表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/18

13話 対決、泥棒猫!


 医療班の治癒術師ロセア嬢、彼女の自室が当の本人の軟禁場所。一応、名目としては、自室で謹慎中ってなっているんですって。

 部屋の前に兵士が四名いてガッチガチに見張ってる時点で、監禁と変わらないんじゃないかしら。自室が牢獄に変わっただけじゃないの。

 高位貴族連中が政治上の都合で、おためごかしに「第三王子殿下の想い人を無下に扱うのはいかがなものか」と、男爵家養女の扱いをすったんもんだした挙句、便宜上――自室で大人しくしててね――な措置の結果が、コレ。


 わたしと面会ということでロセア嬢は自室(牢獄)から連れ出されて、見張りの兵士共々、医療班宿舎の客室に。

 先触れもしてあったから、見張りの兵士はすぐ通してくれた。

 扉を開けてもらったその先には、訓練場で見た時と寸分違わない、柔らかそうなピンク色の髪、優し気なウィスタリア色の瞳をした、花の妖精みたいなロセア嬢。と、三十代半ばのブルネットの髪の侍女。

 よくよく見るとこの侍女、真面目そうというよりも、融通の利かない厳めしい感じで、怒りっぽそう。口元なんか見るに、への字が標準装備みたいだし。

 我が家の、わたしの薫陶(綺麗かわいい)を受けた侍女の、にこやかな笑顔(標準装備)を見習ってほしいわ。


 客室と言っても、頑丈そう、しっかりしてそう、なだけのテーブルにイス。シャレっ気なんかなくて、ただ話し合うためだけに用意された部屋。

 わたしの護衛はともかく、王城から遣わされた護衛は、王家の耳。客室警護の兵士たちだって、言わずもがな王家の目。

 つまりは、ここで話したことはすべて、王家もご存知になられる、ということ。


 ――さて、ロセア嬢とは、とりあえず腹を割って話したいのよね。侍女は邪魔、要らないわ。


「喉が渇いたわね。お茶を用意してくれる?

 わたしが気に入ってる、あのお茶がいいわ」


 わたしの侍女が短く返事をして(意を汲んで)、ロセア嬢の侍女にお茶の用意を、と言って部屋から連れ出そうとするけれど、予想通り、嫌がって抵抗。

 ロセア嬢から離れたくないんでしょうね、この侍女。

 でもね、主の客人に茶の一つも出さないって、その時点で頭おかしいのよ、侍女にあるまじきことよ。

 その行動は、自分は怪しい人ですーっ、て大声で自供してるも同じなの、わかってる?


 あまりの怪しさに、王城の兵士が侍女に疑惑の視線を向けた時。わたしの護衛の色気ホストが、腰と肩を抱いてロセア嬢の侍女を力づくで……もとい、モノホンのホストも真っ青になるぐらい、口先三寸で(たぶら)かして部屋から連れ出していった。

 部屋から出て行く時はもちろん、ウィンク一つ残していったわ。


 あまりのことに(唖然として)、部屋に沈黙が落ちて。

 その一瞬に、ロセア嬢が動いた。

 ロセア嬢が立ち上がると同時に、わたしの目の前を塞ぐ筋肉の壁(背中)


「どうか、どうか助けて下さい! 私はどうなってもいい、罰だというのならなんだって!

 だから、だからっ、家族を助けてっ……」


 (背中)の向こうから聞こえてくる、泣くのを堪えて縋りつかんばかりに必死に訴えかけてくる声。

 ……邪魔よ、逞しい背中を見せつけなくていいから、退きなさい、うっとうしい。この質実剛健野郎が。


 危険はないと判断したのか、壁が横にずれて――わたしの目に見えたのは、両膝を床に付け、額さえも床に(こす)り付けんばかりに下げに下げられた、ロセア嬢の後頭部。

 嘆願の為に伏せられても……どうせなら、わたしの美貌を目にすることができた栄誉に、打ち震えてくれないかしら。


「話を聞きましょう。

 顔を上げることを許します。イスに座ることを命じます。

 さぁ、(つまび)らかに話しなさい」


 下から覗き見上げられるのは、ちょっとね。あまり綺麗に見えるアングルではないから、遠慮したいわ。まだこの国、扇文化がないのよ。やっぱり、個人的に作ろうかしら。

 それはともかく、問題は今よ。

 真正面か横、それかちょっと斜め上からのアングルが美しく見えるの。だから早く座りなさい。


 恐る恐るイスに座るロセア嬢に、わたしは鏡で研究した、美しく慈悲深い表情でもって微笑みかけた。

 ちなみに、お手本はトランお兄様よ。


 そしてロセア嬢の目が見開き、次の瞬間、決壊したように流れる涙。


 わたしの美しさに感極まって泣くなんて、なんて素直な子なの。でも気持ちはわかるわ、あまりに美しいと、感動して泣けてくるものね!

