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六二式郵便戦車~津波も洪水もへっちゃら!だけど対戦車能力は見ないでね!~

 まずは騒動の発端である水陸両用車両。

 これについては国と郵政省から、先の防潮堤建設予算を要因とする予算不足のためにM24軽戦車の更新を兼ねた水陸両用戦車、もしくは水陸両用対戦車自走砲にして欲しいという要望も上がっていたのだが、この点もアメリカ軍で唯一の水陸両用車両であるLVTP-5が兵員輸送車であることから不利であった。

 それに対してソ連では水陸両用車両の開発が盛んで、更には装軌式水陸両用戦車のPT-76と、装輪式水陸両用兵員輸送車のBTR-60がそれぞれ武装を外されてこそいたが試験購入済みで、それぞれ目立った短所も見当たらず運用に問題は無さそうであった。


 だが結局、先のレッドパージで郵便防衛庁とソ連との関係が悪化してしまい、ソ連からの装備購入の道は閉ざされてしまった。

 その結果斯くなる上は国産しかあるまいとなり、アメリカからもLVTP-5を試験購入した上でソ連製と比較検証して独自に開発する事になった。


 その結果、主なコンセプトは以下のように纏まった。

 車体規模については鉄道輸送を鑑みて、全幅で3m、全長で8m、全高で2.4mを最大とし、全備重量は14t以下とする。

 走行方式について、M24軽戦車の代替も勘案すると装軌式が適当である。

 水上推力について、アメリカ製車両にある履帯に設けた“水かき”方式では推進力が小さく、船外プロペラ方式では障害物に対してプロペラブレードが脆弱という問題があるのに対し、ソ連車両の水噴出方式は後進こそ不可能なものの障害物にも強く、比較的高速で航行可能と優秀である。

 装甲について、正面に鋼製の15mm程度の最低限の装甲を設ける他は、アルミニウム等の軽金属や、浮力向上も兼ねた対戦車榴弾(HEAT)対策の箱型中空装甲を多用するなどして重量に配慮すべきである。

 火力について、戦後第二世代戦車に対抗可能な100mm口径クラス戦車砲の搭載は不可能であり、対戦車には無反動砲を主武装とし、これを補完する副武装として対軽装甲車両用に機関砲を搭載するのが適当である。


 また、車体レイアウトはPT-76のモノが優れているとして範を取りながらも、走行装置についてはアメリカ製兵員輸送車M113などを参考とし、有事の際に在日アメリカ軍と部品等の共用が可能なよう配慮が為された。


 そして完成したのが“1962年式水陸両用特殊郵便輸送車両”、通称としては“六二式郵便戦車”として、海外からはP(Post)T(Tank)T(Type)-62として呼ばれるようになった水陸両用対戦車自走砲である。


 車体はM113兵員輸送車の前後に箱船型の浮きを追加したような、旧海軍軍人からは特三式内火艇に似ていると云われたデザインで、その内実は前面に15mmと後側面に6mmが配置された鋼鉄製装甲の他、浮きを兼ねたアルミ製の外装式箱型中空装甲となっていた。

 なお、この外装式装甲を装着すると車幅が3mを超えるため、鉄道輸送時や狭い路地を通行する際には取り外す事とされた。


 エンジンはいすゞ自動車製の120馬力を発揮する水冷直列6気筒ディーゼルエンジンDA120を車体後部の左右に一基ずつ搭載。これにより左右一つずつの履帯と水噴流装置を独立させて駆動させる方式である。これにより整地で60km/h、不整地で32km/h、水上で11km/hという地形に囚われない高い快速性を発揮する。


 武装は砲塔に対空対地両用のエリコンKA20mm機関砲を一門搭載し、この砲塔の上へ背負い式に106mm対戦車無反動砲(アメリカ軍制式名M40)が二門を搭載されている。


 もちろんのこと郵便輸送車両であるから郵便物の積載が可能で、リアハッチからアクセス可能な車体後部の空間が郵便物専用の積載スペースとなっている他、郵便物の積載能力の無いM24軽戦車用に用意されていた輸送用トレーラーの牽引も可能である。


 そして完成した試作車両を見て郵政省や郵便防衛庁の面々は大いに満足し、制式採用と量産が決定された。


「なんとも悪路に強そうではないか。これなら津波にも洪水にも勝てるだろうよ」

「あの機関砲さえあれば、ツキノワグマだろうがホッキョクグマだろうが怖くねぇな」

「そしてあの立派な無反動砲、道を塞ぐ落石の破砕だとかイロイロと潰しが利きそうだ」


 そして試作車両御披露目に立ち会った在日米軍関係者らは大いに嘆いた。


「こ、こんなペラッペラの装甲で、こんなのが主力戦車だと!?」

「たった二門の無反動砲で、何が出来るってんだ!?」

「違う!こいつら郵便配達の事しか考えてねぇんだ!!」


 ―――ともかくとして、機甲戦力を日本郵便防衛庁に期待してはいけないと気付いた在日アメリカ軍は日本への戦車部隊の配備を決定。ベトナム戦争が収束次第、早急に配備する事となった。

 また、どういう訳かアメリカ海兵隊では何か別の着眼点を得たのか郵便防衛庁に本車両の購入を打診。後に軽装甲車LAV-106として制式採用されてしまった。どうも、郵便物積載スペースを兵員室に改めて運用するらしいが細かい事はまだ分からない。


 そうしてアメリカを初めとする各国から戦車としての落第点を付けられた1962年式水陸両用特殊郵便輸送車両、という長々しい制式名称ではなく通称である“六二式郵便戦車”と主に呼ばれる事になったこの車両であるが、結果的に特殊郵便輸送車両としては大成功を収めた。

 

 活躍の場は制式採用から6年後の1968年5月16日に早くも訪れた。

 この日、発生した十勝沖地震(マグニチュード7.9)では、前日まで大雨に見舞われていた青森県に被害が集中。

 多くの道路や橋梁が通行不可能になった他、むつ市では堤防が決壊して周囲一帯が冠水する被害も生じた。


 そんな惨状の中にあって全国から集結した六二式郵便戦車はあらゆる障害、亀裂の走る道路ではその履帯によって力強く、崩落した橋梁の脇では水面に浮かぶ瓦礫を物ともせず跳ね除けて被災地を駆け巡り郵便業務に活躍。日本各地から発送された大量の援助物資の配達に従事した。

 さらには六二式郵便戦車の乗員らの手によって、集配地域で家屋が損壊して住民の安否が分からなければ捜索をも行い、郵便物の集配の完遂を目指した。


 その甲斐もあってか後年には、それまでの災害に見られた被災地での孤立集落の発生や、物流の停滞による困窮は最小限に抑え、迅速な救助活動を展開する事が出来たと評価され、この1968年十勝沖地震こそ日本郵便防衛庁が今日までに繰り広げてきた災害との戦いの第一歩と称されている。


 そして本車両の“成功”により、日本郵便防衛庁の主力特殊郵便輸送車両の形態は水陸両用装軌車両に定まり、他国の陸軍が機甲部隊主力とする通常の戦車とは極めて異なった独自路線を歩んで往く事となったのだ。

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