あ、詰んだ。
パラりと広げた日記を見て、フリーズし、閉じる。
やばい。
悪役令嬢リアって、病んでいた!?
だって日記の一ページ目は、インクで真っ黒に塗りつぶされているのだからー!
ゲームで悪役令嬢リアの設定ってどうなっていましたか?
確か公爵家の令嬢で、才色兼備、性格は……ああ、そうだった。性格はね、悪役令嬢だから、キツイっすよね。でも真っ黒にインクを塗りつぶすような性格でしたっけ?
再度、日記を開き、真っ黒のページを恐る恐るめくると……。
あ、普通に文章が書かれている。
安心してペラペラと残りのページを見ると、普通だった。なんだ。この黒い一ページは、もしや誰かから日記を見られないよう、対策をしたのかしら?
そう思い、日記に目を通した私は……悪役令嬢リアのゲームでは明かされていない……これは裏設定!?を知ることになった。そんなことになっていたの、ともうビックリ。
まず分かったこと。
現在、リアは二十歳。前世の私と近い年齢だった。でもってリアの運命を決める、結婚の誓約が本来行われるはずの舞踏会は……なんと今晩に迫っていた。さらにヒロインが攻略対象に選んだのは、この国の皇太子ブロン・ワース・フレミング。ヒロインであるホリー・ヒルデンへの嫌がらせは……たっぷりした後だった。
あ、詰んだ。
そう思った。もう既にしでかした後だったのだ。もう断罪回避は無理じゃん!
ただ、この嫌がらせをしたことをリアは、ものすご~く、反省していた。その反省の想いが日記には綴られている。さらに自身がそんなことをしてしまう理由を、こう分析していた。
『身分に恵まれ、才色兼備、ゆえに性格はきつく、私は育ってしまったと思う。対してホリー・ヒルデンは伯爵家の令嬢だが、末っ子。甘えん坊で愛らしい。皇太子であるブロンの横に立つ女性は、彼と同じぐらいしっかりした者が相応しいのかと思っていた。
彼は完全無欠の皇太子様と言われているぐらい、容姿端麗、運動神経抜群、頭脳明晰とすべてをお持ちなのだから。つまり、彼がやがて皇帝として立った時に、彼を支え、同じ土俵で生きていける女性を必要としている……と思っていた。だが、違うようだ。
ブロン皇太子が伴侶となる女性に求めたのは、癒しだと思う。彼は戦場に立つわけではない。でも皇帝となり、政務をとるようになれば、そこは剣の代わりにペンで戦うことになる。戦場から戻った時、無条件で彼を受け入れ、抱きしめて癒せる女性を必要としていた。それに気づくのが、私は遅かった。
ホリーは無条件でブロン皇太子を癒せる女性。彼が彼女を望み、彼女も彼を望むなら、私は潔く身を引くつもりだ。ただ、やってもいない罪を着せられるのは耐えがたい。私はホリーのことを閉じ込めていない。』――これが日記に書かれていたこと。
日記を読んだ私は「えええええ!」となる。
ブロン皇太子の攻略ルートにおいて、リアが断罪される理由。それはホリーのことを、宮殿の庭園に設置された、物置小屋に閉じ込めたからだ。しかもその小屋は火が放たれ、燃え落ちている。ホリーは、命からがらでその小屋から逃げ出し、一命を取り留めた。
この際、ホリー救出に魔法を使って活躍したのが、ブロン皇太子。これを機に二人の仲は急接近。ブロン皇太子は、こんなひどいことをしたのは誰なのかとホリーに尋ねる。だが彼女はなかなか犯人の名を明かさない。でもそこは宮殿の庭園。目撃者はゼロではなかった。
ホリーとリアが物置小屋の近くで話す姿を、宮殿を警備する騎士達が見ていた。
自身のことを害そうとしたのに、あくまでリアを庇おうとするホリーに、ブロン皇太子は心を打たれる。そこがゲームで言うところの、ブロン皇太子のヒロインへの好感度が100パーセントに達した瞬間だ。
こうしてホリーを閉じ込め、小屋に火を放ち、彼女を殺害しようとした罪に問われ、リアは婚約破棄&断罪だった。ちなみに放火はこの世界で、殺人に次ぐ大罪扱いになっている。小さなボヤをきっかけに、街一つが消えることもあるからだ。前世でも、山火事の延焼が止まらない、ゾンビ火災で鎮火しても再び火が燃えだす――なんてこともあった。火は危険だ。
殺人未遂の上に放火。当然だけどその刑は、斬首刑……。
だがしかし。
日記によると、私が知るゲームの展開とは全く違うことが書かれている。


























