 個人的には、感動してる時ぐらいそっとしておいて上げたいのだけれど。今はちょっと時間ないのよね、残念。


「もう大丈夫だから、そんな風に泣くのはおよしなさい」


 ハンカチ渡して、宥めて……あら、余計、泣き出したわ。困ったわね、と思ったら、降ってくる無愛想な声。


「おい、泣き止め」


 バカね、それで泣き止むなら、子育て中の母親は困らないわよ。というか、絵面がまんま不良と美少女。おまわりさん、呼ぶわよ。


「嬢ちゃん、つらかったなぁ。ほら、ぜんぶ話してみろや、オレが聞いてやるからさぁ、な?」


 さすが大ベテラン、いぶし銀! 泣いてる娘を案じる、普段は厳しいけど優しいパパンっぽいわ。


 なんとか聞き出した所。

 やっぱり、あの侍女はロセア嬢の見張りだった。フェミンゴ男爵が付けた侍女で、十日に一度、報告の手紙を送っているそう。それで手紙が届かない場合、ロセア嬢の本当のご家族がどうなるかわからない、ですって。


「男爵様に逆らえず、大変、申しわけありませんでした……っ」


 第三王子殿下の愛人になれというのは、フェミンゴ男爵の命令だったと。

 で、行き過ぎて、婚約破棄になったと。

 フェミンゴ男爵、ロセア嬢の治癒魔法のアレを受けてないし、訓練場のあの異様な風景を見てもいないから、どれほどの異常事態かわかってないみたいで。ロセア嬢がどれほど止めても、命令は変わらなかったらしいわ。

 侍女は見張りで、目を盗んで助けを求めることもできず、今やっと、声を上げることができました、と泣き崩れている。


 領主の治める土地に住む領民は、領主の「物」。領民をどう扱おうと、他家が口出しできるものではないけれど。

 これは、アトレイタスお兄様か、お父様の案件ね。あとで相談しましょ。


 ロセア嬢の話を聞いていた兵士に、ちらりと視線を向ける。心得た様に兵士はその場を辞し、代わりの兵士が位置に着く。

 しばらくすると、王城の上級騎士がやってきた。一緒にわたしの侍女と、護衛の色気ホストと、兵士に拘束されてきぃきぃと喚くロセア嬢の侍女を連れて。


「あとはそちらのお仕事ですね、お任せします。ただし」


 さすがにね、男爵養女のハニトラなんて、成功したならただの恋愛話(シンデレラストーリー)。失敗しても、ただフラれただけの(ありきたりな失敗)話でしかないけど。実害があったらそれは問題になるわ。今回、王命の婚約を破棄する事件にまで発展してるんだもの。

 原因は究明され、経緯は詳細に調査され、犯行に及んだ罪人には罰を、下手すれば斬首ものよね。

 罪人は誰? 王命に反した第三王子殿下? 誑かしたロセア嬢? それを命じたフェミンゴ男爵?

 それとも、関わった者全員?


 少なくとも、このままではフェミンゴ男爵はもちろん、その養女のロセア嬢は確実でしょう。とくに元々平民のロセア嬢なんて、連座でその家族まで抹消されかねないわ。

 いいえ、確実に。貴族の醜聞を隠すために、家族ごとありもしない罪を被せられて、大逆人の石打刑(スケープゴート)よ。

 だからわたしは、声に力を込めた。


「ただし、ロセア嬢には配慮を。わたし、キグナスバーネ伯爵家長女コラヴィアが願います。

 安心せよと、そう、伝えました。ロセア嬢はそれに応え、話して下さったのです。ロセア嬢の信頼を、このわたしが、得たのです。

 このことをよくよく含めて、ご報告をしてくださいませ」


 だめね、今世の常識では命なんて、それこそ他領の平民の命なんて石ころ程度だって分かってるのに。前世の常識が、邪魔をする。

 それに、なによりも!

