13話 対決、泥棒猫!
医療班の治癒術師ロセア嬢、彼女の自室が当の本人の軟禁場所。一応、名目としては、自室で謹慎中ってなっているんですって。
部屋の前に兵士が四名いてガッチガチに見張ってる時点で、監禁と変わらないんじゃないかしら。自室が牢獄に変わっただけじゃないの。
高位貴族連中が政治上の都合で、おためごかしに「第三王子殿下の想い人を無下に扱うのはいかがなものか」と、男爵家養女の扱いをすったんもんだした挙句、便宜上――自室で大人しくしててね――な措置の結果が、コレ。
わたしと面会ということでロセア嬢は自室から連れ出されて、見張りの兵士共々、医療班宿舎の客室に。
先触れもしてあったから、見張りの兵士はすぐ通してくれた。
扉を開けてもらったその先には、訓練場で見た時と寸分違わない、柔らかそうなピンク色の髪、優し気なウィスタリア色の瞳をした、花の妖精みたいなロセア嬢。と、三十代半ばのブルネットの髪の侍女。
よくよく見るとこの侍女、真面目そうというよりも、融通の利かない厳めしい感じで、怒りっぽそう。口元なんか見るに、への字が標準装備みたいだし。
我が家の、わたしの薫陶を受けた侍女の、にこやかな笑顔を見習ってほしいわ。
客室と言っても、頑丈そう、しっかりしてそう、なだけのテーブルにイス。シャレっ気なんかなくて、ただ話し合うためだけに用意された部屋。
わたしの護衛はともかく、王城から遣わされた護衛は、王家の耳。客室警護の兵士たちだって、言わずもがな王家の目。
つまりは、ここで話したことはすべて、王家もご存知になられる、ということ。
――さて、ロセア嬢とは、とりあえず腹を割って話したいのよね。侍女は邪魔、要らないわ。
「喉が渇いたわね。お茶を用意してくれる?
わたしが気に入ってる、あのお茶がいいわ」
わたしの侍女が短く返事をして、ロセア嬢の侍女にお茶の用意を、と言って部屋から連れ出そうとするけれど、予想通り、嫌がって抵抗。
ロセア嬢から離れたくないんでしょうね、この侍女。
でもね、主の客人に茶の一つも出さないって、その時点で頭おかしいのよ、侍女にあるまじきことよ。
その行動は、自分は怪しい人ですーっ、て大声で自供してるも同じなの、わかってる?
あまりの怪しさに、王城の兵士が侍女に疑惑の視線を向けた時。わたしの護衛の色気ホストが、腰と肩を抱いてロセア嬢の侍女を力づくで……もとい、モノホンのホストも真っ青になるぐらい、口先三寸で誑かして部屋から連れ出していった。
部屋から出て行く時はもちろん、ウィンク一つ残していったわ。
あまりのことに、部屋に沈黙が落ちて。
その一瞬に、ロセア嬢が動いた。
ロセア嬢が立ち上がると同時に、わたしの目の前を塞ぐ筋肉の壁。
「どうか、どうか助けて下さい! 私はどうなってもいい、罰だというのならなんだって!
だから、だからっ、家族を助けてっ……」
壁の向こうから聞こえてくる、泣くのを堪えて縋りつかんばかりに必死に訴えかけてくる声。
……邪魔よ、逞しい背中を見せつけなくていいから、退きなさい、うっとうしい。この質実剛健野郎が。
危険はないと判断したのか、壁が横にずれて――わたしの目に見えたのは、両膝を床に付け、額さえも床に擦り付けんばかりに下げに下げられた、ロセア嬢の後頭部。
嘆願の為に伏せられても……どうせなら、わたしの美貌を目にすることができた栄誉に、打ち震えてくれないかしら。
「話を聞きましょう。
顔を上げることを許します。イスに座ることを命じます。
さぁ、詳らかに話しなさい」
下から覗き見上げられるのは、ちょっとね。あまり綺麗に見えるアングルではないから、遠慮したいわ。まだこの国、扇文化がないのよ。やっぱり、個人的に作ろうかしら。
それはともかく、問題は今よ。
真正面か横、それかちょっと斜め上からのアングルが美しく見えるの。だから早く座りなさい。
恐る恐るイスに座るロセア嬢に、わたしは鏡で研究した、美しく慈悲深い表情でもって微笑みかけた。
ちなみに、お手本はトランお兄様よ。
そしてロセア嬢の目が見開き、次の瞬間、決壊したように流れる涙。
わたしの美しさに感極まって泣くなんて、なんて素直な子なの。でも気持ちはわかるわ、あまりに美しいと、感動して泣けてくるものね!
