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1話 わたし、キレイ?

よろしくお願いします、と言いたい所ですが。

初手から大変デリケートな話題を扱ってますので、少しでもこれはちょっと、と気分を害された方はご遠慮なくブラバを。

自衛は大事です。


 お貴族様仕様の、くっきりはっきり映る等身大の鏡。歪みもなく、そのままのわたしを映す鏡。

 雪のような真白の肌。腰まで届く髪は、金の糸どころか黄金の滝が流れ落ちるよう。目力(めぢから)強めのばっちりしたアーモンド型の瞳は、本物の宝石よりも輝かしいサファイアブルー。

 ドレスは赤。信号機に使われてる、目に訴えかけるシグナルレッドのドレスで、明るいひらひらの色鮮やかなスカーレットのフリルがそこかしこに。足を痛めない柔らかい室内履きも、華やかなファイアーレッド(火のような明るい赤)


 (よわい)十歳の、全身余すところなく赤を纏った少女、いえ、美少女――つまりわたしが、鏡に映っていた。


「わたし、キレイ……?」


 安心して。紅珊瑚の赤い唇だけど、裂けてないし、思わずキスしたくなるような小さめの可愛らしい唇よ。

 うっとり自分の姿に魅入っていたら、くどすぎる真っ赤なドレスが目に入って。


 ――いくら赤が好きって言っても、コーディネートはもう少し考えなさいよ。でも、そういえば「昔から」赤色が好きだったわね、綺麗でかわいい自分ってなんて素敵……。


 と、うっかり前世込みで陶酔してしまったわ。

 キグナスバーネ伯爵家の末っ子、美少女コラヴィアちゃん。十歳にして、前世の凝りに凝ったコンプレックスを思い出してしまった。



 前世のわたしは、お世辞にも、キレイ、カワイイ、とは言い難い容姿だった。

 でも、いいえ、だからこそ、綺麗なものが好きだった。綺麗に、なりたかった。柳腰の見返り美人、そんな風になりたいと、お百度参りだって辞さなかった。

 だけど。

 ちょっと細め、とか、すらっとした感じ、とか、すっきりした立ち姿、なんていう容姿。いくら憧れようとも、わたしは手に入れることができなかった。

 人間には体質、というものがあって。

 食生活の結果で太ったんじゃなくて、体質的に、強制的に、食べたら体が溜め込んでしまう体質の結果、どうしようもなく太ってしまうっていう人間がいて。

 それが、わたしだった。


 ダイエットとか食事療法とか、それはもう努力してみたけど、結果的にお医者様から「体質」の判定を喰らって、あきらめた。

 だから、せめて見苦しくないようにと、清潔を心掛けた。中身も必死に磨いた。歩く姿は百合の花、は無理でも、涼やかで清涼感のある香り、理知的な雰囲気だったら、って。

 でも、現実は残酷だった。

 石鹸はとんでもなく刺激物で、清潔であろうとするわたしの、繊細で敏感すぎる肌は荒れに荒れた。美しくなるための化粧品は、わたしの肌を赤く腫れ上がらせた。

 中身をどれほど磨いても、まず認めてもらえるまでが長かった。


 八方塞がりってこういうことを言うのね、って悟ったわ。しばらく途方に暮れて、どうあっても綺麗になれないって絶望もしたけど。


 ――負けるもんか、世の中にはこんなにも綺麗、kawaiiに溢れているんだから、わたしに似合う「キレイ」が、一つぐらい絶対にある!


 安〇先生の諦めたら~、の言葉を思い出して心を奮い立たせていたら、世の中には「ぶさかわ」っていう言葉があると知って。

 目からウロコだったわ。

 ぶさかわ、良い言葉ね。ぶさいくでも、愛嬌があってかわいい。


 わたしは、一心不乱に「ぶさかわ」を目指した。


 結果的に、わたしはちゃんと「ぶさかわ」になれたと思う。ブルドッグ、フレブルとか参考にして、おっとりしていながらも朗らかに、愛想よく! 

 わたしの憧れた、キレイ、かわいい、に、自分の納得のいく限り必死に手を伸ばした。

 よく遭遇する、自分そんなに外見に力入れてないですよ、なんて風を装いつつガッツリばっちりメイクしてるエセ清楚女子にも、朗らかに愛想よく――煮詰められた毒の濁流で荒ぶりまくってる内心を、一ミリたりとも表情には出さず!

 わー、すっぴん美人さーん、何もしてなくてもキレイねー、とか言ってやって、ナチュラルメイクに気づいてないフリをして、にこにこ笑ってやったわ!


