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遣ソマリア独立統合郵便防衛部~郵便差出箱1号、それは死守するべき郵便の象徴~

 モガディシュ中央郵便局4階の食堂の常連客の一人に、モハメッド・ファッラ・アイディードという人物がいる。

 彼はソマリア国民同盟(SNA)の指導者の一人で、つい先日も民兵をけしかけて国連軍のアメリカ兵に死傷者を出させるなど、SNAきっての反国連軍、反アメリカ派という事で知られている。


 そんな彼がなぜ、UNOSOM IIの一員たる遣ソマリア独立統合郵便防衛部の本拠地に入り浸っているかといえば、ただ単純にSNAや、SNAと統一ソマリ会議(USC)との会合場所にモガディシュ中央郵便局の食堂が選ばれたからだ。

 単純な話、SNA内でも部族間対立があるのだからその会合は諍いが起きるのも茶飯事。そうであるから強力無比な仲裁者(郵便防衛部員)が居るモガディシュ中央郵便局の食堂は会合場所として殊更に好まれてしまったのだ。

 なにしろモガディシュ中央郵便局の局内に立ち入るのに防衛部員による入念なボディチェックが実施され、さらに局内では完全武装の防衛部員が警備のため多数配置されていて、とても万が一など起こりようも無いのだから。


 さらに、モガディシュ中央郵便局の周辺の治安維持は遣ソマリア独立統合郵便防衛部の担当なのであるが、これもSNAやUSCにとって都合が良かった。

 なにせ何もしなければ、いくら銃を掲げながら車を走らせようが、倉庫に武器弾薬を山程溜め込もうが、街中に設置された郵便ポストだとかいう、よく分からない〒マークの付いている赤い鉄塊に手を出さなければ、彼ら日本人(郵便防衛部員)は概ね友好的だったからだ。

 いざアメリカ軍を襲撃しに行こうと向かう途中で武装トラックが故障してしまった時など、通りがかった日本人の戦車部隊に見つかってしまい冷や汗が止まらなかったが、なんと彼ら日本人は武装トラックを修理するのを助けてくれたのだ。

 荷台に載せた機関銃だって見えていない筈が無いのに、そんな些細な事気にしないと言わんばかりの風体で手早く修理を済ませてしまうなんて信じられなかった。むしろ戦々恐々としていたのは、武装トラックが再び走り出すまでの間、何台もの戦車や馬鹿みたいに巨大な銃(七〇式郵便対獣砲)を抱える兵士達に囲まれていた我々だったのだ。


 しかし、郵便防衛部が自分達の根拠地にアメリカが指名手配している人物や武装グループが入り浸っているという事態に気付いたのはつい最近の事だった。

 それまで多数の勢力が鎬を削っていたモガディシュ市街のド真ん中に、突如として巨大な戦力を引き連れて拠点をブチ建ててしまったものだから、各々の武装組織は攻めるタイミングを見失い、さらには膨大な数の戦車による連日のパトロール(スチームローラー)馬鹿みたいに巨大な銃(七〇式郵便対獣砲)を軽々と扱う日本人兵士を見て、早々に戦意を喪失してしまったのだ。

 この為に、アイディードがせめて日本人をからかってやろうと、偽名を使わずに自分の郷里へ手紙を郵便で出した事で郵便防衛部はようやく気付いたのだ。あんなに大人しい彼らが武装グループ(SNAとUSC)だったのかと。

 まったく灯台下暗しとしか言いようがないのだが、ソマリ人の見分けが付く防衛部員が殆どいなかったというのも大きな原因であった。


 そしてアイディードは狡猾な事に、自分が立ち入っているモガディシュ中央郵便局がUNOSOM IIの関連施設だと正しく認識しつつも、それが黄色人種(日本人)だけで運営されている事に注目して、配下の民兵達に黄色人種の国連軍部隊への襲撃を控えさせ、それ以外の国連軍部隊へのみ襲撃をさせるようにしたのだ。

 このためにソマリアにおいて襲撃被害を受けるのはアメリカ軍など欧米各国の白人系部隊ばかりとなり、そのかわり郵便防衛部やインド軍など非白人系部隊の被害はほとんど無くなった。


