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僕が空き地に産み出したのは決して幽霊ではない『何か』であって

作者:

初めに言っておく。

僕には霊感はない。

人が死んだ場所に行っても何も見えないし、お墓でも病院でも怪しい人影なんて見たことも感じたこともない。


だけど、ときどき『何か』を感じることがある。

自分の物ではない『何か』の想いが、ふっと触れてくる。それが触れてくると、急に悲しい気持ちになったり、怒りたくなったりするんだ。

見えないのに、確かに存在する『何か』。


小さい頃は、これを幽霊だと思っていたけど、小学生になってしばらくしてからなんだか違うなって気がついた。

だってその『何か』は、場所についていることは少なかったから。大体は人にくっついてた。だから幽霊じゃなくて、その人の感情かなって思ったんだ。

でも、それも違った。


わかったのはクラスでいじめがあったとき。

すっごく傷ついてる子には『何か』はなくて、ニヤニヤしながらいじめてる子の側に行くと『何か』が感じられた。

その『何か』は、許せないとか、消えちゃえとか、そんな気持ちでいっぱいだった。


そのうち先生にバレて、その子へのいじめはなくなったけど『何か』はなくならなかった。ずっといじめた子にくっついてた。

それからいじめてた子は何回もいろんな子に同じようないじめを繰り返して、それで『何か』はどんどん濃くなっていった。


そしたら、いじめっ子はある日、廊下で転んでガラスで左腕を切った。みんなの前でいっぱい血を流して、泣き叫びながら救急車で運ばれていった。1ヶ月くらいしたら戻ってきたけど、これから左腕はずっと上手く動かせなくなったって。そう先生が言ったとたん、その子についてた『何か』は消えていった。


それで気がついたんだ。

この『何か』は、人の思いの塊だって。


でもね。

いじめで死んだ子が一人いたんだけど、そのときにはいじめてた子についてた『何か』は薄くなったんだ。


だから、この『何か』は生きてる人にしか出せないんだと思う。

死んで呪うとかは出来ない。

だから、たとえ呪いたいくらい恨んでるなら、生きてなきゃダメなんだよ。

生きてる方がしっかり呪えるんだから。



でね。僕、それに気がついたときに実験したんだ。

今ならわかるよ。相当危ないことだって。でも、小学生の時だからさ。


通学路に、ずっと放置されてる空き地があった。入学から3年間、立ち入り禁止で草もぼうぼうな場所。

そこに、雨の日になると男の人の幽霊が立ってるって噂を流したんだ。

霊感があるって言う子に話したらすぐに食いついて、1ヶ月くらいしたら学校中に広まってたよ。すごく具体的になってた。

男の人で、青い服を着ていて、下は黒いズボン。何もせずに見てるのは、そこに自分の死体が埋まっているのを教えたいからだ、って。


その話が広がった頃から、空き地に『何か』がとどまるようになった。それは、恐怖というより好奇心で包まれてた。やっぱり『何か』は生きてる人間の思いが生み出すみたいだって確信したのはこの頃。


そこから僕の実験は続いていった。

『何か』がうまれた場所に、こっそり生肉を埋めたんだ。腐って嫌な臭いがする頃には『何か』は恐怖心の方が強くなってた。

それからも塩を撒いて一部だけ草が生えない場所を作ったり、生き物の死体を見つけたら空き地に運んだり、噂をどんどん煽っていった。空き地の『何か』はどんどん濃くなっていった。空き地全体が恐怖の塊になってた。

人もあんまり通らなくなったし、草はどんどん延びて、いつも薄暗く湿った場所になった。


そうしたら、どうなったと思う?


ある日『何か』が急に男の人の形になったんだ。青い服を着ていて、ズボンは黒色の。頭はぼんやりしててよく見えないけど、幽霊じゃないのはすぐにわかった。

だって今までの『何か』と全く同じだったから。死体を見つけてほしいとか犯人が憎いとかは全くなくて、ただただ恐怖の塊。

霊感があるって子にも見えてなかったし。


そこで怖くなって、僕は空き地に行くのをやめちゃった。通学の時も、出来るだけ友達の家に寄って空き地の道を通らないようにしたり。


その後、忘れてたんだけど、卒業するころだったな。

やっと空き地に買い手がついたとかでショベルカーが来て、掘り出したところですぐに工事が中止になった。


見つかったんだって。死体が。

青い服を着た男の人。


犯人もすぐに見つかったけどね。

犯人は『この場所に死体を埋めたかった』って話したらしいよ。

警察は日中でも誰も近づかないし埋めやすかったからって意味でとらえたみたいだけど。


僕は、あの空き地で膨れ上がった『何か』が犯人に死体を埋めさせたって信じてる。


だって犯人、霊感があるって言って頻繁に空き地に通ってた人だったから。僕が近寄らないようにしてた『何か』に包まれて、嬉しそうに儀式みたいなことをしてたときに操られたんじゃないかなって。



でも、てことは。

本当は空き地の『何か』を産み出した僕が、青い服の男の人を殺したってことになるのかな。


それとも。

噂を信じて『何か』を育てた皆の責任?



どっちにしても。

今、あの空き地には青い服を着た男の人の形をした『何か』がずっと立ってる。前よりもずっと濃くなって。顔も被害者の人の顔になったよ。


でも、あれは幽霊じゃないよ。

死んだ人の思いなんて、生きてる人の思いがつまった『何か』に比べたら小さすぎる。

あの空き地に残っているのは、幽霊がいるはずだって信じる思いが固まった『何か』。


もしも、あの空き地に家が建ったら。

今度は皆『あの家に住んだら不幸が起きる』って信じるんだろうな。

そうしたら、今度は何が起きるんだろう。そしてそれは、誰のせいなんだろうね。

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