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22話:魔導都市


 旅宿を出て数時間。出発後にぽつりぽつりと雨が降り出し、本降りになる頃に魔導都市に着く事が出来た。

 雨の降りしきる中で(そび)え立つ巨大な外壁。

 灰色の壁は所々に照明用の魔導具が設置されており、雨の中でも白色の壁をぼんやりと照らしている。

 普段は街門の前には入場許可待ちの列が出来ているのだが、今日は雨のためか人も少なく、すんなりと街に入ることが出来た。

 入口のすぐ近くにある馬車の停留所で降りて、オリビアと二人で雨避けの為に外套を羽織(はお)る。


 元々ノアの予備として用意していたフード付きの厚めの外套は、オリビアの姿をすっぽりと覆い隠してしまっている。

 濡れる事は無いだろうが、小さめな背丈と華奢(きゃしゃ)な体型が合わさって、特に薄暗い場所では子どもにしか見えない。

 その自覚があるのか、少し不満げなオリビアの頭に何となく手を乗せ、御者に向き直る。


「世話になったな」

「こっちこそ、本当に助かったぜ。アンタは俺の英雄だ」

「英雄か。荷が重い話だ」

「ゴブリンロードを倒しておいてよく言うぜ」


 苦笑いする御者に手を伸ばして握手を交わすと、トム達三兄弟に振り返った。

 軽く握った拳を上げ、無表情でノアが言う。


「お前たちも。旅の間、退屈せずに済んだ」

「一応俺たちは護衛依頼だったんですけどね」


 何とも言い難い表情を浮かべながらノアの拳に己の拳をぶつけるトム。

 拳を当てるのは冒険者にとってメジャーな挨拶だ。

 共に頑張ろう、お疲れ様、といった意味が込められている。

 しかし一番の功労者に(ねぎら)われ、彼は複雑な心境のようだ。


「俺たちは宿をとって冒険者ギルドに行く予定だが、お前たちはどうする?」

「飯を食ったらすぐに出発です」

「そうか。幸運を祈る」

「ありがとうございます! では!」


 雨の中で元気よく走っていく三人を見送った後、ノア達は大通り沿いにある宿屋へと向かった。



 宿の外観はとても綺麗で、建築されて数年も経っていないように見えた。

 ツルツルした白い壁は照明用魔導具の光を反射して輝いているし、木製のドアも艶がある。

 だが少なくともノアが十年前に魔導都市に訪れた時には既にこの宿は営業していた。

 魔導都市なだけあって何らかの魔法が使われているのだろう。


(不思議なものだ。魔法とはやはり、便利だな)


 思いながら新築のような宿のドアを開けると、その瞬間いきなり喧騒が訪れた。

 魔法で遮音してあったのだろう。外に居る時には何も聞こえなかったので少し驚いた。

 中は一階が食堂、二回が宿と別れているようで、時間帯的に客が夕飯を食べているのだろう。

 ノアも何か腹に入れたいが、それより先に部屋を取らなければならない。

 オリビアと共に受付に向かうと、奥から猫の亜人――猫耳に猫尻尾の生えた幼い少女がパタパタと走ってきた。


「こんばんは! えぇと、部屋は一室しか空いてないですが、大丈夫ですか?」


 背伸びをしながらカウンターの上の台帳を取り、中身をめくりながら聞いてくる。

 家の手伝いだろうか。この歳で様になっているのは凄いなと思いながらも、ノアは平然とした顔で答えた。


「構わない。二泊頼む」

「分かりました! 部屋は二階に上がって一番奥です! タオルはサービスしておきますね!」

「すまない、助かる」


 二枚の大きめのタオルを渡されながら濡れた外套を脱ぎ、しかし二枚ともオリビアに渡す。

 微笑みながら受け取った彼女は自身の顔や髪を拭いた後、背伸びをしながらノアの頭をワシワシと拭いた。

 その姿に少女は興味深そうな顔をしていたが、食堂の奥から呼ばれてすぐに走って行ってしまった。

 残されたノアたちは目の前の階段を上り、言われた通り一番奥の部屋に入る。


 豪華では無いが、中々に良い部屋だった。

 隅の方にベッドが一つあり、向かい側には文机。

 それだけの部屋だがそこそこ広さもあり、二人で滞在するには十分と言える。


「ふぅ。ノアさん、お疲れ様でした」


 部屋の中で一息吐いて、オリビアはノアに微笑みかける。

 ほんのり上気した頬が愛らしく、(きら)びやかな銀髪も合わさって正に女神のような有様なのだが、ノアは彼女の体調を気にすることで精一杯だった。

 馬車での旅とは言え、揺られっぱなしでいるのも体力を使う。

 華奢(きゃしゃ)なオリビアが疲れていないか、それが心配だった。


「オリビア。少し休んでいくか?」

「お腹も空いちゃいましたし、先にご飯を食べに行きましょう」

「そうか。無理はするなよ」

「もう……私も少しは鍛えてるんですからね?」


 不安げに言うノアに対してオリビアが頬を膨らませながら返す。

 戦う事は出来ないが、これでも一般の人よりは鍛えてある。

 たかが数日程度の旅など何ら問題は無いのだが、それでもノアに心配されること自体は嬉しく感じていた。


「ほら、早く行きましょう! お腹ぺこぺこです!」


 両手でノアの左手を引いて、無邪気に笑う。

 その様にノアは心が(たかぶ)るのを感じたが、やはりどのような感情なのかは分からない。

 だがそれを心地よいと思い、楽しそうなオリビアに笑みを返しながら、引かれるままに彼女に着いて行く事にした。


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