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4 初戦闘(モブ)


「いやあ、まあ、悪かったな」



 森の入り口まで延びた街道を歩きながら、スキンヘッドのマッチョ男改めゴドスが、キラリと光る頭に手をやる。

 喰おうとしたことを謝っているのだが、ガッハッハッハ! とか高笑いしてるからあまり気にしてはなさそうだった。

 他の二人、ヤードスにファドスも(ドスが流行っている訳ではない。たまたまらしい)少し後ろを歩きながら、



「悪いな」



 とか、適当に合わせている。

 殺されそうになった訳だから、この態度なんか納得できん。

 こっちは熱くて怖くてマジで死ぬかと思ったのに。



「まあ、結果、生きてるってことで許してくれや。ハッハッハ!」


 

 まだヘラヘラしてやがる……。

 何と言う物言いでしょう。

 我慢しようと思ったがなんかムカツク。

 ので、一発殴ってやった。

 


 だけど、あれ?

 


 俺の拳は見事にゴドスの頬を捉えたのに、



「ガッハッハッハッハ!」



 まだ笑ってやがる!

 気にも止めてない。

 これってもしかして、ひょっとするとあれですか……。

 

 

「オラアッ!」


「ん? なんだ?」 



 念のためもう一度殴ってみた。気合いの雄叫びと共に。

 けど、〈ポスッ!〉 って効果音がお似合いな二歳児パンチだった。



 ……。




 コアラ、YOEEEEEEEEEッッ!




 思いっきり振りかぶって出した渾身の右ストレートが顔面直撃したのに、完全スルーされるレベルだよ!

 蚊に刺される以下かよ! かゆい以下ってなんだよ!

 見た目もふもふで弱いだろうとは思ってたけど、この体、想像以上に軟弱だぞ。

 少なくとも攻撃力を数値化したらゼロに近い1じゃねえか。


 ……。



 ま、まあ、いい。

 こんなデンジャー世界で良くはないけど、それはひとまず置いておく。深く考えても、もうどうにもならないし。

 嘆いても俺は変顔コアラのままだ。

 小さくて弱いけど置いておくしかない。顔もブスで、いいところないけど置いておくしか……。

 



 気を取り直そう! っていうか忘れよう!



 俺たちは今、街道の先にあるというリムルスの街を目指していた。

 飯を喰った後、再度ユフィーに説教されていたゴドスたちとも自己紹介を済ませ、ゴブリン駆除の依頼を達成した彼らが街へ戻るというので便乗させてもらったのだ。

 

 これからどうするべきか考えるにしても、草食系で弱小生物の俺が魔物の住む森に一人でいても、【DEATH】って単語しか見えてきませんからね。

 他に行くあてもないし、なぜかユフィーが俺を抱っこしたまま連れて行く気満々だったので皆もほぼ即決だった。

 

 しばらく観察して分かったが、この中ではユフィーが一番強いらしく、ゴドスたちも彼女には頭が上がらないようなので、彼等に関してだけはもう安心ではある。

 謝ったのも、ユフィーに強要されてだったし。

 じゃなきゃ、いくらムカついても剣持ったゴッツイおっさんに全力パンチとかしない。

 



 しばらく歩くと──とは言っても俺はユフィーの腕の中だが──左右に草原が広がっていく。

 日本ではまずお目にかかれないような見渡す限りの大草原だ。

 足下では虫が跳びはね、小鳥は伸び伸びと空を舞っている。

 東京近郊のアスファルトに囲まれた地域出身の俺には、これだけでも絶景だった。

 

 と思ったら、違う意味の絶景きた!

 

 低空飛行していた小鳥が、地上から伸びた何かに拘束され、草の中に引きずり込まれた。

 見るとすぐ近くに、体長二メートルはある大き過ぎる赤土色のカエルの姿があった。



「ガーネットフロッグ!」



 ユフィーも気づいたのか警戒の声を上げる。


 と、すぐにゴドスたちが行動に移った。

 素早く剣を抜き、一定間隔でカエルに迫っていく。


 正面に立ったゴドスが牽制するように相手の眼前に剣を突き出す。

 カエルはそれを太くて長い舌で弾き返す。さっき小鳥を拘束したヤツだ。

 舌は結構なスピードに見えたがゴドスはそれをうまくいなしている。

 なんか冒険者っぽい。冒険者だけど。

 その隙に両側から回り込んでいたヤードスとファドスが、剣を突き立てた。



「グエエッ!」



 二人の剣は見事カエルのわき腹をとらえ、呆気なく絶命させた。

 狂暴なカエルくんはシュウウっと白い煙となって消えてしまう。(グロくなくてよかった)



「おおっ! すげえ」



 俺は初めてみる立ち回りに感嘆の声を上げた。

 脳筋ぽいがその勇敢な振る舞いに、やるなドス三人衆! とちょっと見直しもした。

 が、ユフィーを含め四人は何事もなかったように、さっさと道へ戻りまた歩き出した。 

 

 誰一人、



「倒したぜー!」



 とか、



「ヒャッハー!」



 とか、



「ゲットだぜー!」



 とか、喜びも騒ぎもカプセルに入れようともしない。



「なあ、ユフィー」


「なあに」


「いま、デカイ魔物いたよね」


「うん」


「ゴドスたち倒したよね」


「そうね」


「あれって、スゴイことじゃないの?」


「……かわいい」



 俺の言葉に、ユフィーはなぜか頭を撫でてくる。

 う~ん。意味分からん。

 だが、すぐにゴドスが説明してくれた。



「ガッハッハッハッハ! あれが凄いって? 聖獣様はもしかして弱いのか?」


「えっ!? あれって当たり前なの?」


「おいおい、俺たちは冒険者だぜ。ガーネットフロッグごとき駆け出しどころか、ちょくちょく畑に出るから農民だって余裕で倒せるぞ」


「マジ!?」


「農民が余裕っていうのは大袈裟だけど、少なくとも冒険者なら、よっぽどのことがない限り一人でも倒せる魔物ね」 



 俺が驚くと、ユフィーがゴドスに続いてそう締めくくった。


 ファンタジーだとは思っていても、実際に見ると聞くとではやはり衝撃度が違う。

 もし、人間の姿でここにいたとしても、俺が一人でさっきの巨大カエルに遭遇していたら、速攻逃げの一手しか思い浮かばん。

 だが、彼らにとってこれはごく当たり前のことなのだ。そしてそれはここにいる以上、俺にも当てはめなければならない。

 この数時間、ちょっと余裕をかましていたが、これは根本的に気を引き締める必要があるかもしれん。

 

 死にたくないし。

 

 

 まあ、その後は俺の決意をスカすように魔物も出ることはなく、リムルスの街が見えて来たんだけどね。

 

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