランお兄様から聞いた、第三王子殿下のお人柄からして、まぁきっとたぶん大丈夫、と思わなくもないけれど。

 ね、不安でしょ?


 なので、今回の婚約についてお受けするにしても。

 こちらから望んだ婚約ではないこと。

 不満があれば……ではなくて……双方に何らかの不都合が生じれば、話し合いでの円満な解消も視野に入れた婚約であること。


 ずうずうしいお願いかもしれませんが、できれば、とお父様に伝えてみた。

 翌日、重々しい表情で登城したお父様が、満面の笑みを浮かべて帰ってきたから、要望は通ったみたい。




 王命は待ち構えていたように、すぐさま下り。

 下りはしたけれども、それでも発表は準備との兼ね合いで、オーレリアお義姉様の出産も無事に終わって、季節が二つほど過ぎた頃。

 十六歳となったわたし、キグナスバーネ伯爵家第三子、長女コラヴィアは、第三王子殿下の婚約者だと公式に発表された。


途中、「やぶさか」の意味って何? と、本気でわからなくなりました。

そしてようやく、王命での婚約……長い、長い道のりでした。ドミノの駒を一つ一つ置いて、完成させていく気分でした。


次、7話「猫とメッキ」

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