赫々戦争~使い捨てのトーチカ~
『クソォ!あのアカ共、外装式装甲にコンクリ詰めてやがる!ENTACでも抜けねぇぞ!』
「こちら佐内21号車、照準器被弾、車長がァ!」
『佐内13号車、行動不能!履帯を切られました!』
『佐内1号車より佐内全車、一度後退して誘因し包囲せよ!』
たった9両の、それも主兵装である無反動砲さえ積んでいない旧式の六二式郵便戦車に、ENTAC対戦車ミサイルを搭載した最新型の六六式郵便戦車24両が圧倒されていた。
誰かの入れ知恵か、外装式中空装甲をコンクリ詰めにしたらしいそれは20mm機関砲弾どころかENTACすら阻んでみせたのだ。もはや動くトーチカである。
北海道に縁の無い全郵政派には知る由も無いが、空知支庁滝川市と石狩支庁江別市の石炭火力発電所から排出される石炭の燃え滓と、樽前山や十勝岳など北海道に数多ある火山の噴火により産出される軽石は、コンクリート材料として極めて優秀である。
さらに鉄筋や鉄筋代わりの鉄屑と共に外装式中空装甲に充填されたそれを、標準的なコンクリートに対する貫通能力ですら250mmしかないENTAC対戦車ミサイルで貫通させるのは困難だった。
なにせ郵便戦車の中空装甲の厚さが250mmである。
正しく垂直に命中させ、それでどうにかコンクリ詰めの外装式装甲を貫通したとしても、その後背にある12mmしかない車体装甲を貫通する余力などもはや残していないのだ。
だからと言って、どういう訳か無反動砲を積まずにただ機関砲を乱射するだけの旧式郵便戦車9両に、新型の六六式郵便戦車を受領し在日アメリカ軍に教導された精鋭市ヶ谷駐留の我々全郵政派が圧されている。
それで、周辺警戒が疎かになっていた。
『こちら佐内13!履帯損傷により後退できません!助けて下さい!』
『佐内全車、落ち着いて狙え!硬いとはいえたかが六二式だ。ENTACを2発も当てれば撃破できる!』
元より車長が砲手を兼任する郵便戦車は、鉄道輸送の為に課された車高制限で全周視察が可能なキューポラを持たない事もあって周辺視察能力に限界があり、部下への指揮に忙殺されがちな課長車や部長車では特にそれが顕著だった。
故に、それは完璧な奇襲だった。
「佐内21号車より佐内全車!佐内1号車被弾炎上!」
車長と照準器を失い後退するために砲塔背面ハッチを開いていた佐内21号車の装填手が、戦列の後方にいた部長車の最期に気付けたのは幸運だったのかもしれない。
僅か一瞬の静寂が無線を支配する。
『佐内2号車より佐内21号車!どこから!?』
その副部長からの問いに対する答えは、砲弾が齎した。
『左前方!室蘭本線から発砲炎!―――ァあ!アカ共のT-55と六二式!』
そして着弾、着弾、着弾。
対戦車ミサイルよりは旧式とはいえ106mm無反動砲から放たれるHEAT弾頭は、外装式中空装甲が唯の箱でしかない郵便戦車ならば、側面へ垂直に命中させれば貫通可能である。
そして彼ら市ヶ谷郵便局駐留佐内班の六六式郵便戦車の外装式装甲は一部が雑具入れや私物入れとして使われている程度。実質がらんどうである。
なにせ、コンクリなんか詰めたら過積載でサスペンションのトーションバーが早々に折れるのだ。捨て駒を乗せるのなら問題無いのであるが。
『7号車被弾、18号車も!』
『15と13も被弾!』
横殴りの、HEAT弾の暴風雨。そして、T-55の100mm砲が狙うのは。
『佐内2号車より全車、全速後退!退け!ヒッ―――』
「佐内2号車被弾!」
「命中、よくやったユーリ中尉」
「次はどれをやりますか?」
「いや、下がろう。周辺警戒だ。ヴィタリー少尉、20m後退。こんな馬鹿げた戦争で死にたくないだろう?」
『市ヶ谷郵防部北伐隊 壊滅
昨日9月4日、胆振支庁白老町の国道36号線にて、郵便防衛庁の市ヶ谷郵便局駐留全郵政派と胆振千歳郵便局及び釧路郵便局駐留全逓派による戦車戦が勃発。
T-55を多数保有する全逓派郵便戦車隊が全郵政派戦車隊を圧倒、全逓派の喪失車両が5両、戦死行方不明者が18名に対し、全郵政派は24両中18両を喪失。また後方に展開していた全郵政派砲兵部隊も襲撃を受け、戦死行方不明は100名を超えた。
最終的に全郵政派残存は室蘭市街まで壊走するも、室蘭局駐留の郵便派に包囲され投降、武装解除された。
これを受け市ヶ谷局駐留郵防部は更なる北伐の実施を決定。北海道に於ける郵防部の内戦は更に激化すると思われる』
―――毎朝新聞1966年9月5日朝刊
●使い捨ての囮仕様郵便戦車
対戦車無反動砲を始めとする各種装備を降ろし、外装式中空装甲にコンクリート流し込んだ重装甲郵便戦車。
各種装備を降ろしたとはいえ、流し込まれたコンクリートの重量は10tに及び、過積載により足回りへの負荷が大きく、50kmも走ればトーションバーが折れて走行不能となる。
この為に運用される事は希であるが、学の足りないブントを持て余した全逓派は彼らを囮として活用する為に多用する事となる。
また防御面ばかり注目されがちだが、重量が格段に増えた為に射撃時の反動を良く吸収するようになり、エリコンKA20mm機関砲の射撃精度が向上している。
なお、想定外なまでにしぶとかった為に軍事顧問の面々が呆れ慄いた模様。
仏語wikiを見てたらENTACの対コンクリート貫通性能が200~250mmしか無い事に気付いたのと、ブラタモリの釧路編(7月20、27日放送)で軽石が扱われたのが本エピソードの由来。
〆をどう纏めるかで半年も悩んでエタりかけた末に毎朝新聞を頼った。というか分量が短いので前話と合体させるべきか迷っている。
とりあえず、次の赫々戦争編の舞台は北九州か東京の予定。
以下、エタりかけた間にハマっていた物
・ドルフロ
代用コアがそろそろ3500個に届く。
・Escape from Tarkov
ようやくver0.12が来ました。ロシア製FPSにも関わらず序盤でAKを取得し辛くなった為にADARに目覚めた。
・現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変(北部九州在住先生)
これ、現代経済版幼女戦記では?これを読んでて郵便防衛庁の金絡みのネタを1つ思いついた模様。




