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俺はラノベが大嫌い  作者: 壬生京太郎
第一部:邪神復活編
7/18

第七話『邪神降臨(ヒーロー再臨)』

 俺は校長室に通され、応接用のソファに座るよう促された。

 部屋には二人の警察官がいて、外にも二人、扉をかためているようだった。

 ガラスのテーブルの上にはセットアップされたノートPC、調書やファイル。

「ちょっと見てほしいものがあるんだけど、いいかな」

 友好的だが有無を言わせぬ様子で、警察官は動画ファイルを開いた。

 そこには市街地を邁進する巨大な怪物の姿があった。

 ムカデが絡みついたような灰色の外殻には、ところどころスリットがあり、熱気を吐き出している。彫像を思わせる人面から怨嗟の唸りをあげている。頭部には禍々しく曲がりくねった大きな角。

 俺は、この化け物を知っている。

 邪神。

 あちらの世界でさんざん苦戦させられた、いわゆるラスボス的な存在である。

 核さえあれば無限に再生し、その深紅の宝玉ブラッディ・ジュエルは聖剣の力をもってしても破壊することはかなわない。

 結局666片に切り刻んだ上で、露出した核を善神の力を借りて封印したのだが。

「これ、君の知ってる人?」

 アップになった画面には、エルヴィラ達の姿があった。

『聞こえているか、ソード・シンクライン』

 あいつら、邪神の封印を解きやがった。

『我々の要求は分かっているな。戦うというなら止めはしない。神の加護もないこの世界で、不死の邪神に勝てるというならな』

 建物は倒壊し、足元では人々が逃げ惑っている。

 負傷者だっているだろう。

 とうとう俺以外の人間にまで手を出しやがった。

 外道め!

「ソード・シンクライン、君のことだよね。なんでもいい。話を聞かせてくれないかな」

 そんな警官の言葉も耳に届かない。

 俺は探していた。

 市街地。

 病院。

 いやな予感しかしない。

「すいません! 今のところ、ちょっと戻してもらえませんか?!」

 いた。

 読だ。病院から逃げてきたのだろう。病院服姿の老人を背負っている。周囲の人間は自分のことで手いっぱいで、取り残されていく二人のことに気付きもしない。

 邪神はそこまで迫っている。

(なにやってるんだよ!)

 俺は声を上げそうになった。

 自分の身の危険も顧みず、他人のために、誰が見ているわけでもないのに。

 お前こそ、ラノベの主人公みたいじゃないか。


 ……そうだった。

 俺の時も、栞の時も、あいつは人のために本気だった。


 そんなことはバカらしい。

 ここにいる俺が証明している。

 ラノベは夢だ。

 手の届かないものを、そこにあるように錯覚させる。


 だけど。


 騙される奴は本当に馬鹿だと思うけれど。


 それで読のような奴が現れるなら。


 俺は。


「行かせてください。お願いします。奴らの狙いは俺なんです」

「君一人が行って何になる。ここは警察に任せなさい」

「すみません!」

 俺は部屋を飛び出した。

「ちょっと!」

 外を固めていた警官が俺を取り押さえようとする。

 だがその顔面に勢いよく、白煙のようなものが噴射された。

 チョークを思わせる匂い。

 視界が白く遮られる。

「ここは俺に任せて先に行け!」

 佐竹山くんが消火器を手に叫んだ。

 ここにも馬鹿がいた。どちらかというと本物寄りのバカだけど。

「世界を頼んだぞ、ヒーロー」

「……死ぬなよ」

 それっぽいことを言ってやる。

 佐竹山くんはニヤリと笑うと、二本目の消火器の安全ピンを抜いた。

「フゥーハッハッハ!」

 けむる校舎を後に、校門を抜ける。

 市街地は学校から下った駅前にある。

 俺はつづら折りの坂を無視してそのまま走った。

 ガードレールを飛び越え、高台から身を躍らせる。

「来い!」

 俺の呼び声に呼応して、少女を思わせる光が現れ俺の手に触れる。

 それは、黄金色の剣となった。

 聖剣を手にした俺は、そのまま街へと跳躍する。

 すでに市街は黒煙に包まれていた。


 邪神の外殻の隙間が赤く発光する。

 体内の熱量が上昇しているのだ。

 限界を越えたそれは、スリットから四方に放出される。

 光線が走り、周囲の建造物が倒壊する。

 破片は、読達の頭上にも降り注いだ。

 しかし間一髪、俺はそれを右腕一本で受け止める。

「ソードくん?!」

 まるでラノベ。それもとびきりチープなやつだ。

 でもいいぜ。今回だけは演じてやる。

 俺は聖剣を邪神に向けた。

「勇者ソード・シンクライン、推参!」

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