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赫々戦争~特殊遊撃車は重戦車の如きチヌ?~

警察の機動隊が郵便戦車に対抗する為の戦車を調達した模様。

 日本郵便防衛庁が発足を迎えた1954(昭和29)年7月、いやそれに遡る1950(昭和25)年。


 郵政省に郵便保護課が設立され、郵便配達員らに三八式歩兵銃やM1カービンなどといった郵便物保護銃が配備された。


 いや、配備されてしまったと言うべきだろう。


 全逓や全郵政の組合員の手に渡ってしまった郵便物保護銃は、彼らの闘争を過激化させてしまったのだ。




 しかしそれでも、GHQは日本の国防力を郵便に押し付ける為、郵便保護課が日本郵便防衛庁へと昇格すると共に、武力闘争に関与していなかった郵便派と旧軍派への戦車や対戦車バズーカといった重装備の供与までも開始。


 GHQは全逓と全郵政が直に共倒れすると目論んでいたようだが、ソ連や中国からの支援を受けた全逓派が郵便防衛庁長官を取り込むまでに伸張し、AKM自動小銃やBTR-60装甲車などのソ連製兵器調達にまで至ると、GHQは方針を転換。


 全逓派をレッドパージすると共に、全逓派と対立する全郵政派への重点的な兵器供与や訓練を実施した。




 だが、余りにも多勢な全逓派の全てを追放する事は、発足間もない日本郵便防衛庁の頭数を維持する事すら危うくしてしまう為に徹底する事は成らず、それが火種を残してしまった。




 その結果が、1960年代末から全国で多発した共産主義者同盟赤軍派による“郵便局強盗(M作戦)”である。


 たかが郵便局強盗であったならば、郵便局に駐在する郵便防衛部員らによって強盗を撃退する事は容易いはずだったが、その郵便防衛部員に紛れていた全逓派残党が郵便局強盗の手引きを働いた事案が多発したのだ。


 この為に郵便局に置かれていた現金のみならず、郵便防衛部員の持つ郵便小銃や、郵便戦車さえ多数が盗まれてしまう事となった。


 この事態に対し全郵政派は郵便局からの全逓派排除作戦を実施。




 こうして、共産党が支援する全逓派や共産主義者同盟赤軍派と、自由民主党が支援する全郵政派による武力闘争は双方が郵便戦車を運用しての内戦同然にまで発展。




 しかし、この武力闘争は郵便局の奪い合いという奇妙な形態に行き着いた。


 双方が相互に、時に独自に日本全国の郵便網を維持しつつ、互いを郵便の敵として郵便局を巡っての戦争を始めたのだ。




 これには日本警察の機動隊が“特殊遊撃車”を採用し、全逓派と全郵政派による郵便局の敷地外での戦闘の鎮圧に乗り出した事が大きい。


 特殊遊撃車とは、過激派に()()もしくは()()された郵便戦車に対抗する為、警視庁機動隊が採用した装甲戦闘車両である。

 一説には、郵便防衛庁丸ごとが共産過激派となり反政府軍化する事すら国家公安委員会は危惧していたという。


 この車両の開発にあたっては、警察としても予算に余裕があった訳でもなかった為、当初は郵便戦車をそのまま採用する事も考慮されたのであるが、実際に郵便戦車同士を戦わせている全逓派と全郵政派の戦闘事例を調査した所、郵便戦車が搭載する20mm機関砲や106mm無反動砲では郵便戦車の装甲を貫通出来ない事が判明。


 郵便戦車が多用する空間装甲が、機関砲弾や対戦車榴弾(HEAT)に対して極めて高い防御力を発揮する為であるのだが、それは郵便戦車で機動隊が鎮圧に乗り出した所で何の役にも立たない所か、より混乱に拍車を掛けてしまうという事でもあったのだ。




 このため警視庁機動隊は郵便戦車を設計したいすゞ自動車や三菱重工業などに対し、郵便戦車に勝てる戦車、もとい特殊遊撃車を要求する事となった。


 一番に問題視されていた火力に関しては、郵便戦車の空間装甲を無力化する為により大威力な砲を搭載する事となったのだが、余りにも威力が過剰だと周辺の民間人への二次被害の恐れもあった。

 また、機動隊の任務からして他国軍の主力戦車との戦闘は考慮されない為、対戦車無反動砲や100mm口径以上の砲は不用とされ、また郵便戦車の機動性に追随する為にも軽量な火器が要求された。


 また車体については開発期間と予算の低減や、製造ラインの共通化の為に郵便戦車をベースとしつつ、機動隊には不用な水上浮航能力や郵便物積載室を廃止して大幅に小型化。郵便物積載室により隔てられていた2基のエンジンも、車体後部中央に300馬力級のディーゼルエンジンを搭載。

 さらに装甲も、郵便戦車が採用する空間装甲よりも高性能な複合装甲を外装式に搭載し、装甲厚も正面装甲60mm、側面で45mmと大幅に強化。外装式装甲無しでも郵便戦車の20mm機関砲に耐えられる装甲が要求された。




 この特殊遊撃車の開発はいすゞ自動車や三菱重工業などによる競作だったのであるが、一次試作で三菱重工業が三式中戦車チヌをそのまま再生産して提出、挙句その結果として他社案を大きく上回る成績を収めるという大波乱が発生。


 あまりにも雑な仕事をした三菱重工業に対し機動隊は、せめて要求を満たす事、三式七糎半戦車砲Ⅱ型とかいう砲手が撃発出来ない戦時急造砲をなんとかする事を要求。


 1966年に入って最終的に三菱重工業の一次試作車を郵便戦車ベースに設計しなおした車両が採用されたものの、やはりその車体は対HEAT弾に用意された外装式複合装甲を剥がしてしまえば三式中戦車チヌに似通った、軽戦車じみたシルエットだった。




