第三章「ロリコン、襲来」
三笠が日本に来てから約3ヶ月後の1903年の8月23日。
その日、呉に二隻の戦艦を含む艦隊が入港した。
帝國が配備した初の戦艦である『富士』と『八島』である。
彼女たちは今まで横須賀に配備されていたが、ロシアとの開戦が間近となったので、呉に配備されることとなったのである。
「うひゃーっ、呉は久しぶりだなぁ!」
そう言って露天艦橋から呉の街を眺める少女は『富士』の艦魂である。
髪型は活発そうな彼女に似合うショートカットで、その身体はスポーツをしているのかよく引き締まっている。
「もう、姉さん落ち着いてくださいよ。まるで子供ですよ。」
そんなはしゃぐ富士を諌めるのは、彼女の妹の八島である。
八島は富士とは対照的に女性らしい体つきをしており、彼女が纏っている雰囲気も含めると(髪が金色なのを覗けば)まさに大和撫子とでも言うべき艦魂である。
「いいんだよそんなこと。それより早く三笠って子に会いたいな〜。」
「えっ、姉さんは見た事ないんですか?
三笠ってすごく可愛いんですよ。
敷島は何度も撃沈されているらしいですしね。」
「いや〜、まあ敷島だしね。誰が妹になろうが気絶すると思うけど‥‥‥
というか、何で八島が三笠の顔を知ってるのよ。まだ彼女と会ってないでしょ?」
「だってわたしファンクラブの会員ですもの。
ほら、会員番号は幻の一桁ですよ。今では会員数は三桁ですからね。」
そう言って八島はどこからか会員証を取り出して富士に見せる。
「あ、ほんとだ‥‥‥って、いつの間に!?」
「ふふふ、これから戦を制するのは情報ですよ。」
八島は驚く姉に不敵に笑いながらそう答えた。
ちなみに、三笠のファンクラブは三笠が呉に来た次の日にできたもので、会員数は現在二百人を越えている。
これには連合艦隊の殆どの艦魂が入会しており、会員限定で三笠のブロマイドやグッズなども売られている。
もちろんこれは本人非公認であり、本人には存在すら知られていない。
ちなみに、なぜファンクラブが結成された呉ではなく、横須賀にいた八島が一桁の会員番号になっているのかは現在まで謎に包まれている。
さて、二人がそのような事を言っている間に『富士』と『八島』は呉に入港しようとしていた。
「おっ、そんな事言ってる間に呉に着いたよ!早く行かなきゃ!」
そう言って富士は真っ先に『三笠』に転移してしまった。
「まったくもう、姉さんったらせっかちなんだから‥‥‥」
八島はそんな姉に呆れながら自分も三笠に向けて転移したのであった。
一方『三笠』の艦上では、呉にいる艦魂が富士と八島を迎えるために集合していた。
ちなみに敷島は三笠といると気絶しかねないので、目隠しをして側に初瀬が付き添っている。
「朝日姉さん、富士さんと八島さんってどういう人なの?」
三笠は初対面の時に敷島を撃沈した例のポーズで朝日にたずねる。
「(見ちゃだめだ、見ちゃだめだ、見ちゃだめだ‥‥‥)
え〜っと、富士さんが活発な人で八島さんが落ち着いた人かな。」
朝日はなるべく三笠の方を見ないようにして言う。
「ふ〜ん、そうなんだ。早く会ってみたいな〜。」
三笠はそう言って遠くにいる『富士』と『八島』を見る。
その仕種一つ取っても可愛いらしく、離れた所から艦魂たちの嬌声が聞こえる。
(だっ、ダメよっ!あたしは三笠の姉なんだから‥‥‥)
(はぅぅ、今日も三笠様は可愛いですぅ。)
(前が見えないわ。いったい何が起こってるのかしら?)