 おバカでどこか抜けてる、毒気の無い「ぶさかわ」。

 化粧お化けに煽られても、この程度で(エセ美人程度に)わたしの鉄壁の「ぶさかわ」を揺るがせてなるものかと、外面(そとづら)完全(MAX)装備で受けて立った。

 あざといが過ぎないよう自分を客観視して、日常は真剣勝負、何気ない会話こそが死線! 今! わたしは!! ぶさかわいい!!! と自分を鼓舞し続けたわ。


 他の綺麗な子たちを妬みはしたけれど、意外にも、化粧で盛りに盛ったケバい子も、あざといがすぎるぶりっ子も、モテを気取ったチャラ男も、それほどわたしの気には障らなかった。

 ああ同類ね、あなたも必死ね、せいぜい頑張りなさいよ、と口には出さなかったけれど、心の中で激励を送ることさえあったわ。

 

 それでも。

 鉄壁、いえ、硬さと柔軟性を兼ね備えたクロムモリブデン鋼並みの強度があると自負していたわたしの仮面が、剥がれそうになった時がある。


 ――ナチュラル傲慢上から目線意識高い系の、無自覚他人ディスりな奴ら。


 今思い出しても、(はらわた)に抱え込んだ嫉妬と怨嗟が煮えくり返って、溢れ出しそうになるわね。

 なにが、なにがっ! 人は見た目じゃない、よ! 

 人間、内面が大切だよね、ってぶっこいてんじゃねえわ!! それは、見た目に恵まれているから言える台詞なんだよ!!!


 見た目だけで、心無い人たちからぶさいくだの太ってるだの見下されて、その上で、清廉潔白な慈悲深い聖人君子の内面を持てるとでも!? あんたらが言う素敵な内面ってのは、外面が良くないと持てないんだよ、訳知り顔でわかったように語るな、二度とその口を開くな、ふっざけんな!


 ギラギラ輝く太陽に、シミ一つない顔を無防備に晒して楽し気に笑う、黒ツヤさらさら髪のすっぴん美人。ノースリーブのシャツにきゅっとしたほっそい腰のジーンズ姿、本当に外見に手間暇かけてない極上の麗人。


 ――繊細さのカケラもない丈夫で頑丈なツラの皮ね、デリカシーの無さって、肌に表れるものだったかしら?


 その隣では、長身痩躯って言葉がドンピシャリな八頭身男が、脱色も染めもしてない天然ふわふわ薄茶の髪が邪魔だって、適当にぐしゃっとかき上げていた。


 ――髪、セットしてなくても、風でばっさばさになっても、それが様になるってどんな嫌味? そんじょそこらの女よりもきめ細かな肌って、それなんてイヤガラセ?


 そんなのが二人揃って、外見なんてね、なんて話してる会話を耳にしたら。クロムモリブデン鋼改の仮面から素顔に変身して、メインウエポンに散弾銃、サブウエポンにジャックナイフの完全武装で特攻かけたくなったって仕方ないでしょ?


 おまえらみたいな血も涙もない人非人(にんぴにん)に、人の大切さの何たるかを語る資格はない! って。


 散弾銃なら、素人でも命中させやすいって聞いたし。大振りのジャックナイフなら、腰だめに構えてぶつかって行けば、深めにぶっ刺せると思ったのよね。

 まぁあんな、絶対に血の色は緑だろう人でなしのために、わたしの人生を棒に振るのもどうよ、って正気に返ったけど。



 鏡にコツン、と額を当てて、ふう、と思わずため息を吐いた今のわたし……憂いがあって素敵ね、綺麗だわ。

 等身大の鏡に映る綺麗な自分に見惚れて精神回復してたら、うっかり、前世のコンプレックスとか、絶許事件を思い出してしまった。

 そうね、やっぱり、今日の出来事がショックだったのよ、わたし。第三王子主催のお茶会、つまりは、未来の側近や未来の王子妃を見繕うため、そして親睦を深めるためのお茶会。


 第三王子殿下。わたしには劣るけれども、光を弾く金髪は明るく輝かしく。瞳だって薄茶色というよりも、陽の光の下では黄金色のトパーズイエローに見えて綺麗だった。

 将来絶対格好良くなる、と断言できるぐらいには、引き締まった口元や意志の強そうな目元、堂々たる態度は幼いけれども十分見ごたえがあって、遠目で見ている分には眼福だったけれど。


 事もあろうにあの第三王子、挨拶に近寄っていったわたしを見て、次いでこの赤くてレースもふんだんに取り入れた華やかで豪奢なドレスを凝視した後、顔を(しか)めてふいっと目をそらしやがったのよ!

 この綺麗でかわいいコラヴィアちゃんに出会えて、喜びのあまり跪いてむせび泣くならともかく、嫌そうに顔を顰めるって、どういうことよ!


 殿下ってば名ばかりとは言え、お茶会の主催者でしょう!? たしかわたしよりも一つ上、十一歳だったはず。人間関係とか、立場とか、もうそこそこ考えることができるお年頃よねえぇぇ?

