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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

作者: 霜雪 雨多

以前書いた短編小説です。

一応残酷描写ありとしてますが、そうグロくないです。

 そこにはすさまじい光景があった。

 年端もいかない子供が、それに向かって棒を振り下ろし続ける。何度も、何度も、執拗に。

 その隣には老婆の姿があった。しわくちゃの顔からは、感情はよく読み取れない。

 これは、彼女の計画によるものだった。


 私は夏休み、祖母の家に帰省していた。車に揺られ、およそ三時間。都会の喧騒はいつしか薄れ、気持ちのいいカラッとした暑さになっていた。セミがうるさいのが難点だが。

 どこか懐かしさを感じさせる祖母の家。久しぶりだ。

 「いらっしゃい。長旅でのどが渇いただろう。さあさ、中へおはいりなさい。」

 祖母は私と母を快く出迎えてくれた。ちなみに父は休みがとれず、来ることができなかった。

 家の中はおばあちゃんの家独特の、どこか懐かしいにおいがした。

 私は荷物を置くと、真っ先に仏壇へ向かった。

 おじいちゃん、ただいま。

 あたりには線香のにおいが漂っていた。

 

「あっ、夕日おねえちゃんだ!」

 その声に振り向くと、どこか気の強そうな男の子と、その後ろに隠れてこちらをうかがう女の子の姿があった。

 「久しぶりだね、大輝くん。元気にしてた?」

二人は私のいとこだ。会うのは実に二年ぶりである。

 「うんっ!あのね、今年の春からぼく、小学生になったんだよ!」

 「大輝くんのうしろにいるのは…花ちゃんか。大きくなったね。今は何歳かな?」

 「ごさい。」

恐る恐るだが、手のひらをパーに開いてくれた。かわいい。

 「花ちゃん、私のこと知ってる?」

 花ちゃんはふるふると首を振った。

 おふっ、なんとなくわかってはいたけど心にくるなあ。二年前といったら花ちゃんは三歳だ。覚えていないのも無理はないが。ぎりぎり大輝くんは覚えていたみたいだけれど。


「夕日ちゃん、ジュース飲むかい。」

 居間のほうから声が聞こえた。おばあちゃんだ。

「ぼくもぼくも。」

「はいはい、大輝くんと花ちゃんの分も用意するから。ちょっと待っていてね。」

 用意してくれたのは、特製の梅ジュースだ。これを飲んでこその夏休みだ。

 「おいしいね。夕日お姉ちゃん。」

 うん。冷えたジュースが体に染み渡るうっ!

 「いやあ、大きくなったねえ。ところで、夕日ちゃんはいま何年生だったかい。」

 「いまは中学1年生だよ、おばあちゃん。」

 そうかいそうかいと、うれしそうに笑った。


 「ねえねえ夕日お姉ちゃん、遊ぼうよ。」

 早々に二人はジュースを飲み終えてしまったようで、退屈そうにしていた。

「いいよ。なにしようか。」

「虫取りがいい。」

 それをいったのは花ちゃんだった。なかなか活動的だ。おとなしそうだけど見かけによらないな。

長時間車に乗っていたせいで体の節々が痛い。体をほぐすにはちょうどいい運動だろう。

 そうして、祖母の家での一週間が始まった。


 それからというものの、私は遊びつくした。虫取りや川遊び、それに花火大会などなど盛りだくさん。

もちろんお手つだいもした。庭の草むしりや畑仕事を手伝ったり、ときには私が料理を作ったりもした。

 花ちゃんも、あっという間に私に慣れたようだ。二人とも元気いっぱいで、私は振り回されっぱなしだった。

 かわいいからいいのだけれど。

 

 だが、五日目の夕ご飯でそれは起こった。

 その日の夕ご飯には、おかずにピーマンの肉詰めがあった。

 ところで、ピーマンといえばなんだろうか。お察しの通り、子供の嫌いな食べ物の王様である。

 大輝くんは小学校にあがるときにピーマンを克服したそうで、ピーマンの肉詰めをバクバク食べていた。立派だ。

 しかし問題は花ちゃんだった。

「食べなさい。」

「いやっ!」

 ピーマンの存在を敏感に察知した花ちゃんは、ピーマンだけ残してお肉だけきれいに食べてしまっていた。

「おばあちゃんが花のために一生懸命作ってくれたのよ。ほら、食べなさい。」

「やだ。花、ピーマン食べないもん。」

 花ちゃんのお母さんが説得を試みるがなかなかうまくいかない。

 誰もが手をあぐねていた。 


 そのとき、花ちゃんの手が、突然動いた、と思った時にはもう遅かった。

 その手はピーマンの入ったお皿にあたり、テーブルから落下した。

「花…もう」

「いいかげんにせんかい!」

 花ちゃんのお母さんの声を遮ったのは、おばあちゃんだった。普段の温厚な様子はなかった。

 花ちゃんはビクッとしたかと思うと泣き出してしまった。

「おばあちゃん落ち着いて…」

「食べ物を粗末にするのは絶対にいかん。ちゃんと教えとかな!わたしが子供のころは食べるものなんてほんの少ししかなかったんだ。いまは恵まれているからといって、そんな甘えが許されるわけないやろ。」

 楽しかったはずの食卓の雰囲気は一気に冷え込んだ。私はその場の空気に耐え切れず、居間を離れた。

後で聞いたところによると、花ちゃんは疲れて寝てしまい、結局ピーマンは食べられなかったそうだ。



 その夜、夕日はトイレに行きたくなり目を覚ました。

 トイレから寝室に戻る途中、ふと窓から、畑のほうに光が見えた気がした。窓を見やると、そこには一つの人影があった。

 ちょうど月には雲がかかり、よく見えなかったが、目を凝らしてよく見ると、それは夕日の祖母の姿だということに気付いた。

 なにをしているのかとしばらく見ていると、何かを切っているようだ。

と、雲がはれ、夕日の祖母が月明かりに照らされた。

 彼女はすでに切るのをやめており、その腕には花だったものを抱えていた。すでに生命線が切れているのは目にも明らかだった。

 月明かりに照らされた顔はどこか満足気なように見えた。

 そして、玄関に向かって移動し始めた。

 その様子を見て、夕日はそっとその場から離れた。


「わふっ」

「夕日、起きなさい。」

 次の日の朝、夕日は母にたたき起こされた。荒っぽいモーニングコールだ。

「…どうしたの?」

「いつまで寝てるの。とにかく来なさい。庭でおばあちゃんが呼んでいるわ。」

 夕日が慌てて向かうと、庭にはすさまじい光景が広がっていた。

 

 大輝が、花だったものにむかって棒を振り下ろし続ける。何度も、何度も、執拗に。

 その隣には夕日の祖母の姿もあった。しわくちゃの顔からは、感情はよく読み取れない。

 これは、彼女の計画によるものだった。


「おお、きたね、夕日ちゃん。夕日ちゃんもやってみなさい。」

 夕日は、祖母から差し出される棒を手に取った。

「夕日お姉ちゃんもやるんだ。じゃあ交代するね。」

 大輝の力が足りなかったのか、それは中途半端に割れていた。割れ目からは赤いものがのぞいているのがわかる。

 やるしかないのだと、夕日は覚悟を決めた。





夕日は目隠しをすると、大輝や花の声援にこたえるように、スイカにむかって棒を振り下ろした。


叙述トリックを使ってみたくてこの作品を書きました。

二つの「花」、みごとに騙されてくださったなら幸いです。

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