何やら心の声が聞こえるが、この際それらは無視しよう。
こうして、呉の艦魂たちが二人の到着を待っていると、彼女らの近くの空間が光りだす。
三笠は緊張しながらそれを見ていると、光がだんだん人型に収束していく。
そから現れたのは帝國最古参の戦艦の艦魂である富士だった。
「敷島っ、久しぶりっ!」
「お久しぶりです、富士さん。」
敷島はそう答えて敬礼するが、目隠しをされているため、見当違いの方向にしてしまう。
そんな敷島を見て皆が爆笑していると、八島が遅れてやってきた。
「ふぅ、姉さん早すぎるよ。あっ、みんな久しぶり。」
「八島さん、お久しぶりです。」
敷島は再び見当違いの方向に敬礼すると、周りの艦魂たちはさらに笑う。
敷島はその笑い声に何事かとキョロキョロする。
「お姉ちゃん、富士さんたちはこっちだよ。」
初瀬はそう言って敷島を正しい方向に向ける。
敷島は自分のしでかした間違いに気付いて顔を真っ赤にしてうつむく。
「あ〜面白かった。敷島は相変わらずドジっ娘だね。」
「どじっこ?」
敷島は富士が言った聞きなれない言葉に首を傾げる。
「姉さん、彼女に余計な事を吹き込まないでくださいよ。」
「あはは〜っ」
「はぁ〜、Ka○onネタはもういいから。さて‥‥あなたが三笠ね?」
「はっ、はい。」
三笠がそう答えると、八島は三笠を上から下までまじまじと見つめる。
「あ、あの‥‥‥」
「100点、100点、99点、98点、99点!」
「えっ、えっ?」
八島にいきなり点数をつけられた三笠は戸惑う。
「おめでとう、あなたは『ロリ魂協会』主催の『ロリ魂クール』に出場することが決定したわ!」
『ろりこんきょうかい!?』
その場にいる艦魂たちの声がハモる。
「三笠‥‥‥やっぱり標的にされたアルね。」
鎮遠は事情を知っているのか、苦笑しながら事の成り行きを見ている。
「『ロリ魂協会』はわたしが日本支部長を務めている『ロリィな艦魂をこよなく愛する協会』の略称で、文字通りロリィな艦魂を愛する子が集う会なの。
本部はイギリスにあって今はマジェスティックが会長になっているわ。」
「何か胡散臭い組織ね〜」
富士や敷島はジト目で八島を見つめる。
「何言ってるんですか、『ロリ艦魂協会』は胡散臭いどころか由緒ある組織ですよ。
何せ、あの『ヴィクトリー』や『コンスティチューション』がモデルを務めたこともあるんですから。」
『ヴィクトリー』はイギリスの軍艦で、あのトラファルガーの海戦でネルソン提督が座乗していた艦である。
『コンスティチューション』はアメリカの軍艦であり、米英戦争で大活躍をし、今なお現役の艦である。
両艦とも世界中の海軍で知らないものはいないほど有名な艦で、彼女らは各国の艦魂たちから見ればまさに神様のような存在であった。
「へぇ、一応はちゃんとした組織なんですね。それで、『ろりこんくーる』っていうのは何ですか?」
朝日は先程から気になっていた事を尋ねる。
「『ロリ魂クール』はイギリスの『ロリ魂協会本部』が主宰する大会で十年に一回開かれて世界一のロリ艦魂を決める会よ。
たしか、今回で四十回目だから四百年ほど続いていることになるわね。
さらに‥‥‥」
八島は得意げに『ロリ魂協会』と『ロリ魂クール』の歴史を語り始める。
彼女の説明は10分にもおよび、周りの艦魂たち(一部除く)にとっては拷問のような時間であったという。
《ロリコン、恐ろしい子‥‥‥》
それはこの場にいるほぼ全ての艦魂たちが等しく思ったことであった。
「わっ、わたしなんかがそんな大きな大会に出てもいいんですか!?」
三笠が目を輝かせて八島に問いかける。
どうやら、彼女は八島の説明を好意的に拡大解釈してしまったらしい。
「みっ、三笠。やめた方がいいよ。八島さんが関わってるとろくなことがないから。」
初瀬が三笠の耳元で囁く。
「そうなの?」
「うん、わたしもそれで‥‥‥」
初瀬はそこまで言ったところで、誰かに肩を叩かれて後ろを振り向く。
そこには笑顔を顔に張り付けながらどす黒いオーラを放っている富士がいた。
「初瀬、後でわたしのところに来なさい。お仕置きしてあげるから。」
「ひぅっ!ごっ、ごめんなさいっ!」
「さあ、三笠。今すぐこの書類にサインを!」
八島が血走った目で三笠に書類を差し出す。
「いえっ、でもっ‥‥‥」
三笠は八島の迫力に思わず後ずさりしながら首を横に振る。
「ふふっ、ふふふふっ‥‥‥サインしないと‥‥‥どうなるか分かってるわよね?」
「えぐっ、えぐっ‥‥‥」
三笠はもう目に涙を浮かべており、もう泣く寸前である。
彼女があんな事言わなきゃよかった、と後悔したその時
「おい、八島。後輩をいじるのもその辺にしておけ。」
バコッ!
