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ソマリア郵便防衛庁海上郵便防衛部~人民海軍の亡霊~

 アデン湾とソマリア沖における海上交通路において、海賊というのは一つ大きな問題であった。


 この海域における海賊事案はソマリアでの内戦により急激に増加しており、1992年からの国際連合ソマリア活動(UNOSOM)もソマリアでの治安回復によって海賊問題を解決する事も目的の一つとされていた。


 このUNOSOMでは日米間の武力衝突もありつつ最終的にソマリアの内戦はほぼ終結し、そして物流網の回復によって復興の兆しさえあり、それと共にソマリア沖での海賊事案の発生件数は減少しつつあった。


 だが、ここで一つの問題が顕在化した。


 ソマリアでの内戦に耐えかねて1991年5月に分離独立を果たした北部のソマリランドが、内戦の終結したソマリアの経済復興から取り残されてしまったのだ。

 さらにソマリランドの数少ない収入源の一つであった東アフリカ有数の良港ベルベラ港の港湾使用料収入が、ソマリアのモガディシュ港の再開発とソマリア国内の鉄道網の整備によって減少してしまっているという。


 だれのせいかといえば、遣ソマリア独立統合郵便防衛部とソマリア郵政省、そしてソマリア郵便逓送株式会社である。


 このためソマリランドの元々悪かった財政は更に悪化し、氏族間対立の表面化により治安までも悪化。それに伴いソマリランド周辺海域での、つまりアデン湾での海賊件数は増加の一途を辿ってしまっていたのだ。


 ならばソマリランドがソマリアと再統一すればいいのではと誰もが思ったのであるが、ソマリランドとしては当時まだ一応の体を成していたソマリア正規軍との独立戦争をしてまで独立を勝ち取ってしまった手前、そう簡単に元鞘に戻ると言えるはずも無く。




 そんな状況の折、1994年4月に発足したソマリア郵便防衛庁、その海上部門であるソマリア海上郵便防衛部が各国の度肝を抜いた。


 そのソマリア海上郵便防衛部が発足と共に揃えた艦艇と航空機が以下の通りである。


 雪椿型郵便護衛駆逐艦(基準排水量3200t)―3隻

 1159型(コニ級)フリゲート(同1600t)―3隻


 1241型(タランタル級)ミサイルコルベット(同420t)―3艇

 205型(オーサ級)ミサイル艇(同190t)―6艇


 89.1型(コンドルI級)掃海艇(同330t)―6艇

 89.2型(コンドルII級)掃海艇(同440t)―6艇


 108型(フロッシュI級)戦車揚陸艦(同1750t)―3隻


 Mi-14PL対潜哨戒ヘリコプター―8機

 Mi-14BT掃海ヘリコプター―6機

 Mi-8TB輸送ヘリコプター―10機




「なあ日本郵便防衛庁。アンタがソマリア沖での海上護衛に新しい艦隊が欲しいって言ったのいつだっけ?」


「ええと……1990年だね」


「ドイツ民主共和国人民海軍が解体されたのは?」


「……1990年だね」


「もひとつ質問いいかな」


「人民海軍の艦艇とヘリコプター、どこに行った?」


「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」




 ―――という問答が実際にあったかは定かではない。




 確かに日本郵便防衛庁は、日本と欧州を結ぶ海上交通路において要衝の一つであったアデン湾の安全確保を最重要視していた。それこそ発足した当初から本土領海など見向きもせず艦隊を派遣した程である。

 そうであるからして、アデン湾に面するソマリアでの内戦には、そしてアデン湾とソマリア沖での海賊事案の増加には頭を悩ませていた。

 しかし、海上護衛を密に行なおうにも手持ちの艦や乗員の数には限りがあり、これらは急に増やせる数字でもなかった。


 だがそんな時、ドイツを分断していた壁が崩壊し、ドイツは再統一を果たした。

 そして東西冷戦も終結したため、ドイツ連邦は余剰となった旧人民海軍(東ドイツ海軍)の艦艇や航空機を処分する事となり、さらに旧人民海軍の将兵の殆ども退役させられる事が決定。

 しかもドイツは再統一に伴う経済の混乱により失業率が悪化しており、退役した旧人民海軍将兵で再就職先が決まっているのはほんの一握りだという。


 これに日本郵便防衛庁は注目して、旧人民海軍艦艇やヘリコプターの購入、そして旧人民海軍将兵の日本郵便防衛庁海上郵便防衛部での雇用をドイツ政府へ打診。

 財政改善の為の資金や失業率の改善策を欲していたドイツ政府はこれを了承した。


 斯くして日本郵便防衛庁は9隻と21艇、総トン数26670tもの艦艇と24機のヘリコプター、さらにはこれら艦艇と航空機の乗員を主とした旧人民海軍将兵2000名余りを獲得。

