表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/49

遣ソマリア独立統合郵便防衛部~アメリカのいちばん長い日、その郵便は~

時間表記が見づらかったら感想とかにコメント下さい。

出来る限り改良してみます。

 1993年9月19日、日本時間(日本標準時JST)1時22分、ソマリア時間(東アフリカ時間EAT)18日19時22分、ホワイトハウス時間(東部夏時間EDT)18日12時22分。


 深夜、日本郵政省と日本郵便防衛庁を震撼させる急報がソマリアから齎された。


「モガディシュ市街にて郵便ポスト1基が銃撃戦によって損壊。弾痕に残る銃弾と現場近辺の状況から銃撃はアメリカ軍によるものとほぼ断定せり。またアメリカ軍より、UNOSOM IIから了承を得ず独断でソマリア国民同盟の幹部殺害作戦を実行したとの通告有り」


「米が食いたい。至急、許可を送られたし」


 余りにも、苛烈な内容だった。

 郵便ポストへの銃撃?まさかアメリカ軍が?

 アメリカといえば、アメリカ軍という国の軍隊を有するアメリカと、憲法九条のために郵便防衛庁という郵政省の下の武装組織しか存在しない日本という立場上の関係から、国対国の同盟にこそ至っていなかったが、それでも日本とアメリカは同盟に類する友好的関係を今まで築いてきた間柄であったはずだった。


 そんなアメリカ軍が、遣ソマリア独立統合郵便防衛部の設置した郵便ポストを銃撃し、そして損壊させた?


 まさか、そんな事ある筈が無い。

 あったとしてもアメリカ軍制式の弾は4.85×49mmNATO弾だ。鋳鉄製の郵便ポストが損壊って言ったってそう大した損傷になる筈が無いのだ。まったく大げさな。


 しかも「米が食いたい。至急、“許可”を送られたし」とはどういうことか?

 モガディシュ中央郵便局で市民にも開放されている食堂が繁盛しているのは聞いているが、その為に不足している食料は先日追加分を発送してつい2日前にはソマリアに到着済みだったはず。しかも許可と来れば……、

 彼らが欲しているのは米では無く、米国(アメリカ)食う(攻撃する)許可という事か!?


 まさか、そんな事、たとえ郵便ポストが銃撃されたとはいえ、そんな大事にしてしまったら、どうなってしまう事やら。




 しかし、夜が明けると共にソマリアの隣国ケニアの日本大使館からファクシミリで送られてきた続報が、慎重論で纏まっていた郵政省や日本郵便防衛庁の彼らでさえ、対アメリカ開戦を決意させた。


 その続報、それは当時においてファクシミリでしか送れなかった情報だった。


 それは1枚の写真。


 鋳鉄製の頑丈な、赤い郵便ポスト。


 偶に交通事故なんかで車に衝突されても、ちょっとした傷で済むくらい頑丈な郵便ポスト。


 それが見事なまでに銃撃で残骸と化した、無残な姿となってしまった郵便ポスト。


 それにもたれ掛かっている一つの死体。


 それを見た彼らの心は一つに纏まった。


「ああ、コレは駄目だ。許せない。アメリカ軍は、許せない。ツブス」




 9月19日、JST7時20分。


 日本郵便防衛庁は日本各地の郵便局に駐在する郵便防衛部員らに戦闘準備を下令。

 これはアメリカへの漏洩を恐れ、郵政省と日本郵便防衛庁によって航空速達郵便により各地の郵便局に届けられる事となった。




 9月19日、JST12時00分。


 この日、月曜日の昼飯時で賑わう東京で号外が空を舞った。


 日本郵便防衛庁発足以来初の大規模海外派遣任務という事で日本国民の耳目を集めていたソマリアというアフリカの小国。

 彼の地で郵便ポストが銃撃されて破壊された。そのニュースは日本中を駆け巡った。あの、破壊された郵便ポストと、それにもたれ掛かる死体の写真と共に。


 守られるべき郵便ポストが、アメリカ軍に破壊された。


 その事実は日本国民から郵政省と日本郵便防衛庁、そしてソマリアへの同情を集める事となり、また郵便ポストごと敵に銃撃をする野蛮なアメリカ軍への非難の声も上がる事となった。


 これにより日本政府はアメリカ政府へ遺憾の意を表明すると共に、この事件のあらましについて説明と謝罪を要求した。―――そうしなければ日本郵便防衛庁が何をしても知らないぞと、そう言い含ませながら。