 十歳のわたし……前世のコンプレックスをちょっぴり思い出した程度だから、頭脳は大人、じゃないわ。

 当たり前の十歳だって、処世術ぐらいわかっていてよ。前世のわたしなんて、幼稚園の頃から……あら、幼稚園って何だったかしら……ともかく、とっても小さな頃から、人の顔色を窺っていたんだから。


 子供は残酷よ。自分たちと少しでも違っていたら仲間じゃないって、ハブってオモチャに、遊び道具にしようと(イジメようと)するもの。

 わたしなんて真っ先に標的になりそうなところを、必死で回避したわ。大人の目のある所で朗らかに、子供たちの中では道化て、邪気も無邪気も陰に篭らないよう、必死に笑顔で明るく振る舞ったものよ。

 味方をより多くつけて、無形の悪意に晒されないよう、自分で自分を守ったわ。


 だからもう十一歳なら、自分の振る舞い方ぐらい、わかってるはずなのよ。王族よ? 第三王子よ? 王太子殿下たるお兄様を補佐する立場よね?

 あれは照れて、とか、人見知りで、とかで咄嗟に取ってしまった行動じゃないわ。そんな心の機微ぐらい、わたしにはわかる。前世のわたし、綺麗な人に意図せず出会ってしまったら、挙動不審になって(キョドって)たもの。

 こんな綺麗な人の目に私が映って、どう思われるだろう、なんて言われるだろうって冷や汗だらだらになってたし。すれ違った後わざわざ振り向いて、綺麗だな、羨ましいな、でもほんと綺麗だなって、つい、じぃーっと見つめるって、後ろから睨んでるのと大差ないわよね。

 雰囲気が大違いだからすぐわかる……え、わかるわよね? わたしにはわかるわ!


 だから殿下は、わたしを見て本当に嫌だったから、顔ふいっ、したのよ、間違いないわ。あからさまに人を見て嫌そうな表情浮かべるって、何考えてるの? バカなの?

 兄たる王太子殿下をサポートして、これからみんなで頑張っていこー、っていう親睦会みたいな場で、敵を作ってどうするのよ!!!


 供回りから報告は上がってるはずだし、すでにお父様はご存知でいらっしゃるとは思うけれども。当事者からの意見という後押しも、大事よね。

 わたしは第三王子殿下の、お友達にも王子妃にもなりたくありませんって、ちゃんと意思表示しておかないと。


 わたしは鏡に映る幼い美少女、未来の絶世の美女に向かって、安心させるように微笑んで見せた。

 大丈夫、わたしは綺麗、美しいわ。わたしの美しさを解さない、あんな無礼で無粋で無骨な愚か者なんて、気にする必要はなくってよ。

 そうだわ、こんなに外見に恵まれたんだもの。

 この世界に生まれさせてもらった感謝を、毎晩捧げるのは当然としても。気持ちを形にしておくのも大事よね? お布施に寄進、できる限りのことをしておかなければ。


 そして――せっかくのこの外見(チャンス)。中身で台無しにしてしまったら、泣くに泣けない。

 外見がどんなに良くても、性格ブスは「無い」わ。外見だけで見下してきたあんな性格ブス達と、同列にはなりたくないわね。


 自分の性格が壊滅的なのは、わかってる。人の外見を真っ先にチェックしてる時点で、終わってるもの。

 でもそんなの、悟られなければいいのよ。思うだけで、外に出さなかったらノーカンよ、ノーカン。性悪説って、努力で善人になるんでしょ。青は藍より出でて藍より青し。才能に胡坐かいてる天才より、努力した秀才の方が勝る。


 せっかくの外見なんだもの。中身も磨いて、スーパーハイパーウルトラブリリアントゴージャス美人を目指すのよ!

 顔ふいっした第三王子なんて、今後一生、美しいわたしを手に入れる栄誉を逃したと、絶望に泣き叫んでいればいいんだわ!


 わたしは侍女にお父様と面会ができないか、執事に取り次いでもらうよう伝えて――許可を得て通された執務室で、あの第三王子殿下の婚約者なんて絶対にイヤですって、お父様に断固拒否をお伝えした。


長いサブタイですが、本当は「ビューティフル」「ブリリアント」も入れたかったです。

なお、ジャンル:ハイファンタジーなので、恋愛要素は(無いとは言いませんが)ほとんどありません。

そして「キグナスバーネ」――ネーミングセンス? 知らない子ですね?

ここは「なろう」! さぁ、呪文をご一緒に。

ここは「なろう」! 最強の呪文です。


豆知識:少女の定義、七歳から十八歳前後だそうです(調べました)


次、二話「下のお兄様は文学な少年系」


※誤字脱字は随時こっそり修正していってます。

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