 艦艇やヘリコプターへの再武装、及び乗員への再訓練が完了した1993年11月には、日本海上郵便防衛部の下に第7から第9までの郵便護衛艦隊が発足を迎えたのであった。


 まあ、旗艦以外の艦艇は全てソ連製と東ドイツ製で、乗員も殆どが旧人民海軍将兵となれば、実質的には人民海軍と大差無いとも言えるだろう。


 挙句、これら第7から第9までの郵便護衛艦隊に付いた渾名が“人民海軍の亡霊”である。




 だが、日本海上郵便防衛部が中東海域において拠点港としているトルコのイズミルとジブチ(旧フランス領アファル・イッサ)への派遣を前にして、その風向きは大きく変わっていた。


 アデン湾やソマリア沖で海賊行為を行なっている海賊の殆どが、かつてソマリアで漁業を営んでいた漁民達であり、海外からの漁船による不法操業によって漁場を追われたために海賊をしていた事が判明したのだ。

 内戦によって沿岸警備もままならなくなったソマリアに漁業監視を行なえるはずも無かったのだ。


 しかしこれでは、いくら海賊を防ぎ、取り締まっても大元の原因は取り払われる筈もなく。

 かといってソマリアが沿岸警備能力を取り戻すにはまだ長い年月が掛かるのは明らかであった。


 日本海上郵便防衛部でソマリアの領海や排他的経済水域における漁業監視が出来ないかも検討されたが、それが海賊問題の根源である事が明白であってもそれは不可能だった。


 なにせ外国漁船による領海侵犯や不法操業そのものは郵便になんら直接的危害を与えていないのであるから。




 そこで彼ら日本海上郵便防衛部は思い出した。


 ソマリアが未だ無法国家である事を。

 まだソマリアでは碌に法整備が進んでおらず、それは行政機関に対する根拠法も同じである事を。


 ならば、ソマリアに発足させるソマリア郵便防衛庁に、漁業監視任務を与える為の根拠法をソマリア暫定政府に作らせれば、一切合財あらゆる全ての問題が解消するではないか。

 例えば、ソマリアが沿岸警備能力を回復するまで、ソマリアが有する他の行政機関がこれを代行もしくは補助する、というような法律さえあればいいのだ。


 どれだけ滅茶苦茶な論理であろうが、それが法によって定められてさえいれば成立するのである。


 


 こうして、まだ発足も迎えていないソマリア郵便防衛庁に海上郵便防衛部が設立される事が決定し、そしてソマリア海上郵便防衛部への艦艇とヘリコプターの供与、さらには人員の派遣が決定したのである。


 つまりは、“人民海軍の亡霊”の事である。

 

 当然、これには各国が驚かされた。

 突如として日本郵便防衛庁が、ソマリア郵便防衛庁に、旧東ドイツ海軍(人民海軍)の艦艇と将兵を、周辺国海軍に倍する規模で供与である。


 もう訳が分からない。




 しかし、彼らソマリア海上郵便防衛(人民海軍の亡霊)部はよく働いている。


 元よりソマリアでの治安回復もあって海賊事案の発生件数が減っていたのに加え、ソマリア海上郵便防衛部による漁業監視によってソマリア漁民らが漁場を取り戻した事が、海賊から漁業への回帰を促したのだ。

 またソマリランドからの海賊による問題に対しても、ソマリランド漁民によるソマリア領海及び排他的経済水域内での操業を認可する事で、ソマリランド漁民らの収益を確保し、海賊となる事を抑制させている。


 そしてもちろんの事、彼らは海賊行為に遭った民間船舶への救援任務にも活躍している。


 40ノット超の速力を誇る205型(オーサ級)ミサイル艇や1241型(タランタル級)ミサイルコルベット、そして雪椿型郵便護衛駆逐艦にとってアデン湾やソマリア沖など庭も同然。

 さらにMi-14PLなど各種ヘリコプターによる哨戒飛行さえ実施しているのだ。


 そんな海域で海賊行為など働けば瞬く間に彼ら人民海軍の亡霊は現場に急行し、そして制圧するのだ。

 東西冷戦の最前線にいた彼らにとって、海賊退治など朝飯前だった。


 また彼らにとっても、祖国ドイツとアジアを結ぶ海上交通路の要衝を守っているという事で士気が上がる、やりがいのある仕事だという。




 こうして今日も、世界の海上交通路の要衝たるアデン湾は人民海軍の亡霊を始めとする各国海軍や海上郵便防衛部の献身によって守られているのだ。

日本郵便防衛庁が人材派遣業を始めたようです。

なお現在の史実ソマリア連邦海軍の戦闘艦艇は205型(オーサ級)ミサイル艇などが6艇のみだそうです。



日本郵便防衛庁「日本が出来ないならソマリアにやらせればいいのでは?え、中身が日本ですらなく東ドイツだ?もう存在しない国の事なんか知らんがな」


人民海軍将兵「なんかよく分からないけど日本人が仕事をくれたよ!」

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