 9月19日、JST23時15分、EDT19日10時15分。


 アメリカ政府より日本政府へ以下のコメントが発表された。


「アメリカ軍による郵便ポストの銃撃は偶発的戦闘による残念な結果であり、深く謝罪したい」


「しかしながら、遣ソマリア独立統合郵便防衛部がモガディシュ中央郵便局にアイディードらSNA指導者らを匿っているという事実もアメリカにとって甚だ遺憾である。アメリカとしては早期にアイディードらSNA指導者の身柄がアメリカ軍へ引き渡すよう要求する」


 この時、日本政府は確信したという。主に“残念な結果”という言い回しと、“しかしながら”に続く文面によって、日本政府は破滅的結果の訪れを確信したのであった。


 そして郵政省と日本郵便防衛庁はアメリカへ以下のように返答した。


「遣ソマリア独立統合郵便防衛部はアイディードらSNA指導者を匿ってなどいない。また郵政省と日本郵便防衛庁はアメリカ軍のソマリアからの即時撤退を要求する」


 さらに郵政省と日本郵便防衛庁は遣ソマリア独立統合郵便防衛部に以下のように電報を送信した。


「米は9月21日に発送予定。日本時間1700時発の107号便に搭載予定。発送完了後に再度連絡する為、発送連絡あるまで米料理をしない事を厳守せよ」




 9月21日、JST17時00分、EAT11時00分、EDT6時00分。

 

 東京都港区赤坂にある駐日アメリカ合衆国大使館の前に12両の62式郵便戦車が停車、一斉に砲塔を大使館建物へ旋回させた。

 これに駐日アメリカ大使らは、まさかラタキア沖海戦の山城丸炎上事件の時の様な大使館報復砲撃をするのではないかと混乱を起こした。

 しかもよく見てみれば、大使館を警備しているはずの日本警察の警官らは、大使館に砲口を向ける郵便戦車に見向きもせず無視を決め込んでるではないか!

いったいどういう事かと大使館前の赤坂警察署米国大使館警備派出所に抗議の電話をしてみれば―――


「ああ、知らないのですか?アメリカが決めた事ですよ。昭和25年、西暦だと1950年にGHQが定めた郵便保護令で定めるところによれば、アメリカは郵便の敵なんですよ。ソマリアで郵政省が設置した郵便ポストを銃撃して破壊したアメリカは、郵便の敵なんです。だから日本郵便防衛庁があなた達に何をしようが、それが郵便保護令で定める限りであれば、私達日本警察は何の手出しも出来ませんよ」


「そ、そんな馬鹿な!ソマリアは日本国内ではないだろうが!」


「それがですねぇ、郵便保護令には、日本国内に限るとか、そういう文言は一切含まれていませんでして。まあ、まさか日本の郵政省が国外に郵便ポストを設置して、その郵便ポストがアメリカ軍に攻撃されるとは、流石のGHQも想定出来なかったのでしょうね」


「そんな、そんな……」


「あとですね、もしアメリカ軍が日本郵便防衛庁とドンパチして、それがアメリカ軍基地や大使館の敷地外だった場合、我々日本警察はアメリカ兵を銃刀法違反で逮捕させて頂きますので、それはご承知願いますね。もちろん逮捕後の身柄に関しましては日米地位協定に基づきますが、逮捕に応じず抵抗する場合は射殺も已む無しとの命令が出ておりますのでご注意願います」


「…………」


 もう既に、彼は茫然自失となって何も聞けていなかった。




 9月21日、JST17時30分、EAT11時30分、EDT6時30分。


 幸いにして62式郵便戦車12両、正確には62式郵便戦車が11両と71式通信指揮車が1両が駐日アメリカ合衆国大使館へ発砲する事は無かった。


 その代わりと言うには酷だが、71式通信指揮車から降りてきた日本郵政省の郵便配達員と日本郵便防衛庁の郵便防衛部員らがアメリカ大使に配達した文書はまさに106mm無反動砲よりも破壊的な威力を内包していた。

 本人限定受取の書留郵便によって駐日アメリカ大使カーター・モンデールに直接手渡されたその郵便封筒には、でかでかと“宣戦布告文書在中”と明記されていたのである。


 駐日アメリカ大使カーター・モンデールにとってそれは、皇居で信任状捧呈式を終えてから僅か5時間にも満たない時間に起きた出来事だった。

 アメリカ合衆国の副大統領さえ勤め上げた彼の名は、大使になって最短で宣戦布告された人物として、またもや世界に名を残す事になったのだ。

あ~、本人限定受取の書留郵便で駐日大使宛に“宣戦布告文書在中”、送ってみたいですねぇ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