第六話『真実の鍵(佐竹山くんのシナリオ講座)』
「何の話だよ」
「とぼけないで」
読が突きつけたスマホには、栞からのメールがあった。
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差出人:哀川栞
件名:告白したけど
振られた(´;д;`)
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「誤解だ。告白なんてされてない」
「ならこのメールはなんなの」
「分からん。そんな雰囲気、1ミリもなかったし」
「鈍感の上に難聴、ソードくんは本当にラノベの主人公ね」
カチンときた。
ここでいう難聴っていうのは、女の子の告白を「え? なんだって?」って聞き逃すラノベの黄金パターンだ。自慢じゃないが、俺の耳は10メートル先のゴブリンの足音だって聞き逃さない。
「大体な、俺は読が来ると思ってたんだよ」
「私だったらどうだっていうの」
「そりゃいろいろ考えるだろ! 手くらいつないだ方がいいのかなとか!」
「…………」
「…………」
気まずい雰囲気が流れる。
「……とにかくもう一回考えてよね。栞、本当にいい子なんだから」
それだけ言うと、読は踵を返して駆け出した。
なにやらいろいろ失敗したらしい。
それくらいは俺にも分かった。
でもなんだか不条理だ。
明日もう一度しっかり話そう。
そうすればあいつもきっと分かってくれる。
そのはずだ。
〇
次の日、読は学校を休んだ。
「今日は学食か、ソード」
無機質な白い長机で一番安いラーメンをすすっていると、佐竹山くんが声をかけてきた。
「心配するな。私の掴んだ情報によると、山本くんなら今日は検査で病院だ」
「検査?」
「例の事故の後遺症だ。日常生活に支障はないが、今も定期的に通院しているらしい」
そういえば高校初日、生徒はみんな学校のはずなのに、読は俺の戦いを見ていた。
「なにかあったのか、山本くんと」
佐竹山くんは隣に座ると、視線をこちらに向けることなく、カレーを口に運び始める。
言いたくなければ聞きはしないが。
そう言っている気がした。
気を使いやがって。佐竹山くんのくせに。
「あいつさ、俺をハッピーエンドにしてくれるって」
「ほう」
「それでさ、中学の同級生を紹介してくれた」
「なるほど、それは山本くんが悪いな」
意外なほど即答だった。
こいつ、俺と読との関係を勘違いしてるんじゃなかろうな。
「物語は、内なる欲求が満たされてはじめてハッピーエンドとなる。山本くんは少しばかり脚本の才能が不足しているようだ」
「……?」
「ソード・シンクラインが真に求めるもの、それが果たされない限り、ハッピーエンドは訪れない。そういうことだ」
目が覚めるような思いだった。
言われてみればその通りだ。
俺が求めるもの、それは美少女との恋でも、ラッキースケベでも、うまい弁当でもなく。
もちろん読自身でもなく。
確かにあいつには才能がない。
なぜなら、俺が求めるものは……
「うっ……?!」
右目の視神経が掻き回されるように痛む。
周辺の魔力が大渦のように荒れ狂っているのだ。
過去幾度かの来襲でも、これだけの規模の乱れはなかった。
遅れて地面から押し上げられるような衝撃が響く。
地震のはずはなかった。
(……なんだ?)
ふらつく足で窓に駆け寄る。
駅側の市街地から噴煙が立ち昇っているのが見える。
連中はいったい何を送り込んできたんだ。
異変に気付いた生徒たちが集まってきた。
「ソード、見ろ」
佐竹山くんがスマホを差し出す。
『ニヨニヨ動画』の速報にはこう書かれていた。
『高瀬市に未確認生物出現』
消防とも警察とも分らぬサイレンが響き、尋常ならざる空気がここまで伝わってくる。
「未確認生物……?」
学校にも二台のパトカーが乗りつけされた。
そして校内放送が流れる。
「1年B組、新蔵院蒼人くん、至急職員室まで来てください」