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終わりの始まり~郵便防衛庁の首を締め上げろ~

終わりの始まりです。

 財政投融資、というシステムをご存知だろうか?


 公的年金、郵便貯金、簡易生命保険の三つからなる国民から預託された資金を大蔵省に預託し、国や地方自治体、さらには特殊法人による事業へ投資や融資をする。という仕組みである。

 1878年(明治11年)より続くこの仕組みは、国家予算とは別の第二の予算として景気の調整や、資金の再配分の役割を担ってきた、決して悪くないものであった。


 しかし、これら融資の返済には例え特殊法人が赤字を積み上げていようとも国家予算によって補填が為され、その挙句、不健全な経営体質に対しなんら是正が為されないという状況が常態化していた。

 さらに近年、これら特殊法人が官僚の天下り先となっている事が批判を集めていた。


 このため、1997年には郵政省から大蔵省への預託義務を廃止し、大蔵省が発行する国債を原資として財政融資を行なうよう改められた。


 そして郵政省は、今まで大蔵省に預託していた郵便貯金、簡易生命保険を全て自主運用する事を強いられ、しかし官営である郵便貯金と簡易生命保険によって集めた資金を運用出来るのは実質的に国債のみである。

 国債というのは数多ある金融商品の中で最も利回りが低い、つまりは儲けの乏しい運用先であり、これまで財政投融資によって高い利回りを得ていた郵政省にとって大きな枷となったのだ。




 その枷の影響を最も大きく受けたのが日本郵便防衛庁である事は、日本郵便防衛庁が国家予算の他に郵政省から、さらには財政投融資からも予算を得ていた事からしてまず間違いないだろう。


 なにせ、財政投融資を廃止するよう強く訴えていたのは、あのモガディシュ事件で日本郵便防衛庁に敗北を喫したアメリカもだったのだから。




 こうして、日本郵便防衛庁は予算の圧縮の為に再編と縮小を強いられる事となった。 




 まずは陸上郵便防衛部。

 35万人もの部員と、郵政省内に2万人の予備部員を抱えるなど、頭数では日本郵便防衛庁最大の部署であるが故に、大きく削減される事となった。

 しかし地方自治体などからは災害時における物流確保においては陸上郵便防衛部が重要であるとして、削減規模は運用に支障がないよう可能な限り配慮がされた。


 具体的には、8年間を掛けて部員は8万減の27万人、その代わり予備部員は1万増の3万人とし、全体では7万名の削減である。


 45,000両もの郵便戦車シリーズについては1万両減の3万5千両まで、400機余りのヘリコプターについては旧式のUH-1汎用ヘリコプターを中心に50機減の350機まで削減される事が決定した。




 次に海上郵便防衛部。

 主力艦艇の総トン数は56万4800トンにも及び、世界最強のイージス艦の名を欲しいままにしている直江津型郵便護衛イージス重巡洋艦を1997年現在4隻も保有している世界第三位の海上戦力群である。

 しかし、モガディシュ事件ではアメリカ海軍の空母を2隻も沈めた事からして、大きく削減を受けるとも目されていた。


 だが、いざ削減の指針を策定しようとしてみれば、国内外の多数の海運企業から批判が集まった。


「世界の海上交通路を血眼になって守る日本(Japan)海上(Maritime)郵便(Postal)防衛(Defense)(Section)を、よりにもよって削減!?俺達を見捨てる気か!?」


 というのも、日本海上郵便防衛部はその発足以来、アデン湾やペルシャ湾などで海上交通路の防衛を担ってきたのであるが、よりにもよって今年1997年にタイ王国を中心としたアジア各国で勃発した通貨危機を発端として、マレー半島とスマトラ島に挟まれたマラッカ海峡でも海賊事案の発生件数が増加。

 このため日本郵便防衛庁はマラッカ海峡へも郵便護衛艦隊の派遣を決定していたのだ。


 このような情勢の中で海上郵便防衛部の削減など出来るはずもなく、それどころかさらなる増備さえ検討が始まっているという。


 もはや世界の海上警察といった所であろうか。




 最後は航空郵便防衛部。

 F-14DやEF-1A/Bといった高級戦闘機を主力戦闘機として計500機超も保有し、高等練習攻撃機にはステルス性能を備えたTA-1が150機余りの導入計画も有しているなど、こちらも世界第三位の航空戦力群である。


 しかし、陸上郵便防衛部は余り減らせず、海上郵便防衛部に至っては削減どころか増備さえされる恐れもあるとなっては、もう航空郵便防衛部で帳尻を合わせる他無し。

 モガディシュ事件には殆ど関与していないにも関わらずこの仕打ちである。


 ともかく方針としては、金の掛かるF-14DやEF-1A/Bといった主力戦闘機を約半分の252機まで削減し、その補填としてはTA-1に戦闘機としての能力を持たせたマルチロール化改修を施して軽戦闘機としても運用する事となった。


 だが、ここからが揉めた。かなり揉めた。


 約半分の252機まで削減する主力戦闘機の内の、F-14DとEF-1A/Bの機数割り当てである。


 それぞれの価格としては、チタンやニッケルなど希金属を余す事無く注ぎ込んだEF-1が断然高価であったのであるが、その結果としてマッハ3.4もの超音速飛行に耐えうる頑丈な機体は、普段の運用においては維持コストが予想外に小さかったのだ。

