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国際特殊航空速達~宛先は中華人民共和国~

 政冷経熱、という言葉がある。


 1990年代、日本との政治関係が冷え込みつつも、経済関係では熱を高めていた中国で生まれた造語である。


 そして国境を跨いだ経済活動が活性化するという事は、両国間の物流もまた活発になるという事である。




 1992年9月29日。


 日中国交樹立20周年を迎え、中国での経済発展も伴って日本と中国を結ぶ物流は活発化。

 日本郵政省が扱う国際郵便や国際小包に関しても中国宛の扱い数は年々増加の一途を辿っていた。


 これに対し日本郵政省と日本郵便防衛庁は中国政府と中国郵政公司に対し、それまで民間航空会社に委託していた日本と中国との国際郵便の航空輸送を、郵便防衛庁で実施出来ないか要請するに至った。


 何故かといえば、国際郵便を搭載した民間旅客機の殆どが発着する千葉県成田市の成田空港が東京から遠すぎるのだ。

 せっかく千葉県浦安市に建設した舞浜郵便空港局も、保有する空港設備は郵便貨物専用であり民間旅客航空便の設定はゼロ。

 舞浜に降りてくれさえすれば、あとは税関さえ急かせば国際郵便とはいえ迅速な配達も可能だというのにだ。


 しかし旅客を降ろせない以上、非常時を除いて民間航空会社が旅客機を舞浜に降ろす筈もなかった。


 航空郵便防衛庁の戦闘機が民間旅客機を舞浜へ強制着陸させなかったのは幸いと言うべきだろうか。




 ……少々話がズレてしまったようだ。


 日本郵政省と日本郵便防衛庁からの要請を受けた中国政府と中国郵政公司は、まあ困惑した。


 空軍を国際郵便輸送に使うなんて、いったい空軍をなんだと思ってるのかと。


 しかし他方、アメリカを見てみればなるほど上手くやっているようではないか。

 1992年の現在、日本郵便防衛庁航空郵便防衛部は舞浜~ニューヨーク、ロサンゼルス、アンカレッジの3つの国際航空便を設定しているが、その運航機材はボーイング777の貨物仕様機。

 この777は郵便防衛庁が航空便就役の見返りとしてアメリカから購入させらていたのだ。


 アメリカにしても郵便防衛庁に運航機材を指定した挙句に高く売れて上手くやったという訳だ。


 また郵政省や郵便防衛庁にとっても、YS-11やC-130といったプロペラ郵便輸送機や少数のみ保有していたジェット郵便輸送機であるL-1011と比べて格段に優れたこの郵便輸送機を甚く気に入り、国内航空便についても最新ジェット機の導入をという事でさらにボーイング社へ737や767の貨物仕様機を発注しているという。




 つまり、中国も上手くやればアメリカのように甘い汁を吸えるのではないか?


 という事で中国は考えた。


 日本郵便防衛庁の貨物機が中国の首都北京に降りるのは、まあどうせ輸送機であるし人民解放軍の軍用空港に降りさせれば大した問題にならないだろう。

 しかし大した問題にはならないとはいっても、やはり少々の問題は生じるのだから、これを静める為の成果は必要だ。


 例えばアメリカが自国製の飛行機を買わせたように。


 だが困った。

 中国には日本郵便防衛庁に買わせるような、国産旅客機などといった商品が無い。まさか時代遅れのY-8(An-12)を買ってくれるほどお人好しではないだろう。


 そんな頭を悩ませる中国に対し、日本郵便防衛庁は更なる追い討ちを掛けた。


「それと、せっかく近いのだからEF-1で特殊国際航空速達便もどうです?長崎~上海なら空中給油も無しで40分くらいで行けますし」


 アメリカへは空中給油機が足らなくて、などと続けて宣う日本郵便防衛庁(郵便バカ)を眼前にした中国政府の心境や察するに余りある所である。


 しかしここで中国人民解放軍空軍が食い付いた。


 確かEF-1ってアビオニクスがアメリカ海軍のF-14と同じだったよな?


 日帝の戦闘機が人民解放軍の基地に降りるのが何だ。中身はF-14だぞ、むしろ降りて下さい何でもしますから!




 こうして中国は日本郵政省と日本郵便防衛庁からの要請を受諾。


 その代わりに中国が提示した条件は、航空便を共同運航する、という事だった。

 早い話が、航空便(EF-1)の整備や運航に一枚噛ませろという思惑である。


 しかし日本郵政省や日本郵便防衛庁としても運航予算の圧縮になるとして、この条件を了承。


 どうも信書の機密には心底気を使っているようだが、軍事機密の扱いが雑に過ぎるのではないだろうか。というのが中国側担当者の言である。




 1994年4月2日。

 日本~中国間における国際航空郵便の中国側の運営組織として中国郵政航空公司が発足。

 その実態は中国国家郵政局や中国郵政公司の他、中国南方航空公司など民間からの人員も少なからずいたものの、大多数を中国人民解放軍空軍から派遣された人員で占められていた。


 同日、日本郵便防衛庁航空郵便防衛部と中国郵政航空公司による舞浜~北京、上海間の定期便が就役を開始。

 これに充てる運航機材は、1993年9月にモガディシュ事件が発生して以来、ボーイング社で行き場を失っていた航空郵便防衛部向けボーイング767を中国郵政航空公司が購入した機体である。


 これに少しばかり遡る事3月31日には、上海の崇明島にある中国人民解放軍空軍の崇明島基地に、航空郵便防衛部のEF-1Bの4機がパイロットや整備士らと共に配備された。




