抹殺される……!
ここは乙女ゲーム『恋のヴィナース~うたかたの恋』の世界で、剣と魔法の国「フレミング皇国」なのだ。魔法は珍しいことではない。でもこれは……。
通された部屋は、宮殿によくある応接室だった。暖炉があり、ソファセットがあり、壁には美しい絵画、天井には豪華なシャンデリア、床にはふかふかの絨毯。だが大魔法使いマランが指を鳴らした瞬間、それらのインテリアは消え、室内にいた近衛騎士の姿も消えている。
まるで宇宙のような空間には、ソファで首をたれ、座るホリー、大魔法使いマラン、ブロン皇太子、そして私だけがいる状態だった。なんだか自分が浮いているような、不思議な状態。
「では殿下、こちらを」
大魔法使いマランが、ローブの袖から取り出したのは、野球ボールぐらいの黒い球。中には……宇宙が閉じ込められている!? あれが“真実の石”なんだ……。
ブロン皇太子は、“真実の石”を大魔法使いマランから受け取ると、その場で魔法を詠唱する。すると“真実の石”はホリーの方へ移動し、彼女の手の平の中に収まった。
「皇国の月を」「待ってください!」
魔法の詠唱を始めたブロン皇太子に、ストップをかけた。これからブロン皇太子が使おうとしているのは、皇族のみに伝わる特殊な魔法の呪文。大魔法使いマランは、皇族の一員と言っても過言ではなく、聞いたとしても問題ないと思う。
でも私は違う!
さっき婚約破棄もされ、無関係な人間。それでもしこの特殊な呪文を聞いてしまったら……。消される! 例えホリーが真実を明かし、私が無罪だと分かっても。ここで呪文を聞いてしまえば、知ってはいけない皇族の秘密を知ったと言うことで、抹殺される……!
「で、殿下、これから唱えられる魔法の呪文は、私が聞いてはならないものだと思います」
「構わぬ」「へ?」
思わず私の素が出てしまい、大魔法使いマランが「なんと! 才色兼備のナイトリー公爵令嬢から、随分と可愛らしい声が漏れましたなぁ」と言われる始末。
羞恥でもじもじしているうちに、ブロン皇太子が魔法を詠唱してしまい、私は「わぁーーーーっ」と叫んでしまった。
「落ち着け」
ブロン皇太子に突然抱きしめられ、今度は別の意味で悲鳴を出しそうになり、でもそれは彼の手で口を押えられ、何も言えなくなる。
「ヒルデン伯爵令嬢。これから問うことには正直に答えよ」
「はい、殿下」
意識を失っているはずのホリーが、ブロン皇太子に答えている!
「無意識下にある精神に、魔法で問いかけを行っている。嘘を答えることはできない」
ガーンって古典的な反応をしてしまう。終わった。ここで遂に詰んだ! 皇族にだけ伝わる特殊な魔法の神髄を、神秘と言われる秘密を聞いてしまった。ホリーの罠で、斬首刑にされる事態からは、逃れることができそうなのに。知ってはいけないことを知って、消されることになるなんて……!
私が衝撃を受けている間にも、ブロン皇太子によるホリーへの尋問は続いている。
「宮殿の庭園にある物置小屋に入ったのは、自身の意志か?」
「そうです、殿下」
「ナイトリー公爵令嬢に閉じ込められたと言うのは、嘘か?」
「はい、嘘です、殿下」
ブロン皇太子の問いかけに、ホリーはあっさり非を認めた。
無事、無罪確定!
思わず嬉しくなった瞬間。
なんだかブロン皇太子にぎゅっと抱きしめられたような?
というか、なぜこの状態? この状態……ホリーへの尋問は始まっているのに、私はブロン皇太子に抱きしめられたままだった。
「なぜ、そんな嘘をついたのだ?」
「殿下の気を引くためです」
「わたしには婚約者がいると、何度も言ったのに」
愚痴るようにブロン皇太子が呟くと、大魔法使いマランが「ふおっ、ふおっ、ふおっ」と楽しそうに笑う。
「殿下。乙女心とはそう言うものですよ。殿下のような方であれば、なおのことでしょう。おモテになりますから。大切なことは一つ。いくらモテようと、心に決めた相手がいるならば、誤解を生むような行動は慎むべきです。ですが誤解をされてしまったら、それは解けばいいだけのことですがね」
「う、うるさいぞ、マラン! 余計なことを言うではない!」
なんだかこんなに焦るブロン皇太子は、珍しい……と思っている最中にも、彼はテキパキと尋問を続け、必要する情報を聞き出していく。私情を挟むことなく、ブロン皇太子がホリーに問いかけを続けた結果、分かったこと。
やはり物置小屋に閉じ込められ、火を放たれた――これは自作自演だったということだ。


























































