第二話『組織のエージェント(ラノベ化のおさそい)』
「あれ?」
屋上の扉にはカギがかかっていた。
学校の屋上は自殺防止などの理由で閉鎖されていることが多い。
あの手紙、いたずらだったのだろうか。
そんなことを考えていると。
「もしかして閉まってる? おかしいなあ。ラノベじゃ定番なんだけど」
長身の女子生徒が上がってくる。
垢ぬけない雰囲気、手入れの行き届かない長髪、そしてメガネ。
しかし見た目で判断はできない。
政府の人間、組織のエージェントという可能性もあるのだ。
「君は?」
「まだ二日目だから仕方ないか。同じクラスの山本読、よろしくね、新蔵院蒼人くん。いいえ」
ポケットからスマートフォンを取り出す。
「勇者ソード・シンクライン、かな」
読が差し出した画面には、昨日撮影したらしい、戦う俺の姿があった。
やはりこいつ、組織のエージェント。
「何が目的だ」
「あなたが知るすべて」
「何のために」
「あなたの持つ情報は世界を揺るがしかねない。いえ、きっと大騒ぎになるわ。本物の勇者の体験をもとにしたラノベ……間違いなく大ヒットする!」
「……は?」
「ライトノベル。知らないの? 今じゃ図書館にも置いてある、100億円超の巨大市場よ」
違う、そうじゃない。
「あなたの体験をもとにしてラノベを書くの。ちょっと待って、どこ行くの」
「帰る」
「この写真、どうなってもいいの」
「誰も信じない。中二病扱いされるのがオチだ」
「一緒にラノベのトップを目指そうよ、ソードく~ん!」
今度は泣き落としか。
「それにな」
俺は冷たく言い放つ。
「俺はラノベが大嫌いなんだよ」
「へ……?」
狐につままれたような顔で、読は俺の顔を見た。
「いやいやいや、ラノベはああ見えて懐の広さとテーマ性は……」
「だってラノベって、嘘だろ」
読は絶句した。
「嘘っていうか、夢か。簡単に手に入るものならだれも憧れたりしない。ラノベに描かれるってことはみんな欲しいけど手に入らない、夢だ」
俺もラノベは読んだ方だ。
そこに理想を見たこともあった。
しかし気付いてしまったのだ。
それは手に入らないから、ラノベだ。
「夢くらい見たっていいじゃない」
「叶わない夢なんて麻薬と同じだ。ほとんどの夢は叶わず壊れる。リアルこそが最強なんだ」
読がむくれる。
「ならソードくんはなんなの。異世界の勇者なんてラノベそのものじゃない」
「ソード・シンクラインはもう正義とか誰かのためになんて戦わない」
「どうして」
「話してもいいが、ラノベのネタにはならないぜ」
どうせ誰も信じない。
なら言ってしまったところで問題はないだろう。
「そいつはさ、妄想に憑りつかれていたんだよ」