25 イヤな予感
人の通った痕跡を辿ること二日。森の出口に村が見えてきた。
中に入ると中央が広場になっていて、そこでは女性たちは立ち話に花を咲かせ、子供たちが元気に遊んでいる。
とても穏やかな良い村ね。
「こんにちは」
「おや、こんにちは」
「「こんにちはー」」
挨拶をすると、みんなが笑顔で迎えてくれた。
やっぱり、良い村。
「あの、出来ればお水と食料を分けて貰えませんか。二日間森にいて、何も食べてなくて……」
「あらあら、迷いなさったのかね。それは大変でしたね。たいした物はありませんが、そこでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
彼らは広場のベンチに私を座らせると、家々から果物や干し肉、水を運んできてくれた。
本当に良い村。
「実は人を探していまして」
食べながらノゾミたちのことを聞いてみる。
「とっても可愛くて小さな子と、私より少し背の低い可愛い少女なのですが、ご存じありませんか」
「かわいい、ですか……」
「かわいい、ねえ……」
聞くと食べ物を運んでくれた女性たちが「う~ん」と首を捻り始める。
ここへはノゾミたちは立ち寄っていないのかしら。
「魔物ならさっき現れたんだけどねえ」
「魔物が?」
「ええ、そりゃあもう恐ろしい顔した魔物でね」
「変な顔の人殺しの化け物だよ」
「すっごい怖かったよ。顔が」
「みんな食べられちゃうってお父さんが言ってた。あと超ブスだった。顔が」
魔物と聞くと、子供たちが集まって来て、それがどれだけ恐ろしかったかを身振り手振りを交えて話し出す。
特に顔がヒドかったみたいね。
なんでも、この辺りでは見たこともないような凶悪な顔をした魔物二匹が食料を奪いに来たのだとか。
幸いなことに、男たちが総出で追い払い、事なきを得たらしい。
男たちの姿が見えないのは、念のためそいつらが戻ってこないように、こっそり後をつけているのだという。
それ以外は、誰もこの村に立ち寄っていないそう。
残念ながら、ノゾミとアナ様の情報は得られなかったわ。
とても可愛い、だったら可能性もあったのだけど、顔面凶悪な魔物では二人の真逆の生物ですものね。
人の通ったであろう痕跡を辿ってここまで来たはずなのだけれど、夜にでも別のものと間違えたのかしら……。
それでもヘコんではいられない。
疲れてはいるけれども、手遅れになる前にはやくノゾミたちを探し出さないといけない。
相手がどんな目的であれ、あんなに可愛い二人が捕虜になったら、なにをされるか考えただけでおぞましいわ。
ノゾミ、アナ様。どうか、無事でいて。
「それではみなさん。お食事をありがとうございました」
「おや、もう行きなさるのかい」
「はい、仲間を見つけなきゃならないので」
「そうですか。また困ったことがあったらおいでなさい」
「ルコムの村は、旅人をいつでも歓迎しますよ」
「またきてねー」
「バイバーイ」
ルコムの村。本当に親切な村ね。
同じガーネット国民として誇らしいわ。
私はあったかいみんなに別れを告げて、村を後にしようと腰を持ち上げた。
と、その時だった。
「みんなー、家だ! 家へ隠れろ!」
「避難するんだー!」
おそらくこの村の男たちであろう鍬や手斧を持った集団が慌てたようにぞろぞろとやってきた。
「どうしたんだい、あんた」
「まさか、化け物がまた来たの!?」
「やだよー。気持ち悪いよー」
「ぼく、吐きそう」
「違う、あれだ、あれを見ろ!」
騒然となる広場で、一人の男が指さしたのは空だった。
「なんだいあれはっ!?」
「星っ!?」
上空には幾つもの隕石が姿を現していた。
よく見れば、地上から赤黒い光が大空へ向け放たれている。
あれに呼び寄せられているのだ。
そう考えると、あれは。
「メテオ!」
「な、なんだいそれ!」
「魔法です。いまでは使える人なんて数人のはずの古代の大魔法。落ちればこの辺りまで衝撃波がきます」
「な、なんだって!」
私が言うと、みんなはメテオとは反対の森の方へと慌てて非難し始める。
「に、にげろー!」
けど、もう遅い。
ドゴーンッ! ドガン!
凄まじい地響きが連続で辺りに木霊したかと思うと、
「うわああ!」
「ひいいい!」
嵐のような突風に村は包まれた。
子供たちは男たちが必死で庇ったけど、軽い物や家の屋根が吹き飛ばされていく。
私も近くにいた小さな女の子を抱きしめながら、身を伏せた。
何度も渦巻く衝撃波が村を襲う。
「お姉ちゃん……」
胸の中の女の子が心配そうにこちらを見上げてくる。
「大丈夫よ。じっとしてれば、すぐに治まるわ」
安心させる為、そう言いながらも、私の脳にイヤな予感が過ぎっていく。
言葉通りこの村は大丈夫だろう。
せいぜいが、古い民家の半壊程度で済むだろう。
でも、そうではなく。
もし、あの爆心地にノゾミがいたら……。
あんな大魔法を使える人は少ない。使えたとしても、弱いノゾミや回復専門の聖女であるアナ様に、追っ手が使うとも思えない。
だけど、どうしても不安は拭いされない。女の勘だろうか。
爆風が止むと同時に私は走りだしていた。
村から延びる道を無我夢中で。
しばらく行くと道の先が大きく抉れ、クレーターの出来上がったポイントが遠くに見えてきた。
お願い! ノゾミ、無事でいて!
もし、ノゾミに万が一のことがあったら……。
私……。
その時、私の中で何かが弾けた。
ふっきれたと言ってもいいのかもしれない。
こんな思いをするぐらいなら、胸にノゾミを縄で縛り付けてでも、抱っこしておくんだった。
ノゾミ、あなたが無事でいてくれるなら私は。
私は──。
ふと見上げると、私の懸念をあざ笑うかのように、空は晴れ晴れと澄み渡っていた。




