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俺はラノベが大嫌い  作者: 壬生京太郎
第一部:邪神復活編
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第八話(第一部最終回)『夢(ラノベ)』

「遅い!」

「そう言うなよ。これでも超特急で……って、これもラノベの定番だな」

「ソードくん」

 不意に、読の声が弱々しくなる。

「ごめんね……ごめん」

 喧嘩のこと、ここで謝るか。

 なら、俺も今言ったっていいだろう。

「ありがとうな、読、ありがとう」

 泣きじゃくる読の頭を優しく撫でてやる。

 伝わるだろうか。

 俺がお前に、どれだけ感謝しているか。

『渡す気になったか?』

 半壊した市街地に、エルヴィラの声が響く。

 俺は剣を構え直した

「お前らの魂胆はお見通しなんだよ、エルヴィラ」

 見えない敵に呼びかける。

「聖剣を渡したところでこの世界は助からない。そうだな」

『どうしてそう思う』

「お前らにも邪神を制御することなんてできない。そうだよな。そんなものがあるなら苦労して封印する必要なんてなかったものな」

『…………』

「聖剣が手に入ったら、邪神はこの世界に放置して、自分達だけ逃げ帰るつもりなんだろう?」

『だとしたらどうする。邪神を止める手立てはないぞ』

「決まっている」

 俺は邪神を見上げた。

「世界を救う。それがヒーローのお仕事なんだよ!」

 邪神がのしかかるように俺に迫る。

 俺を敵だと認識したのだ。

 十本の指が大蛇おろちのように、四方から俺に襲い来る。

 だが俺は疾走を止めない。時にそれらを切り落としながら、邪神の本体へと迫る。

 指は再生を続けるが、構う必要はない。

 胸のあたりまで辿り着いた俺は、必殺の剣の一つを放つ。

「『百裂斬(リミットブレイク・スラッシャー)』!」

 俺に覆いかぶさっていた邪神の上半身がブロックのように細切れになると、膨れ上がって四散した。

 心臓のあたり、どす黒い飛沫の中から、人間大の紅玉が露出する。

 こいつを破壊できれば。

 俺はそこに、渾身の一撃を叩き込んだ。

 ぎいいいん。

 だが、弾かれたのは聖剣の方だった。

 天を覆うように復元する肉の檻から、俺は転がり出るのが精一杯だった。


『さっきまでの勢いはどうした、ソード・シンクライン』

 あてもなく剣を振るい、絶望に打ちひしがれつつも、俺は戦い続けていた。

 邪神はいかに傷つけようとも、次の瞬間には再生し、衰える様子もない。

 対するこちらは疲れもすれば傷つきもする。

 いちかばちか、聖剣の最大出力で焼き払ってしまいたい衝動に駆られる。

 しかし恐らく、それでも核は残るだろう。

 そうなれば、こちらに反撃の力はない。

 遠くにヘリのローター音が聞こえる。自衛隊のものだろう。例の全方位攻撃を警戒して近づくことができないのか。

 もしくは市民が残っているから、発砲許可が下りないのか。

 戦力として期待はできない。

「ソードくん!」

 不意に、読の声が聞こえた。

 不覚だった。

 思った以上に戦線が後退していた。避難した市民達はすぐそこだった。

 もうこれ以上は下がれない。

 邪神の放つ鉄槌打ちを、俺はその場で受け止めた。

 だが、体力は限界だった。

 地面の中まで叩き込まれる。

「ぐはっ!」

 目がかすむ。

 パラパラとアスファルトが落ちる音が聞こえる。

「ソードくん!」

「来るな、読!」

 その時だった。

 風切り音を上げて、数発のヘルファイア・ミサイルが邪神に向けて発射された。

 避難民のための時間稼ぎか。

 その隙に読は俺を連れ出し、建物の影まで運んでくれた。

「大丈夫?」

「ラノベみたいにはいかないな。ちょっとブランクが長すぎたみたいだ」

「ラノベだとね」

 読が続ける。

「塵も残さず灰にするとか、身動きを取れなくするとか」

「……何の話だ?」

「不死身の敵の倒し方」

 ……ラノベか!