「痛ッ!‥‥‥あれ、わたしは今何をしていたのかしら?」
頭を木刀で叩かれた八島は我に返ると、頭を抑えながら後ろを振り返った。
三笠はその隙に慌てて朝日の後ろに隠れる。
「まっ、松島さん!」
富士たちは慌てて敬礼をする。
松島と呼ばれた隻眼の艦魂は、それに対して綺麗な答礼で返す。
『松島』とは、日清戦争前に清国の巨大戦艦の『定遠』と『鎮遠』に対抗するために建造された艦で、主砲は32センチ砲を1門のみ装備しているという特異な巡洋艦である。
同型艦には『厳島』と『橋立』があり、日本三景と同じ名前から三景艦と呼ばれ国民に親しまれている艦である。
彼女は日清戦争時の連合艦隊の旗艦で、まさに武人の鑑と言うべき艦魂であった。
「朝日、噂の新入りとやらはどれだ?」
松島はその鋭い眼光で辺りを威圧しながら朝日にたずねる。
「はっ、彼女が『三笠』の艦魂です。ほらっ、三笠。挨拶して。」
朝日は隠れていた三笠を前に出す。
「あっ、あのっ。わたしが最近着任した三笠です。えとっ、その、よろしくお願いしましゅっ!」
三笠は八島に対する恐怖と、憧れの初代連合艦隊旗艦に会ったことによる緊張で舌を噛んでしまった。
『キュン!』
(かっ、可愛い‥‥‥はっ!)
「わっ、私は松島だ。貴様には期待しておるぞ。」
くしゃっ
「えっ?」
松島は少し顔を赤くしながら三笠の頭を軽く撫でる。
てっきり怒られるかと思っていた三笠は、驚いたように松島の顔を見る。
すると、松島はさらに顔を赤くして、三笠から顔を逸らした。
「あれぇ?もしかして三笠に見ほれていたんですかぁ?」
いい酒の肴ができた、と八島がニヤニヤしながら聞いてくる。
「うっ、うるさい!男ならともかく、女に惚れるわけがなかろう!」
図星を突かれた松島はどもりながら反撃する。
だが、彼女は自ら墓穴を掘ってしまったことに気づいていない。
「へぇ〜、男ならあるんですね?」
さらにニヤニヤしながら聞いてくる八島に、松島はしまった、と思ったがもう遅い。
「ばっ、馬鹿者っ!例えだ、例え!私が男を好きになるはずがない!」
「えっ、東郷君は違うんですか〜?」
東郷という名前を聞いて、松島の顔に動揺が見え始めた。
「ちっ違うに決まっておる!私はあいつとはただの友人だ!」
松島がそう言うと、八島は一際どす黒く微笑んで爆弾を投下した。
「あれ〜、黄海海戦の直前に彼と抱き合ってたのは誰でしたっけぇ〜?」
『え〜っ!!』
途端に艦魂たちから黄色い悲鳴があがる。
「!?なっ、なぜ貴様がそのことを知っておる!」
さらに松島がそれを事実です、と認めるような発言をしたのが混乱に拍車をかけてしまった。
「ほえ〜っ、松島さんって本当に東郷さんのことが好きだったんだ。」
「あっ、そういえば、彼女ってゴニョゴニョ‥‥‥」
「キャーッ!松島さんって意外と乙女だったのね!」
艦魂たちはあちこちでこのような話題に花を咲かせ始める。
「だぁー!うるさいうるさいうるさーい!それは全部デマだーっ!」
松島は全身を真っ赤にして怒鳴るが、さらに騒ぎは大きくなっていく。
「きっ、貴様‥‥‥よくも私の名誉を‥‥‥殺すッ!」
完全にブチ切れた松島は刀を抜いて八島に襲い掛かる。
「おっと♪」
八島はまったく剣筋が見えないほど疾い松島の斬撃を軽々と避ける。
松島は避けられたことは意にも介さずに次々と斬撃を放つ。
だが、それらは全て八島に避けられてしまう。
さらに松島が斬撃を放つ‥‥‥
こうして二人の凶悪な鬼ごっこ(またの名をデスマッチという)は幕を開けたのであった。
「ねぇ初瀬お姉ちゃん。松島さんってああいう人なの?」
三笠が鬼ごっこを続けている二人を見ながら初瀬に訪ねる。
「う〜ん、いつもはもっと怖い人なんだけどね。」
「そうなんだ‥‥‥」
「まったくあの二人はいつもこうなんだから‥‥‥ほらみんな!