個人的には、感動してる時ぐらいそっとしておいて上げたいのだけれど。今はちょっと時間ないのよね、残念。
「もう大丈夫だから、そんな風に泣くのはおよしなさい」
ハンカチ渡して、宥めて……あら、余計、泣き出したわ。困ったわね、と思ったら、降ってくる無愛想な声。
「おい、泣き止め」
バカね、それで泣き止むなら、子育て中の母親は困らないわよ。というか、絵面がまんま不良と美少女。おまわりさん、呼ぶわよ。
「嬢ちゃん、つらかったなぁ。ほら、ぜんぶ話してみろや、オレが聞いてやるからさぁ、な?」
さすが大ベテラン、いぶし銀! 泣いてる娘を案じる、普段は厳しいけど優しいパパンっぽいわ。
なんとか聞き出した所。
やっぱり、あの侍女はロセア嬢の見張りだった。フェミンゴ男爵が付けた侍女で、十日に一度、報告の手紙を送っているそう。それで手紙が届かない場合、ロセア嬢の本当のご家族がどうなるかわからない、ですって。
「男爵様に逆らえず、大変、申しわけありませんでした……っ」
第三王子殿下の愛人になれというのは、フェミンゴ男爵の命令だったと。
で、行き過ぎて、婚約破棄になったと。
フェミンゴ男爵、ロセア嬢の治癒魔法のアレを受けてないし、訓練場のあの異様な風景を見てもいないから、どれほどの異常事態かわかってないみたいで。ロセア嬢がどれほど止めても、命令は変わらなかったらしいわ。
侍女は見張りで、目を盗んで助けを求めることもできず、今やっと、声を上げることができました、と泣き崩れている。
領主の治める土地に住む領民は、領主の「物」。領民をどう扱おうと、他家が口出しできるものではないけれど。
これは、アトレイタスお兄様か、お父様の案件ね。あとで相談しましょ。
ロセア嬢の話を聞いていた兵士に、ちらりと視線を向ける。心得た様に兵士はその場を辞し、代わりの兵士が位置に着く。
しばらくすると、王城の上級騎士がやってきた。一緒にわたしの侍女と、護衛の色気ホストと、兵士に拘束されてきぃきぃと喚くロセア嬢の侍女を連れて。
「あとはそちらのお仕事ですね、お任せします。ただし」
さすがにね、男爵養女のハニトラなんて、成功したならただの恋愛話。失敗しても、ただフラれただけの話でしかないけど。実害があったらそれは問題になるわ。今回、王命の婚約を破棄する事件にまで発展してるんだもの。
原因は究明され、経緯は詳細に調査され、犯行に及んだ罪人には罰を、下手すれば斬首ものよね。
罪人は誰? 王命に反した第三王子殿下? 誑かしたロセア嬢? それを命じたフェミンゴ男爵?
それとも、関わった者全員?
少なくとも、このままではフェミンゴ男爵はもちろん、その養女のロセア嬢は確実でしょう。とくに元々平民のロセア嬢なんて、連座でその家族まで抹消されかねないわ。
いいえ、確実に。貴族の醜聞を隠すために、家族ごとありもしない罪を被せられて、大逆人の石打刑よ。
だからわたしは、声に力を込めた。
「ただし、ロセア嬢には配慮を。わたし、キグナスバーネ伯爵家長女コラヴィアが願います。
安心せよと、そう、伝えました。ロセア嬢はそれに応え、話して下さったのです。ロセア嬢の信頼を、このわたしが、得たのです。
このことをよくよく含めて、ご報告をしてくださいませ」
だめね、今世の常識では命なんて、それこそ他領の平民の命なんて石ころ程度だって分かってるのに。前世の常識が、邪魔をする。
それに、なによりも!