 こうして完成した特殊遊撃車の要目は以下の通りである。


・全長:5.6m

・全高:2.4m

・翼幅:3.0m

・重量:23,000kg

・エンジン:三菱4ZF空冷V4ディーゼル

      (8590cc、300馬力)

・懸架方式:トーションバー方式

・最高速度:60km/h(整地)

      20km/h(不整地)


・主砲:オードナンスQF6ポンド砲(1門、46発)

・副武装:1964年式郵便保護軽機関銃(1門、主砲同軸、500発)


・装甲:60~30mm

    正面と側面に外装式複合装甲


・乗員:4名



 主砲にオードナンスQF6ポンド砲という、1940年にイギリスで開発された57mm口径の戦車砲が搭載されているが、これは一次試作での三式中戦車チヌが搭載した三式七糎半戦車砲Ⅱ型ですら郵便戦車には威力が過大であった為、一回り小さな口径が要求された事による。

 しかし日本やアメリカが保有する75mm口径より一回り小さな砲といえば、旧日本軍には試製五十七粍戦車砲があったものの試作止まり。アメリカ軍にはさらに小さな37mm戦車砲M6しかなかった。


 そのため、イギリスのオードナンスQF6ポンド砲が選ばれ、日本製鋼所によってライセンス生産されたものが搭載され、砲弾には同砲を57mm砲M1として運用したアメリカが開発した装薬入りのAPCBC/HEであるM86の他、炸薬の代わりに催涙剤を充填した催涙徹甲弾も用意された。


 これに撃たれる側となった全逓派と全郵政派は、特殊遊撃車を虐殺戦車などと、催涙徹甲弾がハーグ陸戦条約やジュネーブ議定書に違反しているなどと喧伝したが、国家公安委員会は郵便戦車への対抗装備として特殊遊撃車は適切なもので、またハーグ陸戦条約やジュネーブ議定書は警察の治安維持に対し制約を課していないとした。




 特殊遊撃車の量産は三菱重工業の郵便戦車製造ラインで行なわれる事となり、共通部品の多さからコストは郵便戦車の1.5倍程に収まり、警察の予算をあまり圧迫する事なく全国の機動隊へと配備された。


 これにより機動隊は郵便戦車を保有する郵便防衛庁の各派閥や、共産主義者同盟赤軍派など過激派武装組織への対抗手段を獲得。


 郵便局の敷地外での郵便防衛庁の派閥間武力抗争や、銃器や郵便戦車を保有する過激派武装組織を銃刀法違反として取り締まり、郵便防衛庁内の武力闘争を郵便防衛庁内までに押さえ込む事としたのだ。




 言ってみれば、郵便防衛庁での内戦が外へ飛び火したり、外野から油が注がれないよう、機動隊が監督し適宜介入する事となったのだ。


 この機動隊による介入において特殊遊撃車は正に大活躍した。


 主力戦車の多くが重量に起因する問題から複合装甲の採用を車体と砲塔の正面に限っているから、郵便戦車の106mm対戦車無反動砲や対戦車ミサイルは現代でも対戦車攻撃に有用なのだ。

 しかし機動隊の特殊遊撃車は軽戦車並みの小型な車体にオードナンスQF6ポンド砲とかいう時代遅れの豆鉄砲と6.5mm口径の同軸機銃しか積んでおらず重量面で余裕があり、正面どころか側面までも複合装甲を獲得、郵便戦車の武装で特殊遊撃車を撃破する事は困難だった。


 さらに特殊遊撃車が搭載するオードナンスQF6ポンド砲も郵便戦車にとって相性が悪かった。

 主力戦車の戦車砲で主流となりつつある装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が、加害能力を貫通時に生じる弾体や装甲の破片、そして高温に頼っている為に、装甲が薄すぎる郵便戦車にはAPFSDSが命中しても碌に破片も熱も生じず被害を与えられないのに対し、余りにも旧世代過ぎるオードナンスQF6ポンド砲を搭載する特殊遊撃車は旧式極まる徹甲弾に催涙剤や装薬を詰めて撃ってくるのだ。


 特殊遊撃車に撃たれた郵便戦車は尽く催涙ガスで車内で満たされ、それでも止まらなければ爆発炎上する事となった。


 そして郵便戦車が特殊遊撃車を撃破出来ない以上、郵便戦車の前に特殊遊撃車が立ち塞がった時点で結果は投降か逃走か、それを選ばなければ全滅であった。




 彼ら機動隊の奮戦により共産主義者同盟赤軍派など過激派武装組織は数年の内に潰滅し、郵便防衛庁の派閥間武力闘争も警察権力の届かない郵便局敷地内での闘争を強いられる事となったのだ。




 郵便戦車が特殊遊撃車を撃破可能となるのは、10両以上で物量圧しして数多の損害を積み重ねた末に背面装甲を狙うか、後に採用されたトップアタック性能を持つTOW対戦車ミサイルを搭載する九〇式郵便戦車を待たねばならなかった。

 特殊遊撃車が戦後最も活躍した軽戦車になった模様。


M551「えーマジ軽戦車!?」


AMX-13「イマドキ軽戦車で許されるのは空挺戦車だけだよねー」


M551&AMX-13「キモーイキャハハハハハハ」


郵便戦車「おまえら実戦でボッコボコにされてるやんけ……」




感想にて三菱4ZF空冷V4ディーゼルの排気量を教えて下さった皆様ありがとうございました。

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