 前世のわたしと、今世のわたしが、魂を一つにして叫ぶの。この美しく綺麗な外見を汚してなるものか! って。

 信頼を寄せてくれた少女を見捨てる?

 自分はどうなってもいい、と身を投げ出す平民を、石ころのように蹴飛ばす?


 わたしを誰だと思っているの!

 わたしは!

 スーパーハイパーウルトラゴージャス美人、コラヴィアちゃんよ!


 わたしの美貌に一片の欠け無し! 性格ブスなんて、(もっ)ての外!

 常在戦場! と気合を入れ直して、わたしはダメ押しに、恐らく捜査の責任者であろう上級騎士に、とっておきの微笑みを向けた。


「彼女のこと、どうぞよしなに頼みますわね?」


 引きつった顔の上級騎士とそんなやり取りしてると、拘束されていた男爵家の侍女が大声で叫んだ。

 両腕は掴まれたまま、首だけを必死に伸ばして、自分も、と。


「私も、私だって男爵様に脅されていたんです! 報告を欠かせば鞭打ち! この子が命令通りに動かないようなら、私を辞めさせると!

 だから、だからっ、私も助けて下さい!!!」


「なら何故、ロセア嬢と口を一つにして、助けを求めなかったの? 第三王子殿下の様子がおかしくなった時に、他の治癒術師に相談は? 謹慎処分を受けた時に、見張り兵に事情を説明すれば良かったでしょう?」


 男爵の目から離れた時点で、ロセア嬢と手を取り合っていれば良かったのよ。男爵が知る術なんて侍女からの報告だけなんだから、共謀して、男爵を欺けば良かったのよ。


「あなたは、あなたの都合のためだけに動いた。

 ロセア嬢は男爵の命令に従っていれば良い。ロセア嬢は男爵の言う通り、第三王子殿下の愛人になれば良い。

 でなければロセア嬢の家族が死ぬだけだと、そう伝えるだけで」


 ドレスの裾さばき良し、角度(アングル)良し、目線(見下し)良し!


「あなたは、あなただけは、安全でいられる。

 ――もう、遅いのよ」


 パーフェクト!!!

 良いわ、わたし、決まったわね!

 美人からの最後通牒って、効くのよねぇ。前世で、勘違い男を袖にする美人さんとか、彼女面するイタイ幼馴染を冷ややかに一刀両断するイケメン、遠くから見てるだけで背筋が凍ったもの。


 だいたい、本人はそのつもりなくても、侍女はロセア嬢にとってはフェミンゴ男爵そのものだったのよ。報告一つで、ロセア嬢とその家族を殺すことができる。

 一家族の生殺与奪の権を握っていたのは、楽しかったかしらね。少なくとも、ロセア嬢は侍女の奴隷だったわ。何を書かれるかわからないから、口答え一つできなかった。

 それを、自分も被害者だ、なんて。


 ……やめやめ、ここまでよ、わたし。

 人のことを悪く言う時って、ほんと醜悪な顔になるんだから。前世のクレーマーの顔なんて、見れたものじゃなかったわ。

 さぁ、切り替えて、アトレイタスお兄様と合流しましょう。宰相閣下とのお話が、もう終わってると良いのだけれど。


 でも、さっきの報告も含めて、ロセア嬢のご家族のこと、アトレイタスお兄様にはどう説明しようかしら。

 美しく、エレガントにまとめたいわね!

 サブタイトル、良い仕事しましたね。泥棒猫と対決しましたよー(棒)。

 そしてロセア嬢、元々平民だから。事情(貴族からの庇護)がなければ、王族にコナかけるなんて不敬、連座で家族ごと首ちょんぱ☆ されてもおかしくないよねっ、というわけで。

 主人公、丁寧に扱えよ、と釘を刺しました。


(小ネタ)

「もう遅い」を出してみました。

これぞハイファンタジー!


次、14話「宰相閣下のお友達は胃薬」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生系ファンタジー・絵本童話と都市国家の話
「続きはまた明日」
https://ncode.syosetu.com/n0693ik/

力技、でも正しい政略結婚の話(ジャンル恋愛)
「これは政略結婚です」
https://ncode.syosetu.com/n1556iq/

アルナシオン国の話(転移系ファンタジー・短編)
「彼方にて幻を想う」
https://ncode.syosetu.com/n8732id/

ファンタジー世界のミステリ一作目
「癒し手の偽り ~おお、悪役令嬢よ、死んでしまうとは情けない~」
https://ncode.syosetu.com/n7095ie/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