信じる、信じないも……
もう来るところまできた私は、舞踏会の開始の挨拶の前にブロン皇太子に呼ばれ、ホールの中央で、向き合うことになった。
私の目の前には、ブロン皇太子とホリーがいる。そこで開口一番、ブロン皇太子が告げた言葉がこれだ。
「リア・ナイトリー。君との婚約破棄を考えている。わたしは連日、ある件について君の弁明を求めたが、君は……一切応じなかった。それはつまり、すべての非を自らにあると認めるということだ。そう、わたしは解釈するが、それでいいのか?」
「殿下。今さら私が何か並べて申し上げたところで、信じてはいただけないのでしょう?」
なるべくリアらしく振る舞うことにした。言葉遣いもね。
リアの日記に書かれた彼女の気持ちに沿い、答えると決めた。
「どうして……そのような言い方をする?」
「ではなぜ、殿下は私ではなく、ヒルデン伯爵令嬢をエスコートされているのですか?」
「!? なぜ、今そんなことを問う? 質問しているのはこちらだ!」
ブロン皇太子は、いつも冷静なのに。こんな風に感情を露わにするのは、珍しくない? これで彼の浮気を指摘したら……ダメだろうな。聞く耳は持たない。
もうさ、断罪回避の行動はとれないと思ったから、破れかぶれ。当たって砕けろ。ゲームをプレイしている時から感じていたことを、ブロン皇太子にぶちまけるつもりでいた。それは……。
婚約者がいるのに、ヒロインに心奪われるって、実はヒドイよね!?ということ。そもそもリアが悪役令嬢になってしまうのも、婚約者に手を出しているからで……。ヒロインが、婚約者のいる攻略対象の心を奪うことを正当化するために存在しているのが、悪役令嬢なんじゃないの?と私は気づいてしまったのだ。
これね、乙女ゲームの根底を覆すから、声高には言えなかったけど。
そして今回それを言おうとしたけれど、ブロン皇太子がもう怖くて無理ですー。
そこで私がリアらしく言った言葉。
「殿下の質問には答えています。私のことを信じていただけないと思っている理由は、申し上げた通りです。殿下は私ではなく、ヒルデン伯爵令嬢をエスコートされている。これがすべてです」
伝わる? 伝わらない?
そう思ったらブロン皇太子は一瞬。
なんだか泣きそうな顔になり、そして唇を噛みしめ、絞り出すような声で告げた。
「リア・ナイトリー公爵令嬢。君との婚約を……破棄する」
ホリーがニヤリと笑う。その顔を見て「ああ、リアが日記で書いていたことは事実だ」と確信できた。この顔を見ることで、私の雑草魂に火が付く。
だってさ、この顔を見るまでは、リアの日記が真実とは確信できなかった。一部推測も含まれていたしね。記憶を取り戻しても、ホリーの行動をすべて自分の目で見たわけではない。でもこれで間違いない。ヒロインは……腹黒だった!
そしてあの言葉を、私から問うことになる。
「殿下、最後にもう一度だけ確認します。今の御言葉に、二言はないですか?」
「二言はないか、だと! 婚約破棄を告げたのは、このわたしだ!」
「そうでしたね。失礼いたしました。では殿下と私の婚約は破棄されたということで、すべてをお話します」
ヒロインが腹黒であることは、すぐにバレる。だからそれはもういい。大切なのは、彼から婚約破棄の言質をとること。リアはブロン皇太子を自由にしたいと思っていた。ホリーは腹黒だからダメだ。でもホリーのような女性は、この世界に沢山いる。腹黒じゃなく、愛嬌のある女性が。そんな女性とブロン皇太子が結ばれればいいと、リアが考えていたなら……。そうしてあげよう!と思ったわけだ。
ホリーが嘘をついているとバレ、婚約破棄がされていなければ、リアが日記に書いた希望はかなわない。それを実現するには……。まずは婚約破棄ありき、だ。
そしてそれができたわけだから、後はリアの日記に書かれていたことを、淡々と口にした。勿論、日記を持参していたので、それを読み上げたわけだ。
信じる、信じないも、皆様次第ということで。
「……後出しで話すことになり、申し訳ございませんでした。ですがこれがすべてです。私では、殿下が求める女性としては力不足でした。よって殿下がそちらにいるヒルデン伯爵令嬢に気持ちが向かったのも、仕方ないこと。それを見て沢山の嫌がらせを重ねたのは、悪いことだと自覚しています。申し訳ありませんでした」
そこでしっかり頭を下げ、ゆっくり顔を上げる。
「心から反省もしています。ただ、本当に私は、ヒルデン伯爵令嬢を物置小屋に閉じ込め、火を放つようなことはしていません」
ブロン皇太子が無言なので、ホールにいる貴族達も固唾を飲んで見守るしかない。
長い、長い沈黙の後に、遂にブロン皇太子が口を開いた。

























































