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乙女ゲームのヒロインは悪役令嬢を断罪する前に自滅した

作者: Ash

※差別表現が出てきますが、15歳以上の読者を対象としていますので、物語だと割り切ってください。

 9月の初旬、逆ハーメンバーになった生徒会役員たちと生徒会室を私物化していた乙女ゲーム『パクス ジャポーネ~愛で平和な日常~』(通称”パクス”)のヒロイン・大汝おおなんじ 恋々(れんれん)は、悪役令嬢である夫岳ふがく 麗奈にされた嫌がらせを訴えていた。


 ”パクス”は現代日本で、ヒロインが一般人でありながら、お坊ちゃんお嬢ちゃん学校に通うことになり、その中でもトップエリートである生徒会役員たちと恋愛をしていくゲームである。現代日本っぽいだけで、いくつか違う点がある。


 それは婚姻制度。結婚という形とそれに準じる民事連帯契約がある。

 民事連帯契約とは、結婚していなくても、既婚者と同じ優遇が受けられる事実婚の制度である。子どもを嫡出子にでき、結婚のように別れる際に妻に200万の生活費・・・と結婚前に妻が持っていた財産を渡す必要もなく、苗字別姓がしやすいことと一方的に関係を解消できる点に目を付けた人々や同性カップルが利用する。


  ただし、この世界の日本では、婚姻や民事連帯契約の事実のない者から生まれた場合の差別と偏見が非常に強い。

 民事連帯契約は未成年が親の同意がなくても出せることもあって、交際をする際には民事連帯契約するのが当たり前だ。双方が揃っていなければ出せないので、民事連帯契約の届けを出す振りもできない。こうして、どちらか一方が結婚や別の相手と民事連帯契約をしている場合、民事連帯契約の届けを出した時にそれが判明するのだ。

 

 家同士の利益から結婚する人々の場合、妻が子どもを産めないなら離婚し、民事連帯契約で子どもをもうけて、元妻と再婚するのが普通だ。こうすれば、どうしても諦められない恋人との間に一時的に民事連帯契約を結んで、戸籍上は妻だけという形をとって、妻と妻の実家の心情を傷付けないように配慮する。

 つまり、非嫡出子は不倫や浮気が妻や民事連帯契約相手とその実家を蔑ろにすることすらわからないクズが両親であるという証なのだ。

 どんな社会的地位があろうが、財産があろうが、他人の心情を考慮しない人物であることに変わりなく、非嫡出子の子どもがいるというだけで、本人の人格さえ疑われる。


 と、いうことで、”パクス”のヒロインの恋々はごく普通の一般人設定になっている。父親に引き取られた非嫡出子設定では、一般人の生徒からもいじめに遭う状況で、とても恋愛などしてる余裕などないのだ。

 その代わり、父親に引き取られた非嫡出子設定の攻略対象がいる。非嫡出子に対する差別と立ち向かいながら生徒会入りしている実績から見ても、かなりの人格者だ。


 とまあ、”パクス”の日本の設定はともかく、9月のこの時点ではまだ生徒会役員たちも職務放棄をせず、生徒会はなんとか機能していた。

 だがそれでも、3月にある卒業式で悪役令嬢を断罪する仕込みをしなければ、文化祭や体育祭などのイベントに好感度が間に合いそうになかった。恋々は逆ハーしようとしていたので。

 恋々が転生者かどうかといったら、転生者ではない。

 しかし、彼女は次々と遭遇したイケメンたちの傍にいたいと逆ハーを目指している欲望に忠実な女の子だった。転生者ならもっと効率よく逆ハーを形成できたのだろうが、そうではない彼女はいくつかの選択肢に失敗し、イベントを起こせないなりになんとか逆ハーを作った努力家でもある。


「夫岳さんが・・・私がみんなにふさわしくないから、消えてって・・・」


 生徒会には入っていないものの、日本で知らない者はいないグループの令嬢である夫岳 麗奈にされた仕打ちを怒ると思ったのに、生徒会役員たちの反応は違った。


「・・・え?」

「?」

「恋々?」

「はあ?」

「・・・?」


 みんな戸惑っていた。

 夫岳 麗奈は学年で次席をとる人物であり、自己主張が少なく大人しい少女だ。誰かに言いがかりどころか文句をつけることもない。それどころか、挨拶以外は自分から口を開かないと言われるくらい無口だ。

 生徒会役員たちの怒りをあおろうと、恋々は言い直してみせた。


「一般人のくせに、この学校に通っているなんて分不相応だって・・・」


 生徒会役員たちはますます困惑した表情になった。

 とうとう、恋々の勘違いを指摘する者まで出てきた。


「いや、それはないと思うよ」

「そうだな。それはない」

「恋々、大丈夫ですか?」

「きっと、人間違いだよ」

「そうそう」


 思っていたのと違う生徒会役員たちの反応に恋々は焦った。


「なんで、そんなこと言うんですか? みんなも私が間違っているって言うの?」


 恋々に自分のいいところをアピールしたい生徒会役員たちだったが、その恋々本人の言葉を訂正して、知っていて当然なことを説明などして嫌われたらと躊躇していた。


「いや。そうじゃなくてね」

「夫岳がそれをするはずがないんだ」

「そうだよ」

「夫岳さんがあなたを一般人だって、馬鹿にすることなんてありえないんですよ」

「夫岳の両親は民事連帯契約を利用している同性カップルだから、父親が愛人に産ませた妹を養子にしたんだよ」


 夫岳 麗奈の養親を知っている生徒会役員の説明を聞いた恋々は自分の失態に気付いた。


 自分たちが一般人ではないと自認しているこの学校の生徒からしてみれば、いくら養子縁組をしたとはいっても、民事連帯契約すら結ばずに非嫡出子として生まれてきた夫岳 麗奈は一般人以下の存在だった。

 そんな夫岳 麗奈が一般人である恋々を馬鹿にするということはありえない。

 それどころか、夫岳 麗奈は生まれを知られれば、一般人の生徒にさえ蔑まれるのだ。

 

 それでも、夫岳 麗奈に敵がいないのは、麗奈自身が分をわきまえて大人しくしているからだ。謙虚な夫岳 麗奈の態度に図に乗る者もいたが、夫岳家に連なる家の者や良識をわきまえている者、正義感のある者が守っていた。


 もし、夫岳 麗奈が一般人を理由に恋々を馬鹿にすれば、恋々のまわりにいる生徒会役員たちが夫岳 麗奈が非嫡出子であることを理由に何をしても教師は目をつぶるだろう。それが他人の心情を考慮しない両親を持つ非嫡出子が受ける差別の一つだ。学年で次席を取っている夫岳 麗奈がそれがわからないほど馬鹿なではない。


 大汝 恋々に熱を上げていた生徒会役員たちも彼女の虚言に気付き、その日以降、恋々を避けるようになった。

 おかげで悪役令嬢の吊し上げの断罪がおこなわれることなく、恋々に生徒会の面々が熱を上げていたのが嘘だったかのように、何事もなくその年のすべての学校行事はスムーズに終わった。

 その年度内に問題を起こした一般人の生徒が退学したかどうかは、誰も興味がないので触れないでおく。

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