さっさとパーティーの準備をするよ!」
朝日がそう提案すると、ほとんどの艦魂たちから賛成の声が上がる。
こうして未だに鬼ごっこを続けている二人をよそに、艦魂たちはパーティーの準備に向かうのであった。
ちなみに、二人の鬼ごっこはそれから約二時間ほど続けられたが、八島がある条件を出したことにより平和裏に解決したのであった。
〜それから数日後、某所にて〜
金髪で刀を持った女性が、あたりを注意深く伺いながらある部屋に入ってゆく。
「おい、ちょっといいか。あのな‥‥‥三笠のブロマイドが欲しいのだが‥‥‥」
「あらあら、この前たくさんあげたのにまた欲しくなったんですか。
欲しいなら最初から欲しいと言って下さいよ。」
「ちっ、違うぞ!ただ他にはどういうのがあるか気になってだな‥‥‥」
「はいはい分かりましたよ。じゃあ、どれがいいですか?」
と言って、売り手の女性は『三笠ブロマイド Vol.1』と書かれたフォルダを広げる。
中には三笠の隠し撮り写真がたくさん入っており、下の方に値段が書かれている。
「ふむ‥‥‥これにしよう。これはいくらなのか?」
「ほう、初めてにしては中々よいものを選びましたね。お代金は十銭(今でいう2千円くらい)ですよ。」
「うっ、少し高いな‥‥‥まあしょうがない。それと、このことは誰にも言うなよ。」
「分かってますよ。まったく‥‥‥三笠の事が好きならそう言えばいいじゃないですか。」
「だっ、だから違うと申してるではないか!私は現代の艦魂の流行を知るという使命があるのでな‥‥‥」
「ふぅ、まったく素直じゃないんですから。」
「聞こえておるぞ。ほぅ、貴様は死にたいのか?」
「ふぅ〜ん、じゃあもうブロマイドはいらないと‥‥‥」
「うぐっ‥‥‥すっ、すまない。また売ってくれぬか。」
「ええ、いくらでも。ふふっ、あなたはいいお客さんになりそうですから。」
「何か気にかかる言い方だが‥‥‥まあよい。くれぐれもこのことは内密にな。」
「分かってますって。」
「うむ、ではな。」
「またのご利用をお待ちしてます♪」
霜月「どうも、霜月です‥‥‥って、朝日さん物を投げないでくださいっ!」
朝日「更新遅すぎ。一月に一章って基地外じみた遅さじゃないの?」
初瀬「お姉ちゃん‥‥‥漢字間違ってるよ。」
朝日「べっ、別にいいのよ。掲示板ではこっちのほうが正しいんだから。」
霜月「そういえば漢字で思い出したけど、今年のセンターで『未曾有』の読み方が出たらしいね。」
朝日「もちろん読み方は『みぞうゆう』でしょ?」
初瀬「お姉ちゃん‥‥‥それは『みぞう』だよ。」
霜月「‥‥‥」
朝日「何で黙るのよ。」
霜月「いや、初瀬は大変だな〜と思って。」
朝日「ちょっと、それどういう意味よ!」
霜月「言葉どおりの意味ですよ。」
朝日「あんただって数学は平均点以下のくせに!」
霜月「どうせ文系だし史学が取れるからちょうどいいんですよ。」
初瀬「それはそれでよくないと思うんだけど‥‥‥」
朝日「ああもう!初瀬っ、次回予告しなさいっ!」
八島「次回はわたしと三笠が‥‥‥うふふっ」
初瀬「そうじゃないですよ‥‥‥次回はいよいよ物語の主人公が『ようやく』登場する予定です。」
鎮遠「ご意見・感想があったら遠慮なく作者に送るアル。」
八島「この次もサービス、サービスぅ☆」
富士「ヲイ!」