 逆にEF-1よりは安価だったF-14は、F-14の特徴たる可変翼機構がある事もあり、維持コストはEF-1よりも嵩んでいたのだ。


 さらには、MiG-25を原型機とするEF-1や、ポーランドと共同開発したTA-1は設計に東側の影響を色濃く残していたのに対し、F-14は西側の盟主たるアメリカで設計されていた為、F-14をEF-1やTA-1と共に運用すると様々な面で不都合が生じていたのだ。


 その結果生まれたのがF-14不用論である。


 そもそもF-14を採用した経緯からして、F-14のみが有していたAN/AWG-9レーダーとAIM-54空対空ミサイルをEF-1に適応させるパッケージ目当て。

 単純な性能だけで比べてみても、F-14はEF-1に劣っていたのだ。


 こうして250機の主力戦闘機の定数の内訳は、EF-1A/Bが68機減の212機、F-14Dが164機減の40機となった。




 この他にも各郵便防衛部で細々とした再編、縮小計画が作成されたのであるが、主だったものは上に上げた通りである。


 しかし、この日本郵便防衛庁再編計画が巻き起こした波乱はこれだけでは無い。いやそもそも、未だ始まっていなかったというべきであろう。




「それで?削減して退役させる1万両の郵便戦車と232機の戦闘機、どうするの?売れるの?」


 全てはここから始まったと言っても過言では無いだろう。




 郵便戦車に関して言えば、安価でありながらその性能はアメリカ海兵隊の折り紙付き。

 中古戦闘車両に付き物の状態の悪さも、北海道や東北地方など豪雪地域で運用されていた車両については融雪剤による錆の酷い車両もあったが、逆に言えばそれだけ。極めて良好と言って差し支え無かった。

 また水陸両用であるため日本製にしては車内容積に余裕があり、開発元のいすゞ自動車のみならずフランスや南アフリカなどから改修案が提供された事もあって購入を希望する国は多くいた。


 そもそも売れ残ろうがスクラップにして鉄材にすれば良いのであって、先行きに大した不安は無かった。




 だが232機もの戦闘機ともなれば話が別であった。


 なにせ巨大で頑丈であるからスクラップにするにも金が掛かるし、売ろうにも馬鹿にならない維持費が敬遠されて中々買い手が付かなかった。


 特に68機にも及ぶEF-1は、その尖りすぎた性能は迎撃戦闘機としては、あるいは速達戦闘機としては確かに優秀な性能を誇っており、また搭載量の多さから爆撃機の代用としても運用可能であったが、その維持整備には希金属を大量に使った日本製部品の安定供給が不可欠。

 金さえあればその部品は買えるだろうし、恐らく日本郵便防衛庁が何としてでも届けてくれるのだろうが、それも金があればの話。とてもじゃないが扱い切れない。


 こうして、EF-1は全く買い手が付かず、何機かは全国にある郵便局の空港分室などでモニュメントにされるなどの他は部品取りにされた後にスクラップとなった。




 だが、残るF-14Dだけは話が全く逆となった。


 164機、全てを購入したいという打診があったのだ。


 その国の名は、イラン・イスラム共和国。


 1979年にイラン・イスラム革命が勃発するまでにイランはアメリカより77機ものF-14Aを購入しており、1980年から1988年までのイラン・イラク戦争においては数々の作戦に投入していた。

 このイラン・イラク戦争を経てイラン空軍のF-14Aは、搭載するTF30エンジンの信頼性の悪さによる事故や、戦闘における損失により、そして革命後にアメリカからの正規ルートでのパーツ供給が途絶えていた為に、現在では稼動機を30機程まで減らしているという。


 だがしかし、F-14Aは搭載するAN/AWG-9レーダーとAIM-54空対空ミサイルの圧倒的優位性によりイラク空軍、ソ連空軍、東ドイツ空軍が運用するMiG-21やMiG-25、ミラージュF1などとの戦闘でほぼ常に勝利を収めていたのは事実であり、イランとしては戦争で消耗したF-14Aの補填と更なる増備を欲していた。


 そんな時にF-14Dを204機も保有する日本郵便防衛庁が、そのF-14Dを164機も手放すというではないか。


それ(F-14D)、全部買わせて」




 当然、アメリカはこれに待ったを掛けた。


 のであるが、アメリカが日本の共産圏以外の国への兵器輸出にケチを付ける筋合いがある筈も無く、アメリカが代わりに164機全部を買ってくれるという訳でも無く。


 こうして日本郵便防衛庁航空郵便防衛部のF-14Dが164機のイランへの輸出は決定。

 さらに、F-14Dや搭載エンジンであるF110の日本でのライセンス生産を行なっていた三菱重工業や石川島播磨重工業による、イラン空軍のF-14Aの部品製造を担っていたイラン()便()電信電話省通信センターへの有償技術支援も行なわれる事なったという。




 日本郵便防衛庁の首を絞めていた筈が、どういう訳か自分で自分の首を締め上げていた事にアメリカが気付いた頃には、もう全てが手遅れだった。

さて、誰が終わるんでしょうね?


イラン空軍「戦争で消耗したF-14AがF-14Dになって戻ってきたぞ!ヤッター!」

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