 ラノベの主人公はとにかく絶望的な戦いに直面する。

 不死の相手とだって戦ったはずだ。

 そして勝利する。

 あいつにも、通用する手段があるかもしれない。

「……ほかには?」

 読はその場でいくつか思いつくものを挙げてくれた。

「なるほど、それならやれそうだ」

 どうやら俺は、どこまでもラノベに縁があるらしい。

「ありがとな、読。お前は最高のラノベオタクだ」

「それ、褒めてるの?」

 俺は笑った。

「……頑張って」

「ああ」

 俺は大通りに出ると、邪神の前に立ち塞がった。

 邪神の熱量が高まるのを感じる。あの全方位攻撃が来る。

 だが躊躇う必要はない。すべて一掃するからだ。

「目覚めろ。そして力を貸せ」

 俺は黄金の剣を振り上げた。

 光がうねり、収束し、圧を伴う輝きを放つ。

 邪神の光線と、聖剣から光の奔流が放たれたのは、同時だった。

 邪神が無尽蔵の生命の器なら、聖剣は無限の力の扉だ。

 聖剣の光は、光線もろともに邪神の体を焼き払っていく。

 それでも核は無傷。

 分かっている。

 俺は力を緩めることなく、そのまま核を押し上げた。

「不老不死の相手なら……地球の外まで吹っ飛ばす!」

 光が猛る。暴風のように荒れ狂う。

「『亡国の一撃(アヴァロン・インパクト)』!」

 迸る光は曇天を突き破り、彼方へ、空の彼方へと伸びていく。

 閃光が晴れた時、残された邪神の肉体は塩の柱となって崩れ落ちた。

『何をしたソード・シンクライン!? なぜ邪神は再生しない!』

「伝説の邪神も、復活した先が宇宙じゃどうにもならないってことさ」

 永遠に宇宙を漂うか、衛星になるか。

 死と再生を繰り返すことになるだろう。

 死なないってのは難儀なことだ。

「お前らはどうする」

 選択の余地はないはずだ。

 少し離れたビルの屋上に『門』が現れ、そして消えるのが見えた。

「ヒーローってこんな、しんどかったっ、け……」

 俺はその場に座り込んだ。

 静けさを取り戻した街に、サイレンの音が聞こえてくる。

「人生終わった、かな?」

 俺は呟く。

「終わらせないよ」

 読がぎゅっと手を握った。

「私がソードくんをハッピーエンドにする。言ったでしょ」

 俺は苦笑した。



 警察の特殊車両やライオットシールドを手にした機動隊が遠巻きに取り囲んでいる。

 俺は聖剣を虚空に還して両手を上げた。

 防護装備に身を固めた警官が複数人やってきて、四方を包囲する。

「新蔵院蒼人くん、ご同行願えますか?」

 逮捕とはいかない、あくまで任意。

 しかしあの戦いを目にしてしまっては、穏便にというわけにはいくまい。

 周囲を固められて連行されようとしたその時。

「待ちな」

 藤木さんだった。保護者代理として呼ばれたのだろう。災害現場用の安全ベストを羽織っている。

「分からねえ、分からねえけど違うだろ。こんなヒーローの扱いは」

 言って藤木さんはただ一人、深々と俺に向かって頭を下げた。

 いわれのない罪で拘束される。

 この状況、三年前のあの日とさほど変わらない。

 なのになぜ、俺の心はこんなにも晴れやかなのだろう。


 そうだ。

 俺にも夢があった。

 幼稚で仕方ないけれど、俺はきっと、胸を張りたかったのだ。

 それこそラノベに出てくるような、正義のヒーローになりたかった。


 リアルは強い。

 最強だ。


 でも俺はもう少しだけ戦える。

 ラノベから生まれる夢が、この世にあっていいはずだ。


 俺は最高に決まったヒーローみたいにサムズアップすると、護送車に向かって歩き出した。

第一部完結です。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

感想等お聞かせいただけると幸いです。

第二部は週ペース程度の更新を予定しています。

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