 こうして頭を痛める事となったのは遣ソマリア独立統合郵便防衛部やアメリカ軍を始めとするUNOSOM IIなどの国連部隊である。白人系で構成される欧米各国とそれ以外の国とで深い亀裂が生じてしまったのだ。


 遣ソマリア独立統合郵便防衛部としては、モガディシュ中央郵便局や周辺地域で大捕り物などやりたくも無い。もしそんな事をすればモガディシュ中央郵便局は忽ち報復の的となり、陥落する事は無くても客が訪れる事は二度と無くなるであろうからだ。

 アメリカ軍や他欧州など白人系部隊としては、アイディードをすぐさま月まで吹っ飛ばしてやって死んだ戦友らの仇を討ちたい。報復も全て纏めて粉砕してしまいたかった。

 インド軍やパキスタン軍など非白人系部隊としては、ただただ現状維持を望んでいた。それと言うのも単純な感情論として、白人のとばっちりを受けるのは避けたかったのだ。


 そして結局アイディードの目論見通り、UNOSOM II内での内部対立により当面の方針は現状維持に決定。参加人員数で上位三組織のインド軍、パキスタン軍、日本郵便防衛庁が揃って現状維持を唱えた事による決定だった。


 しかし、UNOSOM IIの下で治安維持を専任とし、アメリカ軍を主力とする多国籍軍統合任務部隊(UNITAF)では、恐るべき事に全く異なる方針が決定したという。それも遣ソマリア独立統合郵便防衛部などUNOSOM IIには内密に―――




 1993年9月18日。


 この日も、アイディードを始めとするSNAの重鎮らがモガディシュ中央郵便局の食堂に集って会合を開いていた。

 最近の議題、というよりも会合の目的はたいてい決まって、国連軍白人部隊への攻撃を推し進めるアイディードを、穏健派に属する重鎮らが諌める事にあるようだ。そんな空気感はソマリ語を解せない郵便防衛部員でさえ感じ取る事が出来た。


 そんな時だった。一人のソマリ人の青年が食堂に駆け込んできたのは。

 SNAの構成員であるらしい彼はアイディードらのいるテーブルに駆け寄り、緊迫を極めた声で何かを伝えている。

 よく見ればその青年は身体のあちこちを負傷していて、それを見た郵便防衛部員らも只ならぬ事態が起こった事を容易に察し得た。




 そしてこの時、いつもの様に郵便戦車4両でモガディシュ市街の郵便ポストへ収集業務兼パトロールに就いていた郵便防衛部員らが、とあるモノを発見した。


 戦闘の痕跡、それもつい数時間前まで銃火が飛び交っていたであろう生々しいソレだ。

 夥しい数の民兵が血を流して倒れ、あるいはその半数はもう既に事切れているように見えた。


 UNOSOMの活動が軌道に乗るまでソマリアの全土で見られていた光景が、最近ではあまり見る頻度も減っていていた大規模な戦闘があったのだろう。


 エグイモノを、生々しいモノを見てしまった、そう彼らに感じさせた光景だった。


 だがその光景の中に一つ、決してそうなってはいけないモノがあった。


 それは円柱の形をしていた、はずだった。


 それは頑丈な鋳鉄で出来ていた、はずだった。


 シンボルカラーである赤色は、今は違う赤色で塗られていた。


 郵便差出箱1号、それは丸型ポストとして知られている、1949年から日本で運用が始まり1970年からは構造材に浸炭装甲を用いて耐弾性を高めた郵便差出箱1号(角型)への更新が始まっていた郵便ポストの一種である。

 後継に居場所を譲った後も予備機材として保管されていたその一つは、ソマリアの郵便行政復興という新天地で新たな活躍をするはずだった。


 それが、それが、今や、何という事だろうか。


 もう基礎から上が殆ど残っていない。しかも残っている箇所は弾痕まみれ。


 特徴的な赤色の塗装は殆ど残っていない。その代わりに鋳鉄の地肌は、郵便ポストにもたれ掛かる死体と共に赤く血塗られていた。




 誰だ?


 誰が、壊した?


 誰が、我々の郵便ポストを、こうも見事に破壊してくれた?


 誰だ?

……アメリカ軍、アイディードらSNAに戦争仕掛けたつもりが、ついでにとんでもない所にもやらかしてくれたそうです。

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