結局は消される運命
物置小屋は扉が閉まれば、窓は小さく、上の方に二つあるだけ。中は暗い。そこで魔法を使い、火を使った。それがうっかり……で燃えたわけだ。物置小屋に閉じ込められた、ということを演出するため、自身で扉に魔法をかけていた。つまり、人力で開けようとしても開かない。燃え盛る炎に魔法を使ったことを失念し「扉が開かない!」とパニックになり、あわや焼け死ぬところをブロン皇太子に助けられた――というのが事の真相だった。
「ジュード、ヒルデン伯爵令嬢をアーク・タワーへ幽閉するよう、動いてくれ」
ホリーの尋問が終わり、その胸の中からようやく解放された。ブロン皇太子は自身の近衛騎士の隊長にホリーを幽閉するよう指示を出している。
「!」
あの宇宙空間が瞬時に消えたと思ったら、応接室へ戻ってきていた。大魔法使いマランは袖をごそごそしており、どうやら“真実の石”を片付けている。
ということは、私は“真実の石”を使った尋問もなく……え、いきなり抹殺コース!?
背中に汗が噴き出すのではなく、血の気が引いた。
でも……仕方ないのかな。
悪役令嬢だから結局は消される運命……。
「それでは殿下、老いぼれは失礼させていただいてもよろしいですか?」
「ああ、急に呼び立ててすまなかった。ありがとう」
「殿下のお役に立てて光栄です」
大魔法使いマランは手を胸に当て、恭しくブロン皇太子に一礼する。それを終えると顔をあげ、私を見てニッコリ笑う。
「ではナイトリー公爵令嬢。次は御身の結婚式で会いましょう。ごきげんよう」
「あ、はい?」
結婚式? それはない、ない。婚約破棄された上に、今から私は消される運命。
「!」
優しい風がふわりと吹いたと思ったら、大魔法使いマランの姿は消えている。自由自在に魔法を使えるってすごいわ。剣と魔法の国だけど、リアは稀にしか魔法を使わない。魔法を使うにはマナを消費するし、元々マナを沢山持っているわけではないからだ。
そこでハッと気づく。
これは……そして誰もいなくなった……という状況では!?
応接室にブロン皇太子と私だけしかいない。
この部屋で抹殺されるの!? でも皇族のみが知る魔法を知ってしまったのだ。これを外部に漏らすわけにはいかない。ということは……。
「殿下」
「ああ、ちゃんと説明する。まずはソファへ座ろう」
説明……? 説明って何の説明……?
ともかく言われるままにソファに腰を下ろした。
「殿下」
「そう慌てるな。お茶を運ぶように命じたから、それからだ」
お茶を飲む時間は……与えてもらえるのね。
でもそれだったら……。
「殿下。お茶よりも、最期に家族に会わせてください」
「最後?」
「皇族のみが知る魔法の呪文を、私は知ってしまいました。よって私は……元々、ヒルデン伯爵令嬢を物置小屋に閉じ込め、火を放った件。これは私の仕業であると断罪され、斬首刑にされるものと思っていました。命拾いした……のかと思いましたが、私は消える運命だったのだと思います。ですからできれば痛みが少なく、瞬時に逝ける形でお願いできれば……。でもその前に家ぞ」
いきなり隣に座るブロン皇太子に、またも抱きしめられた。悲鳴をあげそうになるが、今度は完全に顔を彼の胸に押し当てられ、声が出ない。もしかしてこのまま窒息死……!?
「リア、君は頭が回り過ぎる。二人きりの時は、さっきみたいに『へ?』『わぁーーーーっ』と言うぐらい、緊張を解き、リラックスしてくれ」
「?????」
ビックリしすぎて目が点になっていた。リアらしからぬ、素の私の叫び声を、あのブロン皇太子が真似ている!? 何が起きているのかと軽くパニック。
「わたしの横に立つために、日々努力してくれていること、それは痛いほど分かっている。わたしは既に皇太子教育を終えているが、リアはつい最近、皇太子妃教育を終えたばかり。忙しくしているリアを邪魔できないと思っている矢先に、ヒルデン伯爵令嬢が現れた」
ブロン皇太子は小さくため息を漏らす。
「ヒルデン伯爵家は、母方の遠縁だ。無下にはできない。そこで声をかけられれば応じていたが……。物置小屋の火事以降は、犯人がリアだと言われ、ヒルデン伯爵令嬢からまさに喉元に刀をつきつけられているようだった。半ばヒルデン伯爵令嬢の言いなりのような状態。いや、これは言い訳に過ぎない。誤解を与えたようだ。すまなかった」
そう言うとゆっくり力を緩め、私から体を離したブロン皇太子の碧い瞳は……。いつも通りの聡明さの中に、なんだか照れが見えた。
状況を理解したいのだけど、これはつまり……。


























































