17 いいから逃げようよ……
アナスタシアがテントに背を向けて走り出す。
必死な顔が凶悪だけど気にしない。昼間にケンカしたけど気にしない。
昨日の敵は今日の友だ。
頑張れ聖女!
けど、
「なあ……」
「ハアハア、ゼーハー」
「なあってば」
「ハア、──は、はい?」
「必死なところ非常に申し訳ないんですが」
「な、なんです、──ハアハア──、の」
「お前……足、超遅くない?」
一応疑問形で聞いたけど、アナスタシアさんマジで半端ない鈍足です。
顔だけ見たら野生児だから速そうなのに、実際は内またの乙女走りで、幼稚園児の全力疾走にも劣るのだ。
俺って性格悪い?
けどさ、いまは生と死の狭間ですよ。敵がすぐそこまで迫ってるこの状況ではいいたくなっちゃうのだよ。
聖女って、イメージ的には回復魔法とか防御魔法とかが得意そうで攻撃力は低そうだけど、運動神経は一般人よりもいいんじゃない?
少なくとも普通には走れない?
──って、
「逃がすか、メスブタああっ!」
やっぱり!
速攻で敵に距離を詰められてる。
後方から場違いな幼い子供のような声と共に、再びの衝撃。
「きゃあああっ!」
アナスタシアは後方からのそれに地面へ向かいダイブしてしまった。
「あうっ!」
「うぐおっ! また下敷きかよ!」
だが、
「聖女様!」
最初に風魔法で昏倒していた騎士がいつのまにか復活していて、倒れ込むアナと地面の間にうまく滑り込んだ。
「ナイスキャッ、チ……うがはっ」
更にその間にいる俺は、騎士の分厚い鉄鎧直撃だけどな。
「お怪我は?」
「大丈夫ですわ」
いや、俺は痛い……。
「ここは私に任せて、聖女様はお逃げください」
「でも……」
「思いの外、敵の数が多いのです」
騎士がそう言って見やった視線の先、先ほど光った茂みには、
「マジかよ……」
確かに、黒いローブ姿のやつらが五人もいやがった。
まだ、遠いが姿を現したということは、こっちへやってくる気満々なはず。
テント横には、おそらくいまの魔法を放った先行しているヤツもいる。
ユフィーがいればなんとか出来たかもしれないが、別の敵追いかけて走って行っちゃたし。アルバートたちも戻ってくる気配はない。
あの人数に囲まれれば終わりだ。
あれ? もしかして戦力分散させられたのか。
うわあ、昼の盗賊と違って知能犯じゃん。
相手は魔法も使うから騎士一人では無理そうだ。
しかもこの騎士よく見たら盗賊に殺されかけてアナに魔法で救ってもらってた弱いヤツじゃん。
「ですから、お逃げください」
「でも、それではあなたが!」
「あなたもお気づきのはずです。おそらく敵は魔の島の者たち。ガーネット王よりお預かりした、あなたがお持ちの魔導具が狙いです。それは渡してはなりません」
「ですが……」
「聖女様……いや、アナ。言うことを聞くんだ」
「ロイス……」
「アナ……」
「……」
……なにこの展開。
名前で呼び合って熱く見つめ合ってるよ二人。
ロイスがアナスタシアの両肩をがっちり掴んでだよ。
まさかだけどさ、…………もしかして、これってラブコメ?
チューバッカと人間の禁断の恋?
……。
「ファーーーーッッック!!」
あ、つい叫んじまった。
でも、しょうがない。間に俺挟んで何やってんだって話だろ。
黙ってたら至近距離でゴリラのキス顔とか見る羽目になりそうだし。
それに今はそれどころじゃないだろう!
相手が誰かは分からないが、襲撃されてるんだぞ!
「逃げねえなら俺一人で逃げるぞ」
俺が言うと、やっと我に返ったロイスはアナを立たせて手を離し、
「さあ、聖女様、お行きなさい!」
と言って背を向けた。
剣を抜いて迎撃体勢に入っている。
「逃げられると思っているのかああ!」
敵も結構近づいてきている。
それなのにアナは、
「ロイス……あなたも必ず逃げてくださいね」
とか言ってまだ、瞳からうるうる光線出してるから、パーンチ!
「俺たちが早く逃げれば、その分ロイスも逃げるチャンスがあるだろ。行くぞ!」
「ノゾミ……」
至近距離で決意の表情しないでください。怖いから。顔だけなら蛮族一の戦士だから。
ともかく、へなちょこパンチは効かなかったが、言葉は効いたようで、アナは頷くとロイスに背を向けて走りだした。
同時にロイスも敵へ向けて走り出す。
「ジャマよ! クソ騎士!」
「ノゾミ殿! 聖女様を、アナを頼みましたぞ!」
遠くで幼い敵の声に混じり、ロイスの声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
だって俺、確実にアナスタシアより弱いもん。あと足も鈍足のアナスタシアの二倍は遅い。
えっと……散々文句言ってごめんなさい。アナスタシアさん。