 こうして中国によりEF-1は徹底的に調べ尽くされた。

 なにせ日本郵便防衛庁はEF-1のコックピットに中国郵政航空公司(中国人民解放軍空軍)社員(パイロット)が座る事さえ許し、いや許した挙句の次の日にはレーダー員が体調を崩したからとそのまま長崎行きの便に乗せられた始末である。


 後に、体調を崩した筈のレーダー員が上海市街に繰り出し食べ歩きを散々楽しんでいた事が、人民解放軍総情報部によって明らかになっている。

 この事案が初めて発生したのは4月3日、崇明島基地への配備から僅か5日の出来事であった。


 さらにこういった事案は続きに続き、ある便に至ってはパイロットとレーダー員の二人ともが中国郵政航空公司(中国人民解放軍空軍)社員(パイロット)にすり替っている始末。


 EF-1の秘密を暴かんと万策を用意していた人民解放軍総情報部にしてみれば唖然とするしか無かった。


 6月に入るとさらに事態は変化する。


 崇明島基地に配備されている4機のEF-1B全てが中国郵政航空公司へリースされる事となり、これにより正式に中国郵政航空公司(中国人民解放軍空軍)社員(パイロット)がEF-1のコックピットに収まる事となったのだ。




 そして、中国が纏めたレポートは以下の通りである。




日本郵便防衛庁航空郵便防衛部との国際郵便の航空輸送について


作成

1994年8月20日

中国郵政航空公司管理部


一.北京、上海~舞浜間のボーイング767による運航は全て支障なく行なわれている。

  この運航に供されているボーイング767型機の4機全てが中国郵政航空公司の保有機である。

  全ての運航要員の内、5割が中国郵政航空公司の人員で占められている。

  北京と上海における整備要員の内、9割が中国郵政航空公司の人員で占められている。


二.上海~長崎間のEF-1Bによる運航は全て支障なく行なわれている。

  この運航に供されているEF-1Bの8機の内、崇明島基地に配備されている4機全てが日本郵便防衛庁航空郵便防衛部から中国郵政航空公司へ有償貸与されている。

  全ての運航要員の内、7割が中国郵政航空公司の人員で占められている。

  上海における整備要員の内、8割が中国郵政航空公司の人員で占められている。


三.EF-1Bについて、頑強かつ軽量な機体に搭載された大出力エンジンにより、いとも簡単にマッハ3超の飛行が可能である。

  搭載されているAN/APG-71火器管制レーダーやAIM-7F中距離空対空ミサイル、AIM-9M短距離空対空ミサイルの性能は驚異的である。

  それぞれの装備は極めて先進的で、中国人民解放軍空軍のいかなる航空機もこれに対抗する事は不可能である。

  EF-1Bの機体特性は軍用機として不適切である。

  EF-1Bを戦時に戦闘機として長期間運用する事は、戦闘によって多々生じるであろう損傷に対し修理に膨大な予算と資源を浪費するため事実上不可能である。

  EF-1Bの各構成要素や搭載する兵装の詳細な調査解析は、必要以上に速達性を重視した過密な運航ダイヤに阻害されて不可能である。

  郵便物積載用ポッドの断熱殻に用いられている技術は、長距離弾道ミサイルの弾頭再突入技術そのものであり極めて重大な警戒を要する。

  日本郵便防衛庁はEF-1Bの運用に於けるノウハウを中国郵政航空公司へ積極的に提供している。

  

四.中国郵政航空公司による中国~日本間の航空便輸送について、人員や機体の比率は中日で5対5とし適切に管理するべきである。

  日本郵政省と日本郵便防衛庁は、人件費節約の為に中国郵政航空公司社員の積極的に重用している疑惑がある。

  中国郵政航空公司による中国~日本間の航空便輸送について、中国郵政航空公司が得られているノウハウの中で有用なのは輸送機の迅速かつ効率的な大規模運用などロジスティクス面に限られる。

  人民解放軍空軍がマッハ3超、いやそれどころかマッハ2.5超の航空機を調達する予定が無い以上、マッハ3超の戦闘機であるEF-1Bの運用ノウハウを得ても活用する機会は考えられない。

  EF-1の最強の矛たるAIM-54長距離空対空ミサイルは本航空便を運航するEF-1Bには配備されておらず、その子細は一切調査出来ていない。

  中国郵政航空公司はEF-1Bの高い貸与料金を支払って、中国郵政航空公司のボーイング767や、中国人民解放軍空軍のパイロットや整備士を安く日本郵便防衛庁に提供している状態にあり、この状態は固定化されてしまう前に健全化されるべきである。




 早い話が、中国人民解放軍空軍の人材が日本郵便防衛庁に略取されているというのだ。


 言い掛かりにも程がある。

 なんて言ったって、EF-1Bに乗りたいと言ってきたのは中国郵政航空公司じゃないか。


 中国郵政航空公司のパイロット達はEF-1Bによるマッハ3の超音速郵便輸送任務に喜んで就いている。それを略取だなんて酷い言い掛かりだ。




 こうして、日中間のリソース比こそ若干の修正が実施されたものの、日本郵政省と日本郵便防衛庁はかなりの低予算で舞浜、長崎~北京、上海間の国際航空便を運航するようになったのである。

中国郵政航空公司(中国人民解放軍空軍)「ねえAN/APG-71火器管制レーダーのメンテナンスは?AIM-54長距離空対空ミサイルは積んでないの?」


日本郵便防衛庁「郵便輸送でそんなもん使うか!それにAIM-54みたいなデカブツ積んだら重過ぎて郵便物が積めなくなるだろ!急げ機体のメンテだけやったらさっさと飛ぶぞ!速達だぞ速達!」


中国郵政航空公司「そ、そんな~!」



ちなみに作中に登場させた中国郵政航空公司ですが、内実はともかく実在します。

しかも上海~大阪で定期航路も持ってます。

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