前世のわたしと、今世のわたしが、魂を一つにして叫ぶの。この美しく綺麗な外見を汚してなるものか! って。
信頼を寄せてくれた少女を見捨てる?
自分はどうなってもいい、と身を投げ出す平民を、石ころのように蹴飛ばす?
わたしを誰だと思っているの!
わたしは!
スーパーハイパーウルトラゴージャス美人、コラヴィアちゃんよ!
わたしの美貌に一片の欠け無し! 性格ブスなんて、以ての外!
常在戦場! と気合を入れ直して、わたしはダメ押しに、恐らく捜査の責任者であろう上級騎士に、とっておきの微笑みを向けた。
「彼女のこと、どうぞよしなに頼みますわね?」
引きつった顔の上級騎士とそんなやり取りしてると、拘束されていた男爵家の侍女が大声で叫んだ。
両腕は掴まれたまま、首だけを必死に伸ばして、自分も、と。
「私も、私だって男爵様に脅されていたんです! 報告を欠かせば鞭打ち! この子が命令通りに動かないようなら、私を辞めさせると!
だから、だからっ、私も助けて下さい!!!」
「なら何故、ロセア嬢と口を一つにして、助けを求めなかったの? 第三王子殿下の様子がおかしくなった時に、他の治癒術師に相談は? 謹慎処分を受けた時に、見張り兵に事情を説明すれば良かったでしょう?」
男爵の目から離れた時点で、ロセア嬢と手を取り合っていれば良かったのよ。男爵が知る術なんて侍女からの報告だけなんだから、共謀して、男爵を欺けば良かったのよ。
「あなたは、あなたの都合のためだけに動いた。
ロセア嬢は男爵の命令に従っていれば良い。ロセア嬢は男爵の言う通り、第三王子殿下の愛人になれば良い。
でなければロセア嬢の家族が死ぬだけだと、そう伝えるだけで」
ドレスの裾さばき良し、角度良し、目線良し!
「あなたは、あなただけは、安全でいられる。
――もう、遅いのよ」
パーフェクト!!!
良いわ、わたし、決まったわね!
美人からの最後通牒って、効くのよねぇ。前世で、勘違い男を袖にする美人さんとか、彼女面するイタイ幼馴染を冷ややかに一刀両断するイケメン、遠くから見てるだけで背筋が凍ったもの。
だいたい、本人はそのつもりなくても、侍女はロセア嬢にとってはフェミンゴ男爵そのものだったのよ。報告一つで、ロセア嬢とその家族を殺すことができる。
一家族の生殺与奪の権を握っていたのは、楽しかったかしらね。少なくとも、ロセア嬢は侍女の奴隷だったわ。何を書かれるかわからないから、口答え一つできなかった。
それを、自分も被害者だ、なんて。
……やめやめ、ここまでよ、わたし。
人のことを悪く言う時って、ほんと醜悪な顔になるんだから。前世のクレーマーの顔なんて、見れたものじゃなかったわ。
さぁ、切り替えて、アトレイタスお兄様と合流しましょう。宰相閣下とのお話が、もう終わってると良いのだけれど。
でも、さっきの報告も含めて、ロセア嬢のご家族のこと、アトレイタスお兄様にはどう説明しようかしら。
美しく、エレガントにまとめたいわね!
サブタイトル、良い仕事しましたね。泥棒猫と対決しましたよー(棒)。
そしてロセア嬢、元々平民だから。事情(貴族からの庇護)がなければ、王族にコナかけるなんて不敬、連座で家族ごと首ちょんぱ☆ されてもおかしくないよねっ、というわけで。
主人公、丁寧に扱えよ、と釘を刺しました。
(小ネタ)
「もう遅い」を出してみました。
これぞハイファンタジー!
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